晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「恋人たち」(15・日)80点

2016-04-11 15:40:36 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ひたむきな3人の生き様をリアルに切り取った橋口監督の秀作。

                   

 婚姻届けを出したときの思い出を訥々と語る青年は、橋梁点検の仕事では職場で認められているらしい。
 夫と姑と同居して無味乾燥な日々を過ごす平凡な主婦は、毎日自転車で弁当屋のパートに出掛ける。
 クイック・レスポンスが自慢のエリート弁護士は女子アナの離婚相談をビジネス・ライクに受けている。

 題名から連想する「恋愛もの」とは趣が違うこのドラマは、ある日理不尽な仕打ちにあったり、夢見るような出会いがあったり、長年心に秘めていたことがあっけなく崩れていったりする。

 いくつかのエピソードをもとに繰り広げられる群像劇はとっても辛く哀しいのに、何処かに微かな光を見出しながら生きていく人間を温かく見守って行く。

 橋口亮輔監督は「ぐるりのこと」(08)などで邦画ファンにはお馴染みらしい。7年ぶりの本作が筆者にとって初見で、そのユニークな才能を実感・堪能した。

 キッカケは彼のワークショップで3人のキャスティングが決まっていて、そこから夫々のキャラクターを活かしたストーリー展開を組み立てて行く手法で製作されている。

 <才能ある監督が、今撮りたいというテーマを新人俳優を起用して自由に作る>という松竹の企画により陽の目を見た。

 したがって主要な3人<篠原篤・成嶋瞳子・池田良>は殆ど無名の俳優だが、それぞれがはまり役。3人を取り囲む人たちに、光石研、安藤玉恵、木野花、リリー・フランキーという個性派俳優を配して見事に溶け込ませている。

 なかでも成嶋の何処にでもいそうな平凡な主婦と、安藤の逞しい水商売女に妙な感動を覚えた。

 無差別殺人、東京オリンピック、皇室関連、医療費問題、詐欺事件など時事テーマを織り込みながら、ときには深刻に、ときにはコミカルに、ときにはほのぼのと<不器用ながらひたむきに生きる人々>が描かれる。

 140分の長さを感じさせない物語は「人間なんとかなるよ。腹いっぱい食べて笑っていたら」という青年の上司・黒田(黒田大輔)のセリフに妙な説得力があった。
 

 

「海街 diary」(15・日) 70点

2016-01-11 17:03:35 | 日本映画 2010~15(平成23~27)
 ・コミックファンも満足?是枝監督・脚本のファンタジー。

                   

 今や日本映画のエース的存在の是枝裕和監督が、マンガ大賞を受賞した吉田秋生のコミックを実写化。

 香田幸・佳乃・千住の3姉妹が住む鎌倉に、山形に住む異母妹すずを迎え4人で暮らすことになり、心のわだかまりを超え真の家族となれるか?を丁寧に描いたファンタジー・ドラマ。

 物語は生と死という根源的なテーマを潜在化しながら、ドラマチックな展開を抑制した全編に優しさが溢れ、その静謐な佇まいは原作ファンの期待を裏切らない。

 その分従来の是枝作品にあった毒気が薄れ、物足りなさも感じた。出品したカンヌ映画祭では舞台やテーマが小津作品に似ていると思われ、日本人ならではの感性は理解できなかったようで、空振りに終わってしまった。どちらかというと本人は成瀬を信望しているので不本意だったのでは?

 豪華なキャスティングである。長女に綾瀬はるか、次女に長澤まさみ、3女に夏帆を配し、異母妹に広瀬すずという4姉妹は、かつて「細雪」(83)の岸恵子・佐久間良子・吉永小百合・古手川祐子に近い豪華な顔ぶれ。

 性格描写もキッチリしていて、しっかり者だが周りにも厳しく自分の不倫に葛藤する長女、前向きで明るいがルーズなところがあり年下の恋人に甘い次女、ひょうきんだが冷静に物事を見極める3女。

