晴れ、ときどき映画三昧

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『利休』 80点

2012-05-10 16:35:44 | 日本映画 1980~99(昭和55~平成11) 

利休

1989年/日本

華やかな桃山文化と草月流美の極致を映像化

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

野上彌生子原作「秀吉と利休」を勅使河原宏が「砂の女」以来17年振りに監督した。当初のキャスティングは利休のマーロン・ブランド、秀吉にビート・タケシを考えていたほど斬新なアイディアでスタート。脚本を赤瀬川原平に委託しただけでも革新的で今なら劇画的なイメージを持っていたのだろう。
原作は秀吉・利休を均等に扱いながらそれぞれの心のすれ違いを描いているが、本作は利休の茶頭としての生きザマが中心。茶の湯を諸国の武将へひろめながら自らを高め深める利休は秀吉にとって権力の頂点に立つまで利益共同体であった。帝に黄金の茶を供し、小田原城を落とし蜜月のときが過ぎると、心底屈服しない家康・政宗などの大名を難なく弟子にする利休に嫉妬と恐怖心を覚える。
華やかな桃山文化を映像化するため、贅の限りを尽くした本物へのこだわりは尋常ではない。出てくる茶碗は桃山時代の一級品が登場し、高価な絨毯も本物だという。さらに三代目草月流家元である監督の生け花は時代を超えて美の極致へと誘ってくれる。衣装は「乱でオスカー受賞のワダ・エミによるデザインで絢爛豪華。充分海外への賞狙いを意識したものだろう。同時公開の熊井啓監督・三船敏郎主演の「千利休 本覺坊遺文」とよく比較されるが映像美ではこちらが断然上。
利休を演じた三國連太郎は脂ぎっていて枯れた境地はなく内政を牛耳ったエネルギーがみなぎっていたが、かなり抑えた演技は好感が持てた。秀吉の山崎努はかなりオーバーで日本人が見ると不自然。ほかに出番は少ないが信長に松本幸四郎、家康に中村吉衛門の兄弟、三成に坂東八十助などの歌舞伎役者を配し時代劇としての重厚さを備えている。女優陣は利休の妻・りきの三田佳子がいい。夫の危機を心配しながらも<這いつくばって生きてゆくことを嫌う夫>への気配りは品格があった。ほかに北政所に岸田今日子。絢爛豪華な衣装で名古屋弁を繰り出す賢妻振りは微笑ましい。脇役では井川比佐志の山上宗二が手堅い。
モントリオール、ベルリンで<日本の美>が高評価されたが、作品としての評価はいまひとつだったのも頷ける。総合評価では「本覺坊・・・」に軍配を挙げたい。