アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

上野千鶴子氏「ジャニーズ報道への違和感」の問題提起

2023年09月20日 | ジェンダー・性暴力と日本社会
   

 上野千鶴子氏(東京大名誉教授・社会学)が17日付京都新聞(1面リレーコラム「天眼」)に、「ジャニーズ報道への違和感」と題して寄稿しています。

 上野氏は、ジャニー喜多川氏性加害問題について「メディアの姿勢が熱い。…この熱さはどこから来るのだろう?」として、4点挙げています。

性虐待の規模の大きさと継続した時間の長さ。
芸能界という特異な業界。アイドルにはファンがつき、知名度があった。
男性が被害者であること。
メディアの共犯性。

 そしてこう続けます。「以上あげた四つの理由のひとつひとつに、「もし」を考えたくなる」(以下、抜粋)


もしそれがたったひとりの被害者だったら?事実、伊藤詩織さんが山口敬之氏の性暴力被害を訴えたとき、どれだけのメディアが注目しただろうか。

もし、これが学校や民間企業や福祉施設であったら?これほどメディアが「発情」することはなかっただろう。

もしこれが男性から女性への加害であったら?性被害を受けた男性アイドルたちに多くの女性ファンは同情的だと聞くが、これがもし女性アイドルの男性ファンなら、自己責任を問い、被害者を責めることはないだろうか。

もしこれがメディアの利害がからまない問題であったら、メディアはもっとすっきり「以後、ジャニーズ事務所との契約は一切断つ」と宣言できただろう。

 そしてこう結んでいます。

「この問題が浮上した背景には性暴力を問題化してきた女性たちの長い闘いがあったことを忘れてほしくない」

 上野氏は「報道への違和感」として論述していますが、①②③はこの問題についての市民・社会の受け止め方に対する警鐘でもあるでしょう。

 たとえば、ジャニーズ事務所の会見(7日)以降、大手企業のジャニーズ事務所との契約見直し・解消が相次いでいます(写真右)。

 私はこれに「違和感」があります。池に落ちた犬を叩くことによって、大手企業は自社は性加害に厳しい企業だと言う「正義」を示そうとしているように見えます。しかし、そういう企業の中にセクハラはないのでしょうか?被害者が少数(1人~)であったり、女性従業員である場合、各社はジャニーズ事務所にみせているような毅然とした対処を自社内で行っているでしょうか?
 上野氏が指摘する①②③の「もし」はこれらの大手企業にも突き付けられているといえるでしょう。

 そしてその「もし」は、私たちが「ジャニーズ問題」をどういう視点で捉えるべきかの問題提起でもあります。

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ウクライナ支持「国会決議」を絶対視する危険

2023年09月19日 | 国家と戦争
  
 
 立憲民主党の原口一博衆院議員がウクライナ情勢に関してネットに投稿した動画が物議をかもしています。在日ウクライナ大使館(写真中の左は大使)は13日、「絶対に受け入れられない」という抗議の文章をSNSに投稿しました。原口氏は14日、SNS上で弁明しました。立民の岡田克也幹事長は同日、「重大な誤解を招きかねず不適切」として口頭注意しました。

 ここで原口氏の投稿内容についてコメントするつもりはありません。
 しかし見過ごせないのは、ウクライナ大使館が、「(原口氏の発言は)日本国会によるウクライナ支持決議に相違するものとして、絶対に受け入れません」(13日の投稿)とし、メディアも「日本の衆参両院は昨年3月、ロシアによるウクライナ侵攻について「力による一方的な現状変更は断じて認められない」…といった決議案を採択している」(13日付朝日新聞デジタル)などとして、ウクライナ支持の「国会決議」(22年3月1、2日、名称は「ロシアによるウクライナ侵略を非難する決議」)を絶対視して原口氏を批判していることです。