 ヒロインすずは、本来明るい素直な子だが気丈で感情を表わさない。サッカー・クラブ「湘南オクトパス」で本領を発揮、徐々に馴染んでいく。

 祖母の7回忌で突然現れた3姉妹の母・都(大竹しのぶ)が幸と和解し、すずも本音=不倫相手の娘であることの苦悩を吐露する。

 桜・紫陽花・紅葉で四季の移ろいや七里ヶ浜の風景が心を和ましてくれる。この手の作品に欠かせない食事シーンも生シラス丼・シラストーストなど土地料理とともにさり気ないカメラワークで楽しませてくれる。

 テレビマンユニオンのAD時代を知っている是枝ファンの筆者としては、すべてに欠点はないが、物足りなさも残った。次回作に期待したい。

 
 

「きみはいい子」(15・日)80点

2016-01-05 15:27:13 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ また一人、有望な若手監督が出てきた。それは、呉美保。

                    

 14年モントリオール映画祭の監督賞を受賞した呉美保(38歳)。受賞作品「そこのみにて光輝く」は見逃したが映画ファンには注目のヒト。念願叶って本作を鑑賞して、その能力の高さに舌を巻いた。

 原作はこれまた若手作家の中脇初枝(41歳)の短編5話で、そのうち3話を高田亮が脚本化している。

 坂のある町(小樽)を舞台に、新米小学校教師・岡野(高良健吾)、単身赴任の留守を守り娘あやねとマンション住まいの雅美(尾野眞千子)、誰とも会話のない独居老人あきこ(喜多道枝)の3人を中心に日々の営みを切り取った群像劇。

 筆者には登場人物に近い身内がいないので、ニュースで見る現代社会の社会問題をリアルに切り取って見せるこのドラマは、作り方如何では単なる他人事にしか映らなかったことだろう。

 感動の涙溢れるテイストを一歩手前で抑えた、かなり的確でバランスのいい作品で、同時に観た「海街diary」(是枝裕和監督)と比べても遜色ない。緻密な構成による脚本の出来の良さとそれを支えた出演者たち、その全てを巧みに演出した監督の手腕によるものだろう。

 なかでも自閉症の小学生役の加部亜門やあやね役の三宅希空を始め、子供たちの自然な演技は大人顔負け。子供と動物には敵わないと大人の俳優は嫌がるが、高良健吾・尾野眞千子というTVドラマでもお馴染みの俳優が役柄を真摯に取り組んでいるのに好感が持てる。

 そして我々世代には幼かった娘と観ていた「フランダースの犬」の声優・喜多道枝が素晴らしい。80歳の実年齢を活かし、認知症の兆しにおびえながらも人としての優しさを忘れない老人役は、心の救いとなっている。

 脇を固めるママとも池脇千鶴と先輩教師の高橋和也の夫婦も監督の厚い信頼に応えたし、不安を抱えながら子育てする富田靖子も安定感ある演技を魅せた。

 小学校は世相の縮図だというが、虐待・いじめ・モンスターペアレント・学校崩壊が当たり前のように描かれているのに今さらながら驚かされる。

 公園のママ友にも、うわべだけの交流が却って心の傷を深くしている現状がある。

 呉監督は、逆に突き放さないように留意しながら希望のある物語に仕上げているが、少し甘めのエンディングに若干の物足りなさを感じたのは贅沢な注文か?

 

「蜩ノ記」(14・日)80点

2015-12-28 18:08:52 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ 最後の砦?小泉堯史監督の様式美溢れる時代劇

                   

 直木賞受賞の葉室麟原作の静謐な時代劇を、小泉堯史監督が古田球と共同脚色した本格的時代劇。

 前作「明日への遺言」(08)以来のメガホンで、時代劇は「雨あがる」(00)から14年経過している。

 豊後・羽根藩の右筆・壇野庄三郎(岡田准一)は些細なことから殿中で刃傷沙汰を起こし、家老・中根兵右衛門(串田和美)の温情で切腹を免れる。

 替わりに、7年前事件で切腹を命じられ、10年間の猶予で家譜(藩の歴史)の編纂のため山里に幽閉されている戸田秋谷(役所広司)の監視役を命ぜられた。

 事件とは、大殿・三浦兼通の側室・お由の方(寺島しのぶ)との不義密通というもの。なのに穏やかに日々を家譜の編纂と畑仕事に勤しみ、妻・織江(原田美枝子)や娘・薫(堀北真希)も慎ましく暮らしている。

