晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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『ルート・アイリッシュ』 85点

2012-04-07 15:24:09 |  (欧州・アジア他) 2010~15

ルート・アイリッシュ

2010年/イギリス=フランス=ベルギー ほか

社会派ケン・ローチの弱者を見守る眼は健在

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆85点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆85点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

筆者の1000件目のレビューは「夜空に星のあるように」(67)以来、イギリスの労働者階級の現実から目をそらさず、さまざまな題材を取り上げてきた社会派ケン・ローチが、イラク戦争でのコントラクターと呼ばれる民間兵をテーマにしたサスペンス・タッチの人間ドラマ。
題名はバグダッド空港と米軍管理地域グリーン・ゾーンを結ぶ12キロ道路のこと。テロの標的に最もなりやすく危険な道路といわれているところで亡くなった民間兵のフランキー。故郷リバプールで葬儀が行われたが、親友で兄弟のように育ったファーガスには何故亡くなったか納得が行かない。先に帰国していたファーガスは、戦争後遺症でアル中となり暴力事件で留置されている留守中に何度もフランキーの電話が入っていたからだ。
ファーガスは葬儀に来ていた馴染みの女性・マリソルから、フランキーのメモとイラク人運転手の携帯を受け取った。そこには仲間がイラクの子供を射殺した衝撃映像とフランキーが仲間に対し激怒する映像が残っていた。
イラクには16万人の民間兵がいたという。そこにはPMC(民間軍事会社)という存在があった。高額の報酬で若者を募り、現地に派遣する戦争専門の派遣会社で、暴利を貪っている。それは恩給も必要なく国にとっても好都合だったからで必要悪と言ってよい。K・ローチは製作のレベッカ・オブライエン、脚本のポール・ラヴァティとともに民間兵たちを綿密にリサーチしてその実態をリアルに仕立て上げている。
ドラマはファーガスとフランキーの友情とフランキーの妻レイチェルとの愛の物語もしっかり描かれていて硬派のK・ローチにしてはサスペンス仕立てといい新機軸の作風だ。出演者も大スターを起用していないため、とても臨場感があっていい。TV出身で映画初出演ながら繊細さと精神を崩壊し暴力的に振る舞う複雑なファーガス役をしっかりした演技を見せたマーク・ウォーマックと、ともに映画初出演の美しいレイチェル役のアンドレア・ロウが好演している。
実例が示すように連合国軍は<指令17条>でイラク人を殺傷させても身の危険を感じる状況であれば処分されないという悪法で守られている。<悪いときに悪い場所へ>というだけではすまされない理不尽で後味の悪いストーリーをクリス・メンゲスのカメラは奇をてらわず、とてもオーソドックスな映像で捉え、観客に訴えてくる。
オスカーを獲った「ハート・ロッカー」や「グリーン・ゾーン」などイラク戦争をテーマにした既存の作品とは一線を画した<法律でも守れない弱者の存在>を浮き彫りにして弱者を観る眼は健在だ。K・ローチは、先進諸国へ醜い戦争の愚かさを伝えるとともに、何の罪もないイラク民間人の尊厳を無視した強い憤りのメッセージを伝えたかったのだろう。