晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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『切腹』 85点

2012-04-03 14:17:22 | 日本映画 1960~79(昭和35~54)

切腹

1962年/日本

武家社会の矛盾を緻密に描いた告発ドラマ

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

滝口康彦の短編「異聞浪人記」を社会派・小林正樹監督、橋本忍脚本で映画化。江戸時代泰平の世になりつつある寛永7年。「切腹」をテーマに武家社会の偽善と武士道の矛盾をついた復讐劇であり告発ドラマである。
本格的な時代劇でありながら、現代社会でもありそうな<本音と建前>を緻密に構成し、回想シーンを取り入れた緊迫感あふれる脚本は、名作「羅生門」と双璧と言っていい。
彦根藩江戸屋敷に芸州浪人・津雲半四郎がやってきて「座して死を待つより、腹かっさばいて遭い果てたい。ついては庭先を借りたい。」との申し出があった。喰いつめた浪人が金をねだる迷惑行為が多発していたが、井伊家は希望どおり「切腹」させ、この騒動が収まったという覚書きが残っている。井伊家にとってはハタ迷惑な行為を見事収めた美談だが果してこの真相は?<井伊の赤備え>で名高い譜代大名井伊直政を先代とする彦根。外様の主君福島正則が先代の安芸とは関ヶ原で一番槍を争ったライバル。泰平の世には外様の悲哀は目に見るより明らかで粛清される運命にある。
浪人・津雲半四郎を演じたのは仲代達矢。デビュー以来「人間の条件」など監督お気に入りで、前年「用心棒」この年「椿三十郎」と立て続けに黒澤時代劇でニヒルな敵役をしている。今回は「語りの芸」を魅せ、脂の乗り切った演技で堂々たる主演ぶり。
武家社会の権化である井伊家・家老、斎藤勘解由を演じた三国連太郎は一歩もひけを取らない名演。名誉を守るためには手段を選ばぬ冷徹なリーダー振りは現代社会の経営トップの隠ぺい体質を想わせる。
金をせびり「切腹」させられた若き浪人・千々岩求女は、いざ「切腹」というときに一両日待って欲しいと言いだすなど武士の風上にも置けぬ腰抜けに見えた。2枚目俳優石浜朗に相応しくない役柄だ。
ところが半四郎の回想から、お家のために「切腹」した親友の息子で娘・美保の婿で止むにやまれぬ事情もあった。この絵解きは橋本シナリオが絶妙で最大のハイライト。それだけに真剣も売り払い竹光で悶絶しながら切腹を強要、舌を噛み切って死なせた井伊家の所業に求女の哀れさが伝わってくる。
切腹をさせるよう進言し介錯をしたのは井伊家の剣の使い手・沢潟彦九郎。丹波哲郎は適役で荒涼とした護持院原の真剣での決闘シーンは語り草となっている。仲代達矢が及び腰に見えたのは気のせいか?宮島義勇のカメラはモノクロならではのハイコントラストな映像美で、構成がぴったり決まって一服の絵を観るような見事さ。決闘シーンでは背景の空を撮るために2週間を要したという、映画黄金時代を懐かしむ逸話を残している。

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