晴れ、ときどき映画三昧

映画は時代を反映した疑似体験と総合娯楽。
マイペースで備忘録はまだまだ続きます。

「永遠の0」(13・日) 80点

2014-01-13 11:35:02 | 日本映画 2010~15(平成23~27)
 ・ 歴史認識に留意しながら、人間描写に腐心した長編。

 百田尚樹のベストセラーを映画化した大作だが、あまり期待せずに観た。期待以上でもあり、やっぱりという感想も相半ば。

 期待以上だったのは、映像のリアル感。ハリウッド進出してより磨きの掛かった白組のVFXの映像は、戦争オタクの眼にも満足の行くできだったのでは?とくに空母赤城やある意味での主役零戦二十一型五十二型による空中戦の映像は、ハリウッドに負けてはいない。

 戦中生まれの筆者には先の戦争は親が実感した世代で、生身での戦争記憶はないが戦後の食糧不足が想い出として残るのみ。ただ戦後の貧しさは今の繁栄とは別世界で、小学校時代の二部授業、脱脂粉乳を息を殺して飲み、油だらけのモヤシ入りシチューと空胴のコッペパンの苦い思い出は今も忘れない。

 主人公の健太郎は、祖父賢一郎とは血が繋がっていないことがキッカケで、本当の祖父・宮部久蔵を通して戦争を知ることになる。
 久蔵を知る零戦パイロットの生き残りを訪ね、人となりを取材するうち「帝国軍人の恥さらし」という長谷川や「優れたパイロットだが、<私は死にたくありません>という言葉に最初に違和感を覚えた」という井崎や「教官だった久蔵に不可ばかりで邪魔され不信感があったが、上官に生徒を庇ったために殴られた久蔵を改めて尊敬した」という武田。

 そして久蔵のライバル元ヤクザ・景浦から家族のために生きて帰ると約束したのに、特攻隊志願兵として出撃していった祖父の最後とともに、隊の名簿を手にして愕然とする。

 「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズの山崎貴が、大長編を「歴史認識に留意しながら、人間描写に腐心した」144分。

 最大の謎は、優秀なパイロットでありながら出撃しても必ず乱戦を避け帰ってくる臆病者の久蔵が、生きて帰れない特攻に志願したのか?ということ。
 このドラマでは多くの若い命を犠牲にするために生まれた<特攻隊の教官としての罪の意識>として描かれている。これは終戦記念日に必ず上映された、従来の洗脳されたヒロイズムと紙一重。

 原作にはない、健太郎が合コンで「特攻がテロと変わりない」と言われ憤慨して席を立つシーンでもその違いは若者達には伝わってこない。むしろ元アメリカ兵の言葉、大新聞社への戦争加担を批判した久蔵を描いた原作に一日の長があった。もっとも軍幹部、高級官僚、マスメディアを非難する作品では原作者や後援団体・企業から支援は得られず本編は製作できなかったことは明らか。

 反戦映画でもなく国ために命を捨てた英雄でもない人間・宮部久蔵の物語である。これでもかという感動の嵐に持って行く手法は賛成できないが、久蔵役の岡田准一、松乃役の井上真央、これが遺作となった賢一郎役の夏八木勲、景浦役の田中泯の好演が目立った。
 

「そして父になる」(13・日) 75点

2013-11-04 13:27:01 | 日本映画 2010~15(平成23~27)
 ・ 是枝監督が、ますますメジャーになって行く。

    
 都心の高級マンションに住む大手建設会社に勤める野々宮良多(福山雅治)みどり(尾野真千子)夫妻のひとり息子は6歳になって産院で取り違えた子供だと分かる。相手は群馬で電器店を営む斎木雄大(リリー・フランキー)とゆかり(真木よう子)の家族。好対照な2家族と子供の交流で家族とは?親子とは?を問いかけながら、良多が父親としてどう言動して行くのかを中心にドラマは進む。
 
 是枝裕和監督といえば、テレビマン ユニオンのAD時代を知っている筆者にとって「幻の光」でデビュー以来秘かに応援していた監督だが、今回最も感じたのは<メジャーな監督になったなあ!>ということ。
 
