中学校が遺族の卒業式出席認めず(NHK大分NEWSWEB、2017年3月24日)
http://www3.nhk.or.jp/lnews/oita/5074967961.html
この件、ご参考までに。
<その1>
文科省「学校事故対応に関する指針」は、国公私立のあらゆる学校での事後対応及び未然防止に関する対応の指針で、当然ですが、この私立学校においてもこの指針の趣旨に沿った対応が求められます。
その指針の21ページに「被害児童生徒等が死亡した場合」の「(被害児童生徒等の)保護者への支援」が書かれています。そのなかには、次の言葉があります。
○葬儀が終わった後も、被害児童生徒等の保護者への関わりは継続して行い、学校との関わりの継続を求める被害児童生徒等の保護者に対しては、他の児童生徒等の気持ちにも配慮しつつ、クラスに居場所を作る等の工夫をする。
○被害児童生徒等の保護者の意向も確認し、卒業式への参列等も検討する。
この記事を読む限り、この指針の趣旨に「真逆」の対応をしてきたのが、この当該の私立学校ですね。この点は、大分県の私立学校行政の担当者がコメントをしているとおりです。
<その2>
次に、この記事の文中で、当該の私立学校側は「ご両親が感情的になり、卒業式の円滑、厳粛な進行が保たれないおそれがあった。やむをえない措置だった」と述べています。
しかしながら「学校事故対応に関する指針」の趣旨に即して言えば、ご遺族をそういう感情にさせないように、卒業式をどのような形で迎えるのか、事前にていねいな話し合いをすべきです。
したがって、これは当該の私立学校の事後対応の「失敗」を意味するもの、誤りを意味しているものとして、少なくとも私は理解しています。
<その3>
他方で、学校事故訴訟で被告側代理人(特に私立学校の訴訟での被告側代理人)を務めることもあるような弁護士のなかには、次のように文献のなかで述べている人もいます(これは『新しい学校事故・事件学』の第3章にも引用した文章です)。
○被害者側が学校側との交渉を申し入れてきた場合、学校側としては、拒否することなく、相当の対応をしなければならない。しかし、十分な説明を尽くしたにもかかわらず、事故の責任を学校に押しつけようとする執拗な交渉の申入れがあった場合は、学校側の把握した事情と事故の責任についての見解は、既に説明したとおりである旨を回答し、交渉の申入れに応じないこととするのが相当であろう 。
○被害者の父母が、学校事故の真相を把握しようとして、学校関係者や、児童生徒等や保護者に執拗に働きかけ、そのことについて児童生徒等や保護者から苦情が申し出られているような場合は、被害者側の弁護士を通じて、父母に対して節度ある行動を求めることが考えられる 。
※以上の2つの引用は、いずれも俵正市『学校事故の法律と事故への対応』法友社、2006年より。
おそらく、今回のケースでも、何らかの形でこの卒業式のことやご遺族からの要望について、顧問弁護士に当該の私立学校側から相談があったのかもしれませんね。
もしもそうだとすると、ここから先は私の推測でしかないのですが、依然として私立学校やその代理人になる弁護士のなかには、先の引用ような遺族(被害者家族)への対応、つまり何らかの理由をつけてとにかく交渉を打ち切ろうとするような、そういう対応を行おうとする発想が根強くある、ということでしょうね。そういう学校や専門職の対応がかえって関係をこじらせたり、問題を大きくしてしまう場合があるにもかかわらず、です。
私が『新しい学校事故・事件学』で「研究者・専門職の実務の内実、専門性が問われる」ということを訴えようとしたのは、まさに、こういう現象あってのことです。