晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
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『ルイーサ』 85点

2010-10-23 15:14:19 | (欧州・アジア他) 2000~09

ルイーサ

2008年/アルゼンチン=スペイン

ほど良いユーモアで生きる勇気を与えてくれる

総合★★★★☆ 85

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆85点

アルゼンチンの地下鉄を舞台にした長編脚本コンクールで最優秀作品を受賞したロシオ・アスアガの脚本。これが長編デビュー作のゴンサロ・カルサーダが監督した。
ブエノスアイレスで愛猫・ティノと暮らす初老の女性ルイーサ(レオノール・マンソ)。決まった時間に決まった服装で毎日アパートを出てバスに乗り霊園の受付と女優のお手伝いの副業をこなし帰ってくる日々。ティノが死んだ日に本業と副業を同時に失い、手元には20ペソ(500円)しか残っておらずティノの火葬すらできない。若いころ、夫と娘を失った悪夢に苛まれる。
前半はシニカルでほど良いユーモアで包まれ、孤独なルイーサの日々の暮らしが伺える。
ここから彼女の開き直りが始まり、哀愁あるスーペル・チャランゴの音楽のトーンもポジティブに変わてくる。銀行口座の解約通知を手に乗ったバスが故障して、生まれて初めて地下鉄に乗り別世界があることを知る。
ひととの交流を避けてきた世間知らずのルイーサに、苦境を打開するための悪戦苦闘ぶりによって生きる勇気と力が自ずと生みだされる。そして心の内を聴いてもらえる相手がいることで心が和んでくることも経験する。
作品では詳しい説明は一切ないが、夫と娘を失ったのは、’76の軍事政権下の独裁政治による紛争の被害によるものだろう。老い・失業・貧困と孤独な身に忍び寄る3重苦をブエノスアイレスの街並みが癒してくれる。優しさが心に残る作品だ。
ルイーサを演じたのはアルゼンチンが生んだ国民的舞台女優レオノール・マンソ。日本の杉村春子を思わせる名女優の趣き。ルイーサを癒してくれたのは、片足を失くしながらも飄々と日々を過ごすオラシオ役のジャン・ピエール・レケラス。惜しくもこれが遺作となってしまった。もうひとりヒトの良い管理人ホセ役のマルセロ・セレが暗くなりがちなトーンを和ませてくれている。