 ドキュメントタッチで如何に自然な情景を映像化しながら、そこから見える人間のさまざまな有りようを切りとって魅せる演出力は益々磨きが掛かってきた。その理由は、キャスティングにエネルギーを費やし端役に至るまで行き届いた人選や、子供を如何にナチュラルにドラマの人物として見せるかに卓越した手腕を発揮している。唯一の粗探しをすれば、野々宮家の実子が群馬育ちなのに関西弁?だということか。

 メジャーになった感想の裏に、賞狙いや大ヒットしなければならないというプレッシャーも背中合わせに感じざるを得ない。本作はかつて「誰も知らない」と同様、実際に起きた事件をヒントに描き起こしたオリジナル作品だが、大スター・福山雅治有りきの人物設定が端々に見え隠れしていて、理想的な父親になろうとする必死な父親とは程遠いキャラクターに見えてしまった。主な出演者のなかではリリー・フランキーの演技が際立っていたし、脇を固めるベテラン俳優たち(樹希樹林、風吹ジュン、夏八木勲、國村隼)のさりげない演技には感服したが・・・。

 感動的な?エンディングも、あまりピンとこなかったのは、カンヌの審査委員長だったS・スピルバーグには失礼な感想なのかもしれない。スピルバーグによってリメイクされるという本作の真価はこれから問われる。

    

「許されざる者」(13・日) 80点

2013-09-15 14:23:33 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・久々邦画の力作も、伝説のオリジナルは超えられなかった。

  
 クリント・イーストウッドの監督・主演によるハリウッド伝説の名作を「フラガール」(06)、「悪人」(10)の李相日が渾身のリメイク。主人公をイーストウッド監督作品「硫黄島からの手紙」(06)に主演した渡辺謙が演じている。

 時代は19世紀末の明治初期、ところをワイオミングから蝦夷地に移した舞台設定はなかなか説得力がある。幕府軍伝習歩兵隊にいた釜田十兵衛はかつて<人斬り十兵衛>と恐れられていた男。幕府崩壊後、人里離れた海辺の小屋で2人の幼い子供と静かに暮らしていて、妻に先立たれ貧しさに耐える日々ではあったが幸せだった。ある日訪ねてきたのは歩兵隊仲間だった馬場金吾。鷲路という町で酒場女郎が酔客に全身切り傷にされ、その男2人に賞金1000円が賭っているというハナシを持ち込んでくる。亡妻に2度と人を殺さないと誓った十兵衛。迷った挙句金吾に付いて行くことに。

 十兵衛を演じた渡辺謙は適役で申し分ないが、金吾を演じた柄本明にはオリジナルのモーガン・フリーマンと比べて老け過ぎていないか心配したが、なかなか味があってメリハリのある台詞にも感心させられた。道中一緒になる柳楽優弥演じる沢田五郎は、オリジナルにも登場するがリメイク版では重要な役を担う。アイヌの血を引くこの若者の登場で<和人によって無抵抗な先住民文化を蔑ろにする残虐さへの憤り>を表現。誤解を恐れずにいえば、在日である監督自身を画面に登場させているとも言える。「誰も知らない」(04)でデビューした柳楽が逞しい23歳となって、出番も多いこの役を演じているのは嬉しい限り。まるで「七人の侍」(54)で三船敏郎が演じた菊千代のような役である。

 もっとも大切な役のひとりジーン・ハックマンの保安官役を、佐藤浩市が警察署長役で出演している。法の秩序を重んじ暴力も厭わない権力者だが、熱演にも拘わらずJ・ハックマンのような人間味を感じさせない。<正と悪を歴史が証明するのは勝者の理論>と言う台詞が象徴的で、佐藤の演技不足ではないと思うが単なる小悪党にしか見えなかったのが残念!