 物語は秋谷と庄三郎の師弟愛を軸に庄三郎と薫の純愛、秋谷と織江の夫婦愛を織り交ぜながら真相に迫って行く。

 決して大仰な描写はなくても、生き方に熱い想いを抱かせてくれる。こういう時代劇は映画化がかなり難しいが、じっくりと時間を掛けて準備した節が窺えて好感が持てる作りだ。

 秋谷のような完全無欠な人物は物語でしかありえないが、役所広司という俳優が演じると不自然さを感じないのが不思議。

 事件を追っていくうち、お由の方がお家騒動に巻き込まれ幼な馴染みだった秋谷がお家を守るため罪を背負ったという理不尽な真相が判明して行く。

 山里での四季の移り変わりを丁寧に捉え、武士が仕えるとはこういうことかと納得させられてしまうが、現代社会では納得の行くものではないことは明白。

 年貢を取り立てる理不尽な奉行や武士に取り入る悪徳商人も登場し、農民が犠牲になるが何故か悲惨な光景に映らないのは何故だろう?

 敵役である家老中根兵右衛門がお家のために行ったという免罪符があって、勧善懲悪ものになっていないためだろう。

 本作は時代劇が持つ勧善懲悪が不明瞭なためにドラマが成立しているのだ。

 それだけに役所を始め若手で時代劇の資質を持つ岡田や黒澤時代劇で揉まれた原田美枝子・井川比佐志、歌舞伎の血筋を受け継いでキメ細かな情感を醸し出す寺島しのぶの演技が支えている。

 堀北も時代劇の所作を習得しこれからが期待できる女優となったが、結婚で銀幕復帰はしばらく待たなければならないのは惜しい。

 益々時代劇の映画化が難しくなった今、次回作はどんな作品になるのだろうか?待ち遠しい。

 
 
 

 

「龍三と七人の子分たち」(15・日)70点

2015-10-10 12:35:42 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ 同世代8人の滑稽な頑張りが哀しくもあり、思わず苦笑い。

                  

 「HANA-BI」(98)、「アウトレイジ」(10)など世界のキタノが、久しぶりに本業のビートたけしネタで画面に登場した。実は北野作品を大画面で観るのは初めて。

 オレオレ詐欺に引っかかったヤクザの元組長。元暴走族グループの若者たちが詐欺をしていることを知り、昔の仲間と組を発足してカツを入れる姿をコミカルに描いている。

 龍三親分を演じたのは、アナーキーな役柄で一世を風靡した藤達也。ここでは監督の要望に応え真面目に演じながら、お茶目な人柄が溢れ出る期待通りの主役ぶり。

 悪なのに人情味もあって、借金の取り立てで相手が気の毒でお金を渡すという人柄だ。

 昔なじみのママ(萬田久子)の家から女装のまま逃走する姿は、龍の入れ墨を自慢する昔気質の男とのギャップを衒いなく演じていた。

 仲間のマサ(近藤正臣)がいい味を出している。団地で生活保護を受けながらの独り住まいだが、貧乏臭くない。何でも賭けの対象にしてソバ屋で龍三と客が何を頼むか?賭ける風景は、それだけで絵になるコント風景。

 もう一人、はばかりのモキチ(中尾彬)は寸借詐欺で暮らすケチな生活。イメージ・ギャップを大いに利用した監督の人選に拍手。終盤とんでもないことになるが、これもベタながらコントのうち。笑って許してしまう。

 他にも早撃ちマック(品川徹)の仁義、ステッキのイチゾウ(樋浦勉)の座頭市バリの殺陣、五寸釘のヒデのダーツ、カミソリのタカ(吉澤健)、神風のヤス(小野寺昭)などそれぞれの特技を持った平均72歳という年寄り軍団が勢揃い。

 時代遅れの軍団は、それぞれ肩身の狭い生活から昔なじみに再会すると年を忘れ活き活きとする。それが傍から見るととても滑稽に映る。筆者と同世代なのが哀しくもあり、思わず苦笑い。 

 
 

 
 

