晴れ、ときどき映画三昧

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『裏切りのサーカス』 85点

2012-05-07 14:05:12 |  (欧州・アジア他) 2010~15

裏切りのサーカス

2011年/イギリス=フランス

難解さが面白さに変わる快感を味わえるミステリー

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

「寒い国からきたスパイ」「ナイロビの蜂」など英国諜報部(M16)出身のジョン・ル・カレ原作(ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ)を映画化した128分。「ぼくのエリ 200歳の少女」のトーマス・アルフレッドソンが独特の時間・空間を緊張感溢れる映像にして、小説とはひとあじ違う緊迫感を持たせたミステリー。70年代初頭の英国諜報部(サーカス)を舞台にソ連に通じる潜入スパイ(モグラ)を4人の容疑者から探し当てる役目を担った寡黙な初老の元諜報部員スマイリー。
元同僚の容疑者とはティンカー、テイラー、ソルジャー、プアマンの4人。元ボスでソルジャーを右腕として重用していたコントロールがつけたコードネームである。
一見単純なハナシを複雑にする要因はモグラの存在を知りうる実働部隊(スカルプ・ハンター)の2人。ひとりはジム・ブリトーで、ハンガリーの将軍を亡命させるためボスのコントロールが内命した男。もうひとりはボリスというスパイの動向を探るためイスタンブールに派遣されたリッキー・ターで、ボリスの妻イリーナに恋をして二重スパイの疑いを掛けられた男。
ピーター・アストロハーンとブリジット・オコナー夫妻の脚本はモグラ探しをするスマイリー、ブタペストでコントロール作戦を失敗するブリトー、そしてイスタンブールでイリーナに恋して窮地に立つターの3つのストーリー展開をジグゾー・パズルのように同時並行的に進行させている。それだけでなく、4人の容疑者の言動や、それを探るスマイリーの孤独な要因である妻アンとの別れの回想シーンなど伏線からも目が離せないなど、まるで観客が一緒に参画しているような錯覚に陥るような雰囲気を醸し出している。
優れたミステリーは事前情報なしで見ても、ストーリーを追っていくうちミスリードしながらも伏線が明確にあって最後はなるほどと納得してスッキリするものである。ところが本作は原作を読むか事前に渡されたギャガ・タイムスというリーフレットを見て頭に入れておかないと<リピーター割引き>を売りにしているほど難解である。単純なストーリーの割に登場人物も多く、主要人物の本名とコードネーム・相関関係を予め頭に入れておくと難解さは半減するのでお薦め。
映像は総てスタイリッシュ。当時のファッション・車・タイプライターや電話などの備品、部屋の壁紙・エレベーターなど細かい気配りが行き届いていてそのセンスの良さは抜群。とくにポール・スミスの特別協力によるスーツ姿は、一癖も二癖もある男たちの<野望・忠誠・友情・裏切り・愛憎>を際立たせてくれる。
スマイリーを演じたゲイリー・オールドマンは抑えた演技で孤独な男を緻密に表現してオスカーにノミネートされている。ほかにもコリン・ファース、トム・ハーディ、ジョン・ハート、トビー・ジョーンズ、マーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチなど英国の新旧俳優たちが持ち味を発揮していて、彼らの演技をみるだけでも充分楽しめる。
冒頭ブタペストのカフェのシーンは「アンタッチャブル」のシカゴ駅と並ぶ緊張感タップリで監督・スタッフのセンスの良さを感じた。そしてシャンソン「ラ・メール」の音楽とともに一気にたたみかけるエンディングは難解さから面白さに変わる爽快感となってゆく。