 ほかではリチャード・ハリスが演じた賞金稼ぎ役を、國村隼が演じている。落ちぶれた長州武士で出番は少ないながら時代背景を象徴する役柄で印象に残った。女優は女郎役以外はなく、年上の女郎お梶・小池栄子が貴重なバイプレーヤーとして、なつめ・忽那汐里の可憐さとともに存在感を魅せている。

 ロケ地北海道上川町での笠松則道の映像は、雄大な景色とともに骨太な作品をシッカリと描写。音楽の岩代太郎の音楽もなかなか良かったが、全編に流れオリジナルのような息抜きが欲しかった。
 イーストウッドの絶妙な間の取り方がまだ若い李監督には無理だったようで、冒頭からラストまで全力投球ぶりが目立ち、殺人シーンに痛みを伴うリアルさを強調し過ぎたきらいがあって少し食傷気味。

 黒澤明のリメイクでスターとなり、S・レオーネとD・シーゲルに捧げたイーストウッドの監督作品を、シッカリと受け継いだ本作。登場人物の善悪が微妙で、憎しみの連鎖に懐疑的なのは同じだが、心の葛藤をしっかりと描いたオリジナルには及ばなかった。久々邦画の力作に拍手を送りたいがオリジナルを超えることはできなかった。
 

「八日目の蟬」(11・日) 80点

2013-08-22 12:33:59 | 日本映画 2010~15(平成23~27)
 ・ ベストセラーの映画化に成功した成島・奥寺コンビ。
                   

「日野不倫放火殺人事件」をヒントにした角田光代のベストセラーを成島出監督で映画化。この年の日本アカデミー賞の主要部門最多受賞作品でロングラン・大ヒット作品だったが、東北大震災の影響でロードショー公開時に見逃してしまい、漸く観ることができた。

 不倫相手の乳児を誘拐し、逃亡しながら4年間育てた希和子と、その過去を引き摺りながら21歳になった恵理菜。4年の軌跡を辿りながら恵理菜の心情を追って行く。

 成功の最大要因は一人称で内面を語る原作をアレンジ、三部構成を巧みにシンクロさせた奥寺佐渡子のシナリオだろう。冒頭の裁判シーンでの被害者恵理菜の母・秋山恵津子と加害者・野々宮希和子の独白で、ドラマの概要と二人の心理状況を端的に伝えることによって観客を惹きこんで行く。

 丁寧な成島演出とその期待に応えた4人の女優の好演が挙げられる。

 主演は恵理菜を演じた井上真央。子役時代から鳴らしていた彼女の代表作と言って良い。時として一本調子の感はあるものの、過去のトラウマを引き摺って頑なな雰囲気から、クライマックスでの心の内にあった蟠りが氷解するするサマは見事。

 次に希和子役の永作博美。ダブル主役と言って良いほどこの映画の中核を担う役。本来敵役なのに、原作がそうであるように女心の複雑な心情を繊細に描写。冒頭の裁判シーンで<4年間、子育ての喜びを味わせてもらったことを感謝します>というシーンに彼女の全てが具現化するのを観る作品でもある。

 そして監督のお気に入り小池栄子はルポライター安藤千草役。グラビアアイドルから脱皮して演技派へ転身しているが、本作でもヒロインと共通項の秘密を持つ女で何処かオドオドした雰囲気が出ていた。男恐怖症には見えなかったのは先入観のせいか?

 もうひとり同情されるべき被害者恵理菜の母・恵津子役の森口瑤子。達者な女優だが、実の母でありながら子供が懐かずその陰に希和子がいる苛立ちぶりが哀れを誘う。原作より普通の母であることがこのドラマでの深遠さを増している。娘に「お星様の歌」をせがまれ<キラキラ星>を歌い違うと言われヒステリーを起こしたり、大人になった娘が不倫の末身籠った子を降ろすよう諭すと娘に過去のハナシを持ちだされ思わず逆上するなど、複雑な想いを描出し敵役的な役割も果たしている。

 忘れてはいけないのは恵理菜の子供時代(薫という仮名)を演じた渡邉このみ。可愛さ純真さを独り占めして観客の涙を誘う。彼女に喰われなかった永作の力量も改めて知らされた。ほかに出るだけで存在感を示したエンゼル・ホームの余貴美子や写真館主の田中泯。下手をするとコメディになりそうな役を衒いなく演じている。

 何より感動を誘うのは小豆島での希和子と薫の暮らし振り。虫送りの千枚棚田での風景や農村歌舞伎舞台は古き善き伝統行事と束の間の穏やかな幸せがヒシヒシと伝わってくる。「二十四の瞳」へのリスペクトとも言うべき岬の分教場での先生ごっこ、小豆島八十八カ所霊場一番札・洞雲山寺の願掛けや記念写真の撮影は先が予見されるだけにとても切なく、身勝手な誘拐犯に同情する矛盾した筆者がいる。