「日本のいちばん長い日」(15・日)70点

2015-08-29 18:22:16 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ 終戦に関わった主要3人をドラマチックに描いた原田眞人監督。

               

 日本人にとって知っておかなければいけない昭和20年(1945)8月15日。同年4月鈴木首相就任から玉音放送された8月15日までを、ドラマチックに描いた終戦70年目を迎えた夏の大作。

 戦争継続を主張する陸軍の総帥・東條秀樹と終結すべしという海軍の元首相・岡田啓介。2人の大論争は戦争末期の象徴でもある。連合軍のポツダム宣言を巡って受諾=降伏か?本土決戦か?に分かれ連日連夜の閣議は紛糾する。

 その間に広島・長崎に相次いで原爆投下され、国体護持のために本土決戦を主張する戦争継続者を如何に抑えるかに苦悩する阿南陸相(役所公司)・鈴木首相(山崎努)と昭和天皇(本木雅弘)の3人にスポットを当てたエンタテインメント・ドラマ。

 監督・脚本の原田眞人は原作「日本のいちばん長い日(決定版)」(半藤利一)に加え、「聖断」昭和天皇と鈴木貫太郎(半藤利一)と「一死大罪を謝す」陸軍大臣阿南惟幾(角田房子)を織り込んだ人間ドラマに仕上げている。

 同名の岡本喜八版(67)は、ナレーション・実写フィルムを前段に取り入れ45年8月14日正午からの24時間を迫力満点なドキュメンタリー風に描いているのに対し、阿南・鈴木と昭和天皇の心情を追いながらの原田版は、昭和天皇のお言葉・お考えが随所に描かれているのが最大の特長。

 岡本版は先代・松本幸四郎が演じていたが、映像では正面からは登場することなくお言葉も極めて少なく、本木演じる天皇との半世紀の隔たりを改めて感じる。本木の好演が本作の胆となった。

 「私の名で始められた戦争が、私の言葉で終わらせるのであれば、ありがたく思う。」という開戦を望まなかった天皇のご意志が画面を通してこれほどハッキリ伝わったのは初めてだろう。

 天皇の神奉者である東條が、軍をサザエの殻に、中身を国民に喩え「サザエの殻を厚くしなければ中身は死んでしまいます。」と進言すると「トルーマン、スターリンがサザエを食すだろうか?捨て去るであろう。」と返されたのは事実の有無は別に、その見識を示されたお言葉として印象に残る。

 
 阿南惟幾は主戦論者・戦争継続論者ではなく、本土決戦・主戦論者と和平論者の2派間で苦悩しつつ和平へ持っていこうとする人物として描かれている。人徳者として陸軍内で評価の高い人物だったが、軍人として有能だったとは言えない人と聞く。明治天皇に殉じた乃木希典と人物像が重なる。

 鈴木貫太郎は戦争終結に命を懸けた最後の首相として描かれ、二二六事件で銃弾を四発受けながら生き残った強者の面影を持つ老獪な人物。最後のご奉公を天皇に請われての登場だった。

 天皇と元侍従長(鈴木)と元侍従武官(阿南)の三名を中心に、その人となりや家族を描きながら玉音放送で終戦宣言した夫々迎えた運命の日。

 本作を観て感じたのは、1歳半で東京大空襲を受けた筆者にとってサスペンス・ドラマとして観るにはとても重いテーマだったこと。

 当時の空気は今では推測しきれないほどで、1億玉砕論が渦巻く時代や畑中少佐(松阪桃李)ら青年将校の反乱事件はなかなか理解できないことだろう。時代は70年経過して、太平洋戦争を実感できないものとなっている。

 今日日本の平和の礎を築いてきたのは、こうした先人たちの愛国心によるもので、後進にも伝えて行くいいキッカケとなった作品でもある。

 開戦に反対だった山本五十六・連合艦隊司令官は有名だが、他にも小野寺信・陸軍少将ストックホルム大使や新庄健吉・米駐在陸軍主計大佐など陸軍にも反戦者がいたが、真珠湾攻撃に突入してしまった。

 邦画界には、これからの世代のためにも<何故無謀な戦争に突入したのか?>をテーマにした作品の映画化を願ってやまない。

 
 
 

「奇跡」(11・日) 70点

2015-08-09 12:08:09 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ 是枝流「スタンド・バイ・ミー」は銘菓<かるかん>に似ていた?