 これは妥当でないばかりかきわめて危険です。

 第1に、「国会決議」はロシアを一方的に非難するもので、非戦・非武装の「平和憲法」を持つ日本の国会の決議として、けっして正当な決議とはいえません。

 この決議案には、政党としては「れいわ新選組」だけが反対し、個人としては高良鉄美参院議員(沖縄選出)が棄権しました。

 「れいわ」は声明(同2月28日)で、「ロシアの暴走という一点張りではなく、米欧主要国がソ連邦崩壊時の約束であるNATO東方拡大せずを反故にしてきたことなどに目を向け、この戦争を終わらせるための真摯な外交的努力を行う」べきであると主張しました。

 高良氏も声明(同3月3日)で、「決議案で「ウクライナと共にある」という言い回しには違和感がある。今こそ平和憲法を持つ日本が、欧米とは違う立場で、独自にロシア、ウクライナに平和的解決を求める積極的な外交を行うべきである」と述べています。

 戦争の一方に偏した「国会決議」に対し、両者の主張はきわめて正当です(22年3月10日のブログ参照)。

 第2に、ウクライナ情勢に限らず、「国会決議」(国会内の多数派)が正しいとは限らず、「決議」を盾に少数意見を封殺することは政治のファッショ化を強めることになります。

 折しも、11日放送の「映像の世紀バタフライエフェクト」は「9・11が変えた世界 運命の3人」として、米下院議員のバーバラ・リー氏(写真右)を取り上げました。

 2001年9月11日の「同時多発テロ」直後、米国中が怒りに包まれる中、ブッシュ政権はアフガニスタンに対する武力行使の議会決議を強行しました。上院は全会一致でしたが、下院ではただ1人反対者がいました(420対1)。それがバーバラ・リー議員でした。いまではリー議員の冷静な判断と絶対的孤立を恐れない勇気が称賛されています。

 政治の軍事化・ファッショ化が強まる情勢の中でこそ、冷静で理性的な判断と、大勢に流されない信念と勇気が求められます。いまの日本の政治・社会・市民に最も必要とされているのは、それではないでしょうか。

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国連報告者が日韓「慰安婦」合意改正を勧告した意味

2023年09月18日 | 日本軍「慰安婦」・性奴隷・性暴力問題
   

 15日の韓国ハンギョレ新聞(日本語電子版)が注目すべき記事を掲載しました。安倍晋三政権が戦時性奴隷(「慰安婦」)問題を棚上げするため韓国・パク・クネ(朴槿恵)政権(当時)と行った「慰安婦」合意(2015年12月28日)に対し、国連特別報告者が13日、「国際基準に則って改正することを勧告する」とした報告書を発表したのです(以下、記事から抜粋)。

< 国連の真実・正義・賠償・再発防止の促進に関する特別報告者のファビアン・サルビオリ氏(写真右)は、ジュネーブの国連事務所で開かれた第54回国連人権理事会会議で、韓国訪問報告書を発表した。サルビオリ氏は昨年6月8日から15日まで韓国を訪問し、慰安婦被害者など過去事に関連する人物や団体に会って意見を聞き、韓国の人権状況を調べた。

 サルビオリ氏は報告書で、「慰安婦」合意に関して、「国連人権機関は、この合意が国際人権基準に合わない点に懸念を表明し、被害者の観点を考慮するよう求めた経緯がある」とし「国連拷問防止委員会も、この合意が補償と賠償を提供できない点に憂慮を示した」と指摘した。さらに「第2次世界大戦における(日本軍)性奴隷制の生存被害者が、国際基準に則って真実・正義に符合する賠償と再発防止措置を保障されるよう、合意を改正することを勧告する」と明らかにした。>

 「慰安婦」合意は、安倍政権とパク・クネ政権の間で、被害者(サバイバー)の頭越しに行われた政治決着で、公式文書すら存在していません。安倍首相の下で実際に「合意」に動いたのは岸田文雄氏(当時外相)です。

 「合意」は日本の法的・政治的・道義的責任を完全に回避し、「10憶円提供」で決着を図ったもの。安倍政権はこれによって性奴隷問題を「最終的かつ不可逆的に」棚上げしようとしました。