 冒頭、夜乳児を置いたまま夫婦が戸締りも不注意なまま外出した誘拐シーン、乳が出ないのに泣きやまない乳児を抱いて途方に暮れ思わずおっぱいを吸わせようとするシーン、恵理菜と劇団ひとりの恋人・岸田とのベッドシーンなど不自然さはすっかり忘れよう。

 筆者が幼少時代、<母もの映画>というジャンルがヒットした時代があった。三益愛子、望月優子、田中絹代、三宅邦子、淡島千景など名女優がそれぞれタイプの違う母親を名演していた。永作博美は<現代の母もの女優>になった。

「最後の忠臣蔵」(10・日) 80点

2013-06-29 07:47:35 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

  ・グローバル・スタンダード?な時代劇。


  

 池宮彰一郎の「四十七人の浪士」をもとに、田中陽造・脚本、杉田成道・監督、長沼六男・撮影の強力トリオによる映画化。製作・配給がワーナーブラザースで初のローカル・プロダクション第一作。

 20人のスタッフが脚本内容について関わるというハリウッド方式を取り入れているので、グローバル・スタンダードな時代劇と言っていい。といってもアメリカ人の解釈による忠臣蔵ではない。むしろ現代の日本人ですら理解しづらい「武士としてのプライドである忠義を貫く頑なな男の美学」を謳いあげている。

 もちろん世界共通のテーマである<親子の情愛><男の友情><秘めた恋>が四季折々の美しい日本の風景とともにバランス良く繰り広げられている。なかでも親子の交流が中心で、役所広司演じる大石家側用人・妹尾孫左衛門が、内蔵助の隠し子・可音(桜庭ななみ)を親代わりとなって嫁がせるまでの艱難辛苦ぶりが涙を誘う。ただ、叶わぬ恋を表現するために人形浄瑠璃「曽根崎心中」を多用して2人の内面をリンクさせる手法には多少無理があった。

 杉田監督が<日本のデ・ニーロとパチーノ>と呼ぶ、役所と原作の主人公・寺坂吉衛門に扮した佐藤浩市との殺陣も見どころのひとつ。さらに、原作にはない島原の花魁・夕霧太夫(安田道代)が一途な想いを孫左に寄せるシークエンスで物語に厚みを持たせ、時代劇らしくない2人のヤリトリがあって鮮烈な印象のエンディングへと繋がっている。

 エンディングは賛否両論あろうが、これがなくては<忠義を全うする武士を描いた正統派時代劇>ではなくなってしまう。ハリウッド方式ではエンディングにアンケートを取ったようだが、果して理解されたのだろうか?

「夢売るふたり」(12・日) 80点

2013-06-13 05:12:28 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

 ・結婚とは?ある夫婦と様々な女たちの人間ドラマ。

 

 「ゆれる」(06)「ディア・ドクター」(09)で人間の奥に潜んでいた心の内をリアルに描いて魅せた西川美和の長編3作目。

 東京で小料理店を開いて5年目、幸せな夫婦が火事で全てを失ってしまう。常連客との過ちから大金を手にした夫を目にした妻が思いついたのは、結婚詐欺。多彩なキャスティングで西川ワールドを展開する137分は、生々しい人間描写が益々緻密になってきた。

 夫・貫也(阿部サダヲ)は、先天的に優しさと弱さを併せ持った料理人。妻・里子は夫に寄り添いながらも、芯がしっかりしたメゲナイ女。この2人が<白木造りのカウンターのある洒落た料理屋を持つ>夢を果たそうと婦唱夫随?で始めた詐欺行為は、ジワジワと亀裂を深めて行く。キッカケは常連客の鈴木砂羽。愛人の遺言で手切れ金を渡されプライドを傷つけられ、思わず貫也と一夜を共にする。手切れ金が店の再興に役立てば自分が立ち直れると考えたのだ。