                    

 是枝裕和監督は「幻の光」(95)以来追いかけているが、本作は未見だった。理由はこの年発生した東北大震災。その直前に大津波で臨死体験するストーリー「ヒア アフター」(米、C・イーストウッド監督)を観て、しばらく映画館通いする意欲が減退してしまっていた。

 本作は、震災の翌日全線開通した九州新幹線の企画ものであり、子役お笑いタレント(まえだまえだ)が主演であり、日本人の日常から家族を描くというドラマを想像して触手が動かなかった。

 観終わって想像通りでもあり違っているところもあって、映画は勝手に想像するものではないということを感じるとともに、観るときの心境や時期によって違うことも改めて想った。

 鹿児島にいる母の実家で暮らす兄・航一(前田航基)は、父と2人で福岡に住む弟・龍之介(前田旺志郎)と再び一緒に暮らすことを夢見て、新幹線が通過する瞬間に願い事を叫べば叶うという噂を信じて友達と旅に出る計画を実行する。

 航一のクラスメイトが2人、龍之介のクラスメイト3人が一緒でそれぞれ子供なりの願いがある。女優になりたいなど子供らしい夢や、死んだ犬を生き変えさせたいという幼い夢を持ちながらの旅は、さながら「スタンド・バイ・ミー」のような展開。

 監督は予め900人余りオーディションした子供たちに<どんな奇跡が起きたらいいか?>を聞いて、ドラマにも取り入れている。そこから選ばれた子供たちは等身大の演技を披露。因みに女優になりたいといった恵美役の内田伽羅は、是枝作品のレギュラー?樹木希林の孫で両親の反対を押し切っての出演。

 さらに福岡のアイドル・ユニット橋本環奈など将来のスター候補生もいるが、子供らしく走り回る姿は脇を固める豪華俳優とは違った魅力を発揮している。これは子供たちには台本を渡さず、粗筋だけ口頭で伝え自由に演技させる手法が活きている。

 今観ると、有珠山の噴火を駅員から聴いて桜島の噴火を願うことを諦めた航一。御嶽山の噴火以降、変にリアルな流れになっている偶然さにも驚く。

 主演した前田兄弟は、兄が思い込みが激しく夢中になるが少し神経質、弟が現実に適応する能力があるがちゃらんぽらんという本来の性格がそのままでているようで納得。

 学校の先生に阿部寛、長澤まさみ、家族にオダギリ・ジョー、大塚寧々、樹木希林、橋爪功に加え、夏川結衣、原田芳雄、高橋長英、リリイ、中村ゆりなど豪華な脇役を揃えたためちょっぴり長い128分。

 子供らしい悩み・決断・実行で少し成長した<是枝版スタンド・バイ・ミー>は、鹿児島銘菓・かるかんに似たほんのり甘い映画だった。個人的には辛み・苦味・酸味の何れかがもう少し欲しかった気がするが・・・。

「麒麟の翼」(12・日) 75点

2015-04-05 13:27:17 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ 大画面と豪華キャストでTVドラマを手堅く映画化したヒューマン・ミステリー。

                   

 東野圭吾・原作をTVドラマ化して話題を呼んだ「加賀恭一郎シリーズ9作目<新参者>」。土井裕泰監督、阿部寛・溝端淳平主演というTVと同じメンバーで、さらにバージョンアップしている。

 日本橋にある麒麟の翼像前で倒れていた男は、ナイフで腹を刺されていた。男の所持品を持った若者が近くに潜んでいたため警官が追いかけたが、逃亡中にトラックに跳ねられる。

 被害者の男は死亡が確認され、若者は意識不明に陥り警視庁と日本橋署による合同捜査を開始した。

 原作やTVドラマで結果を知らなくても被害者の男に中井貴一が扮しすぐ亡くなってしまう展開は、その原因を辿るストーリーであることは明らか。

 ただ、犯人探しのミステリーというより被害者一家の葛藤を中心に、容疑者の人生を絡めたヒューマン・ドラマが主体。さらに主人公の日本橋署・加賀警部補(阿部寛)の父親との葛藤が背景に絡んで行く構成。

