晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

『大統領の理髪師』 80点

2010-04-05 12:48:44 | (欧州・アジア他) 2000~09

大統領の理髪師

2004年/韓国

韓国近代史をユーモアとペーソスで描く

プロフィール画像

shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

韓国の’60~’70年代に起きたシリアスな事件を、ユーモアとペーソスを交えながら小市民の視点で描いた家族愛の物語。
これが長編デビューのイム・サンチャン監督・脚本で、主演に「JSA」「殺人の追憶」のソン・ガンホが愚直ながら家族思いの理髪師に扮し、見事な演技を見せている。恐妻家の女房に「オアシス」で難役をこなし驚かせたムン・ソリ、息子にイ・ジェウンが語りを兼ねて全体を和らげている。
いまでこそ、お隣の国として文化交流も盛んな韓国だが、つい20年前までは戦前の植民地時代の影響から反日感情も高くこのドラマの時代を知ることは少ない頃である。フィクションとはいえ、李承晩政権から朴正熙政権に移った20年間の政治事件は正確に捉えられ、あたかも「フォレスト・ガンプ」韓国版の趣きである。
不正選挙が横行していた李政権。官邸のある孝子洞で床屋を営むハンモ(ソン・ガンホ)。政治に無関心ながら街の誇りである大統領のため盲目的に不正選挙に加担してしまう。学生運動の最中4・19に生まれた息子ナガンを愛し、革命後クーデターで朴政権になると店の額の写真を素直に入れ替える庶民感覚の持ち主。ひょんなことから大統領専属の理髪師として官邸に通い、気に入られる。
平凡な理髪師にとって官邸での昼食会を家族で呼ばれるなど大変名誉なこと。だが子供同士の諍いがあって不条理なことを思い知らされ、挙句の果て北のゲリラ事件では容疑者として警察に取り調べを委託する愚直なまでの律義さが切ない。
下痢をしただけで「マルクス病」として疑われるというのはフィクションだが、諜報活動による不正な検挙は事実であろう。最近李政権独裁下では「漢江の奇跡」といわれる経済復興の成果が見直され、功罪半ばといわれている。が、日本名を持ち満州日本軍に志願経験のある親日家の大統領は、反日感情が収まらない当時の韓国にとって快いものではなく、歴史的には圧政時代といえる。ベトナム戦争でアメリカに最も協力し、結果多数の戦死者を出したことも見逃せない。この映画では、プレスリーとギター、ジーンズとロングヘアの米文化に憧れ、兵役に出た床屋の助手チンギ(リュ・スンス)が退役後無口で別人のようになったことで象徴的に描かれている。
エピソードを笑わせながら挿入し、この時代を庶民はどのように過ごしていたのか?家族愛に勝るものはない。