 しかし、韓国では被害者自身はもちろん、支援する団体など広範な市民団体が批判し、「合意」廃棄の世論が高まっています。ユン・ソンニョル(尹錫悦)政権は世論に反し、「合意」に固執する日本政府と足並みをそろえています。

 そんな中での今回の国連特別報告者による勧告は、きわめて重要な意味を持ちます。とりわけ、「この合意が補償と賠償を提供できない点」が最大の問題だと指摘し、「国際基準に合わせて」改正するよう求めている点が注目されます。

 問題は日本です。サルビオリ氏の勧告は直接的には韓国政府に対するものですが、その内容が日本政府にも該当することは言うまでもありません。私たちはこのニュースを自分事と捉える必要があります。

 ところが日本のメディアは、このニュースを一切報じていません(もし見逃がしていればあまりにも小さな扱いだから)。この背景には、日本のメディア自身が、さらに与野党を含め、そろってこの「合意」を評価している問題があります。

 安倍政権の戦略に基づく「慰安婦」合意を評価・支持する政党、メディアは、その人権感覚が「国際基準」に達していないことを自覚・自省しなければなりません。

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日曜日記267・山田洋次監督、いつまでも

2023年09月17日 | 日記・エッセイ・コラム
  山田洋次監督の最新作「こんにちは、母さん」(吉永小百合、大泉洋主演)は、近年の山田作品の中で、私はトップクラスの評価だ。

 特別な「事件」があるわけではない。家庭、職場、地域の日常が誇張なく描かれている。そこで起こる出来事は当事者には「事件」かもしれないが、それが日常の生活だ。時間が人の歩行速度で流れて行く。

 そう、近年のデジタルを駆使したアクション、スペクタルもの、早口のセリフが飛び交う映画・ドラマとは対極なのだ。

 それが心地よかった。「高齢者の恋愛」というテーマも興味深かった。「離婚」や「娘との関係」もひとごとではなかった。70代に足を踏み入れた自分がそこにいても不思議でない映画なのだ。

 この映画は山田監督の実母への想いが背景にあるといわれている。
 山田洋次監督と双璧といえる宮崎駿監督の最新作「君たちはどう生きるか」も監督の実母の回想によるものとの映画評がある。

 同じ「母への想い」でも、描き方は対照的。どちらもいいが、山田作品はとにかく分かりやすい。それが嬉しい。
 分かりやすいことは内容は浅いということではもちろんない。「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」という井上ひさしの言葉を思い出す。

 観たのは土曜の昼間だったが、観客は高齢者が多かったように思えた。独りの人も結構いた。数人の女性グループ(私と同年代か少し上)が出てきて言葉を交わしていた。「よかったね」

 山田作品は高齢者の味方なのだ。分かりやすくて、身につまされて、笑って、泣いて、見終わって「人間って、いいもんだな」と思う。「寅さん」がそうだった。「黄色いハンカチ」も。それが山田洋次監督の世界だ。

 9月13日で92歳になった山田監督。いつまでも創り続けてほしい。病気やこの先のことで気が滅入りがちな高齢者に、笑いと涙を届け続けてほしい。山田映画を見ることができるだけでも、生きていることは楽しい。

<今週のことば>

 藤目ゆき氏(大阪大教授)

 「慰安婦」問題で日本人の問題意識が欠如しているのは…

<大阪大の藤目ゆき教授は、日本が戦後、見舞金制度で片付け、慰安婦に国家賠償をしてこなかったことが、国民の問題意識の欠如につながったと指摘。「日本人の被爆者や戦災者に対しては国家補償を実現しようと努力してきたが、慰安婦問題ではそれを怠った」と語った。>(9日、沖縄大学で行われたシンポ「沖縄から考える『慰安婦』問題」で=10日付沖縄タイムス)

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「再審の壁」が示す日本社会の構造的後進性

2023年09月16日 | 日本の政治・社会・経済と民主主義
   

 最初の再審請求(1981年4月)から42年。袴田事件(1966年6月)で「自白」の強要と「証拠」の捏造で死刑判決を受けた袴田巌さん(87)の無罪はまだ確定していません。