 被害者・青柳は建築部品メーカーの製造本部長で、日本橋とは縁もユカリもない場所だった。何故江戸橋の地下道に刺されたのに日本橋まで歩いてきたのかも謎。

 加賀とそのいとこである警視庁捜査1課の刑事松宮(溝端淳平)は、被害者と容疑者(三浦貴大)の当日の足取りを追いかけるために、被害者家族や容疑者の恋人(新垣結衣)と面会する。

 家族は被害者のことを何も知らないし、容疑者の恋人は人を刺すようなヒトではないというが、意外な接点もあった。

 筆者が長年勤務していた第2の故郷である日本橋地域が舞台のドラマだったので、映像を観るだけで懐かしい。毎日、日本橋を渡って通勤していたので麒麟の像も知っている。

 それだけにこんなドラマを創る東野圭吾のエンタテインメント性に感服させられるとともに、大画面で楽しめるだけでとても嬉しかった。

 何しろ豪華キャストである。阿部寛を中心にいまや売り出し中の溝口淳平・山崎努・田中麗奈・黒木メイサのTVと同じメンバーに加え、中井貴一・松重豊・鶴見辰吾のベテラン、新垣結衣・三浦貴大・松宮桃李の若手、さらに向井理のカメオ出演まで目が離せない。

 真面目に考えると不自然な言動も見られるが流れに乗って観る限り、今社会の歪である派遣社員問題の労災隠し、イジメ問題・事故隠しなどもテーマにしながらの130分はなかなか面白かった。

 土井監督の演出は手堅く、原作者・東野の持論である<悲劇からの希望と祈り>は充分伝わっっている。
 

 
 

「舟を編む」(13・日) 80点

2015-01-06 16:25:39 | 日本映画 2010~15(平成23~27)
 ・ コミカルなエピソードを挟んでの真面目な展開に好感を抱いた。

                    

 三浦しをんのベストセラー(本屋大賞受賞)を新進気鋭の石井裕也が映画化。日本アカデミー賞6部門受賞作品。本来なら公開時に観ておいても不思議はない話題作ながら、何故か食指が動かなかった。

 理由は辞書編纂という地味なテーマと主役の松田龍平と宮崎あおいのラブストーリーなら何も大画面で観なくても大体想像がつくと思ったから。

 想定どおりでもあり、想定を超えた出来に感心した133分でもあった。題名の由来は「辞書は言葉の海を渡る舟、編集者はその海を渡る舟を編纂する」という意味とか。とても品の良い作品だ。

 石井監督は映像化が難しいテーマをコミカルなエピソードを挟みながら人間の機微を描き、言葉やコミュニケーションの大切さを紐解いて行く。その手法は手堅く、まるで円熟したベテランの味わいを感じさせる。その安定感は、吉田大八と並んでこれからの日本映画を担う人材の予感がする。
 
 原作は、辞書という普段当たり前に存在するものが如何に作られて行くのかを、それに携わる人々の人生に重ね合わせて行くところにスポットを当てたことで斬新さがあった。

 本作はそれをどう映像化するかに成否が問われるが、主人公のキャラクター設定でクリアできた気がする。演じた松田龍平が大学院で言語学を学んだエリートでありながら、出版社ではその適性が生きず
最も不得手な営業をさせられているオタクッぽい若者を好演している。

 多少劇画チックな構成はあるが、名前が馬締(まじめ)で昭和の匂いにぷんぷんする下宿に10年もいるという人物はぴったり。恋人(宮崎あおい)が香具矢(かぐや)で満月の夜に出会うのだから、現実離れしているのは当たり前か。

 二人の出会いはこの物語に欠かせない。何故なら「恋」という意味をどう言語で表現するかを映像で見せているのだから。言語を知り尽くしている馬締がコミュニケーション能力不足に悩み、巻紙の恋文を書き、香具矢から直接言葉に出して言うように迫られるシーンは、現代のコミュニケーション手法がメール・ツイッターに頼る若者への警鐘にも見える。宮崎あおいは愛らしく手堅い演技は天性のもので、今回も主演をがっちり支える役割を果たしている当たり役。