 脇を固めた女性たちが多彩な顔ぶれだ。騙される最初の相手は<結婚できないと思われるのが許せない>という出版社のOL(田中麗奈)。さらに暴力男(伊勢谷友介)に追われる風俗嬢(安藤玉恵)、75キロ超ウェイトリフター(江夏由夏)など、何れも結婚に何らかの障害を抱えながら健気に生きる女性たち。

 西川監督はひとりひとりに、<女なるが故に他人に知られたくないような日常>をトキには情け容赦なくリアルに、トキには抒情的に描いて魅せてくれる。その仕打ちは男の筆者には見たくないような場面も随所に登場する。

 ヒロイン里子の変貌ぶりは冒頭の良妻ぶりからは想像できないほど。女にはこんな面が誰にでもあるのだと男たちに示唆しているようだ。貫也を始め登場する男たちは分かり易いキャラクターなのも意図的であろう。貫也はシングルマザー滝子(木村多江)との疑似家族が如何に楽しいものかを知ってしまった。それが、里子に与えた衝撃は計り知れない。

 この夫婦と女性たちの物語は、様々な人間模様が描かれちょっぴり散漫な印象は拭いきれないが、キャスティングの妙とそれを承知で彼女達を丁寧に描いたことで開花したといえる。
 

『太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男』 75点

2013-02-23 17:55:37 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

太平洋の奇跡 -フォックスと呼ばれた男

2011年/日本

実話に基づくリアルさとエンタテインメント性の板挟み

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 75

ストーリー ★★★★☆75点

キャスト ★★★★☆80点

演出 ★★★★☆75点

ビジュアル ★★★★☆80点

音楽 ★★★★☆75点

ドン・ジョーンズという米国人が執筆した、サイパン島での大場栄陸軍中尉の抗戦ぶりを称えた原作「Oba、ラスト サムライ:サイパン1944~5」をもとに、平山秀幸監督・竹野内豊主演による日本での映画化。
3万いたサイパン島での日本兵がタッポーチョ山へ追い詰められ、総攻撃を仕掛け無残な敗戦を迎える。命令により「玉砕」を考えていた大場が、残された兵とともに民間人を守りながら次第に生き残って抗戦しようとする512日間を描いている。
硫黄島における栗林中将はC・イーストウッドによって日本側から観た太平洋戦争の一端を見事に描いていた。本作は栗林ほどのカリスマ性やリーダーシップは感じられない大場という人物を英雄扱いするのではなく、民間人を含め米軍から観た日本人観が中心だ。米軍から観ると自決した南雲陸軍中将など4人の司令官も不思議な行動だし、降伏せず徹底抗戦する大場達の存在も摩訶不思議。リーダーを「フォックス」と呼んだのも頷ける。
ドラマは徹底抗戦を最後まで主張する木谷曹長や極道あがりの堀内1等兵を統率する大場の苦闘ぶりや民間人の扱いに苦悩する人間大場の姿を通して戦争の虚しさを訴えようとしている。残念ながら実話の持つ説得性とエンタテインメントとしての戦争映画の整理がつかないままの完成となってしまった。
その原因のひとつには3班に分かれた撮影班の足並みが揃わなかったのでは?監督は平山秀幸以外に米国ユニットにチェリン・グラック、そして特撮ユニットに尾上克郎がつきソレゾレ見せ場を造ったため、纏まりに欠けてしまった。
出演した大場役の竹野内豊を始め山田孝之、岡田義徳など兵士たちは減量に努め衣装もリアルなイデタチであった。ただ堀内1等兵役の唐沢寿明の風貌が現実離れしていて違和感があったのと終盤の行進は美化し過ぎでは?民間人に扮したなかでは井上真央の体当たりぶりが目立った。総じて俳優たちの頑張りにも関わらず報われなかった印象が強い。
<私は誇れるようなことは何ひとつしていません>という大場の言葉が象徴する<日本人の組織力に忠実で謙虚な心根>が、今の日本人に長所として伝わっていればいいが...。


『武士の家計簿』 70点

2012-09-26 16:01:02 | 日本映画 2010~15(平成23~27)