 これまで「死刑」判決を受け再審で無罪を勝ち取った冤罪事件は4件ありますが、いずれもその間20~30年かかっています(免田事件32年、財田川事件27年、松山事件24年、島田事件29年―「アムネスティ・ニュースレター」2023年9・10月号より)。

 なぜこんなに時間がかかるのか。日本の再審制度には高い壁があるからです。
 その壁は、すべての日本人にとってけっしてひとごとではありません。
 壁とは何か。弁護士の鴨志田祐美氏(日弁連再審法改正実現本部本部長代行)が「再審に立ちはだかる100年前の法律 今こそ制度改革を」と題した「アムネスティ・ニュースレター」(同上、写真左)のインタビューで解説しています(以下、抜粋)。

< 実は、再審に関する今の法律は、大正時代の旧刑事訴訟法とほとんど変わっていないんです。…旧刑事訴訟法は悪者を捕まえて罰することを重視してきた必罰主義です。…今の憲法になったとき…全部の改正が間に合わなくて見切り発車してしまった。そのため再審含め上訴から後は、戦前の条文がほぼそのままなんです。…今、袴田さんの件を受けて制度改革の機運が再び高まっています。ここで改革しないと、また30年同じことが続いてしまうでしょう。

 (他の国の再審は?)日本の刑事訴訟法を基にしていた台湾では、2度も法が改正されました。韓国も日本の刑事訴訟法が下敷きになっていますが、再審制度改革の検討が進んでいます。
 英国では裁判所ではなく、政府から独立した強大な調査権限を持つ第三者機関が再審を扱うようになりました。
 ドイツでは、証拠の全面開示が制度化されていて、検察の抗告もずいぶん前にやめています。
 米国にはいわゆる再審という制度はありませんが、検察庁内に有罪判決を見直す組織をつくっているところが、どんどん増えています。

 (なぜ日本は制度改革されない?)日本はえん罪をヒューマンエラーに帰着させようとして、システムエラーとして検証しない。だから、原因を究明して再発防止に取り組むという当たり前のことが行われない。えん罪は多重構造が生み出すものです。

 (日弁連が今年7月再審法改正特設サイトを開設した意図は?)日本の市民の間には、警察や検察など、権力に対する漠然とした信頼感があるように感じます。権力を監視する意識が薄いというか。私たちがいくら訴えても、世論が盛り上がらない。

 えん罪事件は誰にでも起こり得ることです。他人事ではないのです。でも、今のままではえん罪を晴らすのには何十年もかかってしまいます。
 えん罪被害者の速やかな救済のためには、再審法(刑事訴訟法の再審規定)の改正が必要不可欠です。特に、再審開始決定に対する検察官の抗告を禁止することと、再審請求手続きにおける証拠開示を制度化することが必要です。

 日本のみなさんには、もっと怒ってほしい。怒るのはよくない、我慢は美徳だという教育を受けてきたせいかもしれませんが、合理的な怒り、正当な怒りがなければ、世の中は変えられない。その怒りを国民が共有した時に、変わるのだと思います。>

 鴨志田氏の指摘は、「えん罪は誰にでも起こり得る」という点だけでなく、普遍的な問題を含んでいます。
 日本の政治・社会は、一部の法律を含め、100年前と変わっていない。その根底には、「権力に対する漠然とした信頼感」「権力を監視する意識が薄い」「我慢は美徳」「怒るのはよくない」という国民性がある。

 その根源は、日本がいまだに天皇制を維持していることにあると考えます。明治憲法下では文字通り“お上”を批判することが力で抑えつけられた。新憲法では「象徴天皇制」という形で身分制度が残された。天皇(皇室)の存在が、怒らない、国家権力に従順な「国民」を作っているのではないでしょうか。

 再審法を改正して再審の壁を崩すことを、日本の社会構造全体を問い直し「変える」ことに繋げる必要があります。

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官邸が首相記者会見を“事前検閲”