 そして先輩・西岡に扮したオダギリ・ジョーはお調子者ながら、辞書編纂中止の噂を聴き先手を打つ情熱家でもあり、コメディ・リリーフの儲け役。さらに早雲荘の大家・タケ役の渡辺美佐子が江戸っ子らしい歯切れ良さで、随所で馬締を励ますシーンがなかなかいい味を出していた。

 大ベテラン加藤剛は監修者の松本先生役でその誠実さを発揮、小林薫は定年間近の編集者・荒木を抑えた演技でバランスをとっている。伊佐山ひろ子も派遣社員ながら欠かせない戦力であることを随所に魅せている。 

 残念だったのはファッション誌から不本意ながら移動した若手編集員役の黒木華と、西岡を陰で支える恋人役・池脇千鶴の出番が少なかったこと。それぞれ見せ場はあったが埋もれてしまった。もうひとつ’95からトキの流れがオダギリのヘア・スタイル以外あまり感じられなかったのは、年寄りの感想なのか?

 
 辞書編纂には15年を要し、<大渡海>という名の辞書は時代に埋もれてしまう言葉も拾う方針だけに、ら抜き言葉・今では古臭い若者言葉(ダサい・マジなど)を使用例とともに組み入れる24万語の作業はエンドレス。用例採集という作業は日本語の奥深さとその変遷を追い続ける途方もない仕事だと思い知らされる。

 IT社会とともにその手法はサマ変わりした今も、考えていることを言葉にしてコミュニケーションを図る人間の営みは普遍である。

 この拙いブログもその一環だが、人間はコミュニケーションすることで存在感を満たしていることを、あらためて思い知らされた。             

「紙の月」(14・日) 80点

2014-12-14 17:14:03 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・ 宮沢りえを支えた脇役陣と吉田演出。
                    

角田光代のベストセラーを若手の気鋭・吉田大八監督で映画化。平凡な女性銀行員が巨額の横領事件を引き起こした経緯を描いたサスペンス。

 観終わって2週間以上経過しながら筆が進まなかったのは珍しいが、決して出来が悪いわけではない。むしろ、映像や音楽センスの良さに流石CM出身監督らしい美意識が窺え、好感をもって映画館を出た。

 年頭NHKで観たTVドラマは原作に近く、主人公(原田知世)の過去や同級生などが登場して彼女の心の襞に分け入った人間ドラマだった。

 それと比較すると映画ならではの簡略化もされていて、彼女が年下の大学生に入れ上げた経緯に絞り、ヒロイン・梨花(宮沢りえ)の変貌ぶりを追うストーリーはとても分かりやすい。

 反面、原作にはないふたりの銀行員・お局役の小林聡美、若手ちゃっかり役の大島優子を加え、ヒロインを惹きたてる重要な役割を果たしている。上司役・近藤芳正と併せ、如何にも地方銀行の支店はこんな雰囲気なのではと思わせる典型的な臨場感溢れる構成だ。

 時代設定をバブル直後の94年から現在に移したのだろうか?夫婦のすれ違いの描写が割と淡泊で、年下の大学生・池松荘亮との関係もあっさりしていて現代風。

 昔の事件滋賀銀行の奥村彰子や足利銀行の大竹章子、三和銀行の伊藤素子など横領した女子銀行員のようにドロドロした男女関係から抜き差しならなくなったという悲壮感がない。

 70過ぎの老人にはヒロインの気持ちはよく分からない。むしろ上海に単身赴任した夫・田辺誠一に同情してしまう。吉田監督と脚本の早船歌江子は腕時計など微細なところで微妙な女ごころを描き切ったのだろうが、いまいち突っ込み不足では?

 起承転結でいえば、結は観客に委ねたこの作品。先のキャスティングに石橋蓮司、中原ひとみを加えた脇役陣が、5年振りの本格的主演で映画界に復帰した宮沢りえを盛り立てている。

 今年度の主演女優賞を総なめしそうな宮沢りえ。もっと映画で魅了して欲しい。