武士の家計簿


2010年/日本






普遍的テーマを時代劇で描いた森田芳光





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shinakamさん


男性






総合★★★☆☆
70



ストーリー

★★★☆☆
70点




キャスト

★★★★☆
80点




演出

★★★☆☆
70点




ビジュアル

★★★★☆
75点




音楽

★★★★☆
75点





2011年12月に61歳で急逝した森田芳光監督の異色時代劇。幅広いテリトリーをこなす多才なヒトだったが、代表作には恵まれなかった。本作は時代劇でありながら幕末から明治に掛けて加賀藩の御算用者・猪山家3代に亘る暮らし振りを様々なエピソードで描いた家族の物語。
原作は古文書をもとに歴史教養書としてまとめた磯田道史のノンフィクション。これを膨らませてハートフルな夫婦愛と父と子の葛藤のドラマに柏田道夫が脚色している。
主人公は8代目猪山直之で下級武士ながらソロバン一筋の堅物で、父・信之は婿養子で母・常とは夫婦円満。オババさまは穏やかな教養人。一家は嫁の駒を迎え、平穏な暮らしを送っていた。前半はユーモアを交えながら淡々とした流れはまるでホームドラマを観るよう。主演の堺雅人を始め中村雅俊・松坂慶子の夫婦が適役でほのぼのとさせてくれる。仲間由紀恵も献身的な妻は大河ドラマの<まつ>を想わせる。
藩の不正を調べたり、財政を立て直すため奮闘して藩主・前田斉泰の側仕えに出世するなどサラリーマン出世物語のようなエピソードはあるものの本題は専ら破産寸前の家系の立て直しにある。出世イコール交際費増が恒例の武家社会は、婚姻や息子・4歳の着袴の儀には格式に応じた多額の出費が伴う。直之が採った手段は思い切った緊縮財政。<絵鯛の祝膳>はそのハイライトだった。
ここまでは好調だったが、父と子の葛藤に移る後半は竜頭蛇尾の感は否めない。徹底してソロバンを叩き込み、家計簿の穴埋めに拾った4文を遣ったことを説教するなどまるで教育ドラマに変貌。何より失笑モノだったのは老いて背負われた直之と若々しい駒の画づくりで、感動の物語を台無しにしてしまった。とはいえ、現代でも通じる普遍的なテーマを時代劇で描いた森田監督には、もっと長生きして「家族ゲーム」を超える代表的な家族ドラマを作って欲しかった。






『あなたへ』 80点

2012-09-14 10:42:49 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

あなたへ

2012年/日本

鳩になった日本のC・イーストウッド

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

昭和最後の大スター・高倉健が盟友・降旗康男監督と組んで6年振りに銀幕に登場した。これでコンビ20作目だけに健さんワールド満載の111分。夫婦の絆を描いたという番宣も効いて、シネコンは思ったより女性客が多く、若いころからの健さんファンにとっても嬉しい限り。
堅物の刑務官が定年後指導技官となり晩婚ながら幸せな結婚生活を送り、退職後の旅行を楽しみにしていた矢先、妻が病に倒れあっという間に先立ってしまった。妻は遺書管理のNPO法人に絵手紙を2枚残していた。
富山から妻の故郷長崎・平戸まで想い出をたどりながら旅の途中であったヒトの人生を垣間見る1200キロあまりのロード・ムービーは、日本のC・イーストウッドを想わせる思い入れたっぷりな心の旅でもあった。
<主役は幸せにしない>ことと<ヒトはイイことをするために、悪いことをする>をテーマに映画作りをしてきた降旗監督。刑務官として多くの受刑者と接してきた孤独な主人公をどのように再生させるのかがこの作品の最大のテーマだったろう。
登場人物はみんな普通に暮らしながら悩みを抱えていた。亡くなった妻は刑務所を慰問する童謡歌手でありながらたった一人のために歌っていた。宮沢賢治の「星めぐりの歌」がとても哀しい。
途中出会った元中学の国語教師(ビートたけし)は<旅と放浪の違い>について語りながら種田山頭火に憧れるが、どこか孤独感が漂う。北海道のイカ飯を全国で実演販売する販売員たち(草剛・佐藤浩市)も妻の浮気や過去を語らない孤独感が見え隠れする。
切なさを増長させるのがロード・ムービーならではの日本の美しい風景。富山の山並みや兵庫・武田城址が雲海に漂う景観は観ているだけで心が洗われる。そして平戸の海に沈もうとする燃えるような夕陽をバックに浮かぶ漁船はこの映画に何かを決断させる主人公を象徴している。それは佐藤浩市のために<鳩になった主人公>が答えである。
相変わらずの健さんワールドを支えたのが豪華な脇役陣。妻の洋子に田中裕子を始め平戸の食堂の女主人に余貴美子、刑務所の同僚の妻に原田美枝子という達者な女優に加え食堂の娘に綾瀬はるかがフレッシュな彩りを添えている。男優陣では、たけし・草・佐藤のほかに刑務所の同僚に長塚京三、平戸の漁師に大滝秀治などのベテランに三浦貴大の若手が加わり岡村隆史・浅野忠信などはほんのチョイ役という豪華さ。
81歳で堂々たる主役を演じた健さん。次回作は果してあるのだろうか?健さんファンとしてはそれが切ない...。


