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できることを、できる人が、できるかたちで

京都精華大学教員・住友剛のブログ。
関西圏中心に、教育や子ども・若者に関する情報発信を主に行います。

新聞・テレビが伝えていないこと

2008-11-09 20:01:09 | ニュース

最近出たばかりの岩波書店の雑誌『世界』の2008年12月号に、星徹さんというルポライターの方が書かれた「橋下知事の教育介入が招く負のスパイラル」という一文が掲載されています。

これはなかなか、いい文章です。橋下知事の側が流す情報を追いかけるばかりで、「まるで大阪府政の広報機関?」と言いたくなるような新聞記事やテレビ番組もあるなかで、星さんはこの一文で、私の印象では「そこからはこぼれ落ちている話」をできるだけすくい上げ、今の大阪府下の教育改革の問題点を浮き彫りにしようと試みています。

例えば、橋下知事が何かと攻撃の対象とする教職員組合の側から、大阪府下や大阪市内の子どもたちの学校生活の問題や、いわゆる「学力」の問題などがどう見えているかについても、次のようにきちんと紹介されています。少しだけですが、引用しておきます。ちなみに、下記は大阪市内の状況を書いた文章にでてくるのですが・・・・。

「大阪の経済がどんどん厳しくなり、離婚率も高まり、社会の矛盾が子どもたちに大きな影響を及ぼしている。子どもたちが家庭で放置されるケースも多く、荒れの低年齢化が進んでいる。そのため、小中学校の教員の多くは生活指導に労力と時間が取られ、授業準備の時間が取りにくい状況が続いている。こういった社会の根本的な矛盾の解消に取り組む必要がある」(日教組系)

「貧しい家庭の経済状態がますます厳しくなり、貧困問題が深刻化している。どこの地域の子どもたちが困難な状況にあるかは、すでに分かっている。子どもたちが安心して生活し、学習できる環境をつくることが先決だ」(全教系)

また、星さんの文中には、「全国学テの平均正答率が下位にある沖縄県・大阪府・北海道などは、世帯当たりの実収入が低く、完全失業率・生活保護受給率はともに高い。それに対して、全国学テの平均正答率が上位にある福井県・富山県などは、世帯当たりの実収入が高く、完全失業率・生活保護受給率はともに低いのだ」(p.171)ということばもあります。このことは、すでに私がこのブログで書いていることとも共通します。

詳しいことは雑誌を買って直接読むか、図書館などでこの記事を読むかしてほしいのですが、大阪府下の一連の橋下教育改革のなかで、新聞やテレビなどのマスメディアがきちんと伝えていないことがなんなのかを知る意味で、この記事を読んでおくことをおすすめしたいです。

なお、ひとつだけ、星さんの一文に対して何か「課題」を指摘するならば、この点があります。

まず、大阪市内については一応「政令指定都市」ということもあって、大阪市教委が大阪府教委とは別に、独自の教育改革をおこなってきた経過があります。ただ、大阪市については、前の市長の任期中に、今の大阪府の橋下行財政改革をサポートしているような外部人材層などにも協力を得ながら、「身の丈改革」等のかけ声のもと、財政破綻を回避するためのさまざまな取り組みが行われてきた経過があります。

その「身の丈改革」等のプロセスで、大阪市内では大阪府下よりも先行的に、生活困難層への数々の支援施策が縮小、打ち切りになってきたという側面もあるのではないでしょうか。そして、その施策の縮小、打ち切りのなかには、大阪市内の場合、例えば青少年会館条例の廃止・事業解体とか、児童館・トモノス事業の廃止のようなものも含まれています。

こういった「身の丈改革」等、この何年かの行財政改革の「しわよせ」が、大阪市内の場合、顕著に子どもの生活面で現れてきたのだ、それも、府下の他地域よりも先行的に現れてきたのではないか・・・・、ということも含めて、星さんには調べて書いていただきたかった。この点が一つ、今後の「課題」かな、というところでしょうか。

でも、星さんの一文は、基本的に「まちがったことは書いてない」と思う、いい記事ですので、ぜひとも読んでいただきたいです。

そして、橋下改革について新聞やテレビが取り上げないことが多々ある今こそ、本当は雑誌やブログなど、別のメディアがいろいろ、別の観点からの情報発信を続けるべきなのですが・・・・。しかし、解放運動系の雑誌でいうと、例えば『解放』や『ヒューマンライツ』はかなり、大阪市内や大阪府下の現状をふまえ、例えば橋下改革やこの間の大阪市政改革への批判とか、格差社会にまつわる諸問題を取り上げて書いているのですが、『解放教育』は「今、誰に向けて記事を書いてるのか?」というところでしょうか。編集者のセンスの問題でしょうか? 本当は橋下改革、特に教育改革に対する危機感をもっと『解放教育』が訴えてもいいのでしょうけど、毎号の紙面を見る限り、「今の社会情勢に対する危機感があるのか?」と言いたくなる記事が多いです。この際だから、あえて指摘しておきます。

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