・ 郷土愛と生きる歓びを詩的に描いたトルナトーレ。
若干32歳で「ニュー・シネマ・パラダイス」(88)を作ったジュゼッペ・トルナトーレが原点に返って、生まれ故郷シチリアを舞台に30年代から80年代まで、50年間のトッレヌオヴァ一家を描いたファンタジー。
少年たちがコマ遊びの最中、大人たちは賭けに興じていた。ある少年が父親からタバコを買ってくるようにいわれ夢中で駆けだすプロローグ。少年は何時しか空を飛び、眼下にはバーリア(バゲリアの俗称)の街並みや荒涼とした岩が続くシチリアが一望に見えてくる。
ファシズム時代、バーリアで暮らす牛飼い一家の次男・ペッピーノ。貧しいながら、オリーブ園や乳牛を売り歩く仕事をしながら学校に通っていた。ある日学校で立たされ教室の隅で寝てしまう。
主人公ペッピーノ(フランチェスコ・シャンナ)が逞しい青年となり、長い黒髪で大きな瞳の美しい娘マンニーナ(マルガレット・マデ)に恋をする。マンニーナの母の反対を押し切り結ばれるまでのエピソードを始め、子供に恵まれ、父・チッコや兄・ニーノとの別れ、子供を失う悲しみ、マフィアの存在、政治家を目指し共産党に入党、政治の闇を体験、国政選挙に敗れるも5人目の子供に恵まれ、息子・ピエトロの旅立ちを見送る...。
次から次へと家族の出来事を繋ぎ合わせたシークエンスは、バーリアにカメラを据えながらファシズムの崩壊、第二次大戦敗戦、共和国成立というイタリア現代史が背景に浮かび上がって見える。時代とともに移り替わる街並みや服装にはリアルさを追及するトルナトーレの拘りが感じられる。
F・シャンナは甘いマスクで青年期から主人公を演じ切り、M・マデはトップ・モデルのスタイル・風貌で魅了して映画初出演とは思えない好演。子供たちはノビノビと演技していて、大勢のエキストラ動員による臨場感とともにトルナトーレ演出は健在だ。
無名だった2人を支えるようにモニカ・べルッチ、ルイジ・ロ・カーショ、ミケーレ・プラテドなど著名俳優達がワンシーンで華を添えているのも見逃せない。
長いようで短いヒトの一生。トルナトーレはそれを親子3代の時空を超えたストーリーで、まるでタバコを買って帰ってくるような速さのようなものだと言っている。それは<「邯鄲の夢」シチリア版>だというように。
エピソードの連続は自叙伝だと思うほど思い入れが強すぎて入り込めないシーンや、ファンタジックなシークエンスに首をかしげてしまったところも。「題名のない子守唄」(06)で作風が変化し始めた直後、ローマで暴漢に襲われ生死をさ迷ったトルナトーレ。だからこそ郷土を愛し、それを繋いで行く家族の大切さ・愛おしさを映像化したかったのだろう。
暗い時代を元気に過ごすシチリア庶民のバイタリティが明るい陽射しとともに映え、名コンビの巨匠、エンニオ・モリコーネの音楽が、ときに軽快でユーモラスな流れで、辛く哀しい心情を洗い流してくれる。
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