2023年09月15日 | 政権とメディア
  
 政権(国家権力)のメディア支配、メディアの権力追従はここまできていたのか―。そう驚かされる論稿がありました。

 山田健太専修大教授(言論法)の琉球新報定期コラム「メディア時評」(月1回)の今月の論稿(9日付)。「記者会見の政治利用」と題して山田氏はこう書いています(太字は私)。

<本来は、会見の場で政治家が一方的に自説を開陳し、質問を受け付けないとか、特定の記者(社)の出席を拒否したり質問を認めなかったりするという行為は許されるものではない。ただし残念ながら実態は、会見を実質的に政治家の側が仕切る状況が一般化している。
 たとえば首相の官邸会見はその典型例で、出席者の数や顔ぶれに始まり、司会を官邸が行い、事前に質問を提出させ、それに従って質問者を指名し、さらに追加質問は認めないという運用がなされている。>

 首相の官邸会見で政府側が司会をし、出席人数を制限し(「コロナ」を口実にいっそう制限)、追加質問を認めない、という不当運営が行われていることは周知の事実で、これだけでもたいへんな問題です。

 ところがそれだけではなく、「事前に質問を提出させ、それに従って質問者を指名」しているというのです。これが事実なら(山田氏の言明なので事実でしょう)、他の不当運営とは別次元の、きわめて重大な事態と言わねばなりません。

 事前に質問内容を提出させて質問者を選ぶとは、政権に都合の悪いものは質問させないということであり、政権(国家権力)による事前検閲以外の何ものでもありません。
 憲法は、「検閲は、これをしてはならない」(第21条)と規定しています。記者会見の事前検閲は明白な憲法違反です。日本政府の「表現・報道の自由」侵害はここまで進んでいるのです。

 同時に重大なことは、政権によるこの明白な報道弾圧をメディア側が唯々諾々と受け入れていることです。

 メディア側がこの事態を問題にし、政府に抗議・撤回を申し入れたとは報じられていません。現場の官邸クラブ、政治部、メディア本社、さらに日本新聞協会、記者の労働組合である新聞労連は何をしているのでしょうか、なぜ沈黙しているのでしょうか。

 メディアだけではありません。官邸記者会見には、江川紹子氏や神保哲生氏らフリーランスも参加しています。かれらにも「事前の質問通告」(事前検閲)の網はかぶされていたのはずです。なぜ抗議し、問題を社会に訴えなかったのでしょうか。

 記者会見は当然メディア側の主導(司会、運営)で行うべきです。とりわけ官邸の首相記者会見はテレビ中継も行われる影響力の大きさから、政権側に運営をゆだねるべきではありません。
 まして、「事前の質問通告」は即刻やめさせなければなりません。
 メディア・ジャーナリストは一体になって、この問題で直ちに行動をおこすべきです。

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グローバルサウスの力と「非同盟」の道

2023年09月14日 | 国家と戦争
   

 インドで開かれていたG20 (主要20カ国・地域首脳会議)(9日~10日)。日本のメディアは習近平主席やプーチン大統領の欠席を話題にしましたが、最も注目されたのは、グローバルサウスと言われる国々の存在感でした。ロシア、中国代表も参加する中、ウクライナ情勢を含め首脳宣言(全会一致が原則)が危ぶまれていれましたが、採択されました(写真右)。それもグルーバルサウスの力でした。

 10日付の朝日新聞デジタルは、「G20 首脳宣言を「救った」グローバルサウス」の見出しで、その「舞台裏」を報じました。

<膠着状態が動いたのは開幕2日前。インド、インドネシア、ブラジル、南アフリカの4カ国が、ウクライナ情勢について「中間地点」とする独自案を提示した。それが土台となって議論は動き出したという。
 4カ国はいずれも「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国のなかの有力国。覇権を争う大国とは巧みに距離をとって立ち回ってきた。>