『わが母の記』 80点

2012-06-02 13:56:37 | 日本映画 2010~15(平成23~27)

わが母の記

2012年/日本

さり気なく緻密に描いた家族のものがたり

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shinakamさん

男性

総合★★★★☆ 80

ストーリー ★★★★☆80点

キャスト ★★★★☆85点

演出 ★★★★☆80点

ビジュアル ★★★★☆85点

音楽 ★★★★☆80点

文豪・井上靖68歳時の自伝的小説をもとに原田眞人が脚色・監督した。「突入せよ!あさま山荘事件」「クライマーズ ハイ」など昭和の大事件を背景にした社会派イメージのある原田が文芸作に挑み海外の映画祭に打って出た本作。モントリオール世界映画祭審査員特別グランプリを受賞している。
作家・伊上洪作が母・八重のダンダン老いて行く姿を3世代の家族を通してみつめる10年間。
さりげなくしかし緻密に時代を映し出すための工夫がそこかしこに窺える。
息子にとって母親はカケガエのない存在だったが洪作には5歳から8年間伊豆・湯ヶ島の実家で祖母に育てられていて、母に見捨てられたという想いがトラウマとなっていた。
物語は原作には書かれていなかったこのトラウマが最大のテーマとなって炙り出される。冒頭、雨の中軒下に立つ5歳の洪作と道を隔てて2人の妹を連れた母が見つめるシーンで始まるこのドラマはそのトラウマをいつまでも引きずった男が、3人の娘に対する家族愛を絡ませながら展開してゆく。
舞台となった伊豆・湯ヶ島の実家、川奈ホテル、沼津の海、世田谷の家などすべてリアルに再現しようとした意欲が映像で見事に花開いた。とくに世田谷の家は実際の井上靖亭で撮影されたというこだわりは、文化遺産を観るようで物語に厚みを増していた。
テンポの良いカット替わりと、早口のリアルな会話は台詞とは違う雰囲気充分で、音声の広がり奥行きも観客をその場に誘い込んだような錯覚に陥らせる原田流は健在だ。
品格があって感情の起伏を見事に表現した役所広司は、年齢的にもぴったりの油が乗り切った主役振り。
若いときから老け役はハマり芸の樹希樹林が母・八重の壊れて行く姿は余人に代え難い名演。ただコミカルな老婆のイメージが観客の先入観があったため笑う場面ではないのに受けてしまったのは計算外だった。ちなみに冒頭の若いころの八重の役を演じたのは実の娘・内田也哉子でさすがにそっくり。
若手のピカイチ宮崎あおいが独立心の強い3女琴子に扮し父と娘の関係を際立たせていて、相変わらず上手い演技を見せているが、小津の杉村春子と比較すると大差で及ばない。
洪作の妹・志賀子のキムラ緑子、洪作の長女郁子役のミムラがシッカリとなりきり演技を見せていたのは流石。
洪作の父は台詞もなくワンカットだけだったが三國連太郎だったと気付いたのはエンドロールが出てからだった。名優というのはこういうヒトをさしているのだろう。
あまりにも有名な文豪の家族の物語なので、きれいごと過ぎるきらいはあるが、久しぶり邦画の良さを堪能した。