 とくに中心になったのは開催国のインドでした。インドの学者がこう解説します。

「インドは長く英国に植民地支配されました。独立後は、どの陣営にも属さないという非同盟、戦略的自律政策を取りました」「インドは、西側諸国とロシアや中国とのはざまに位置しようとしています。古代の格言に、「話すらしなければ、その関係は二度と元には戻らない」というものがあります。関係を改善するには、当事者間のパイプが必要であり、不確実性の時代において、インド政府はその役割を担おうとしているのです」(ジャワハルラル・ネール大学のチョードリー教授、9日付朝日新聞デジタル)

 また、グルーバルサウスの国の多くがロシアへの経済制裁に加わっていないことについて、ブラジルの学者はこう述べています。

「多くの場合、制裁はその国の為政者ではなく、貧困層に負の影響を与えるからです。…グルーバルサウスの中には、安保理決議を経ないまま(03年に)イラクを攻撃した米国を批判する国もあります。彼らは問いかけます。「誰か米国に制裁を科しましたか?」と」(ブラジル・FGV大学のストゥンケル准教授、7日付朝日新聞デジタル)

 同准教授はさらにこう続けます。

「ブラジルは、米国以外の大国との関係を維持することが、中南米を長年従属地域とみなしてきた国とのバランスを取る最善の方法だと考えています。…ブラジルは、インドや南アフリカなどと同じように、どの陣営にもつかない「非同盟」の維持を望んでいます。グローバルサウスが直面する最大の課題は、この「非同盟」をどこまで維持できるかということです」(同)

 アメリカを中心とするG7 の多く、そして日本は、かつて他国へ侵略して植民地化した旧宗主国・覇権国です。一方、グルーバルサウスの多くはその被害を受けてきた国々です。だからこそ「どの陣営にもつかない非同盟」を目指しているのです。

 旧宗主国・覇権大国が世界を牛耳っている限り、世界に戦争・紛争は絶えないでしょう。「非同盟」こそこれからの世界に求められている国際関係です。

 その意味を、勝俣誠・明治学院大名誉教授はこう指摘します。

「今やアフリカ、アジア、南アメリカを巻き込んだ地球人口の3分の2を占める貧者の圧倒的大衆としてのグローバルサウスの声は、核戦争と地球環境の破壊を避け、何よりも持続可能で万人が安心して尊厳をもって暮らせる世界の秩序の実現を探る新たな地球民主主義の展望を示唆しているといえよう」(「ウクライナ危機とアフリカ―グローバルサウスの復権」、「世界」10月号所収)

 日本がグルーバルサウスの国々とともに、「新たな地球民主主義」を目指すことになれば、どんなに素晴らしいでしょう。そのためには、過去の侵略戦争・植民地支配の過ちをはっきり反省・謝罪し、1日も早く日米軍事同盟=安保条約を廃棄して「非同盟」の道を進まなければなりません。


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「汚染魚」表記の予定候補を下ろした日本共産党の自己矛盾

2023年09月13日 | 日本共産党
   

 日本共産党の小池晃書記局長は11日国会内で記者会見し、次期衆院選で広島6区から党公認で立候補を予定していた村井明美氏(75)が「立候補を辞退した」(12日付しんぶん赤旗)と発表しました。

「小池氏は、村井氏がX(旧ツイッター)上でツイートした「汚染魚」との表現について、「日本近海の魚が放射性物質によって汚染されているということは、わが党の認識と見解に反する」と述べ、党書記局として、「ツイートを削除し、謝罪するよう本人に指示した」と語りました。
 その後、村井氏から広島6区の候補を辞退したいとの申し出があり、11日の常任幹部会で辞退が承認されたことを説明しました」(同しんぶん赤旗)

 村井氏が「立候補を辞退した」形をとっていますが、実際は党中央が村井氏を予定候補から下ろした(処分した)と言えます。この経過には大きな問題が2つあります。

 第1に、処分理由の自己矛盾です。

 小池氏は「日本近海の魚が放射性物質によって汚染されているということは、わが党の認識と見解に反する」と説明しました。しかし、共産党は一貫して海洋放出されたのは「汚染水」だと言っています。

 現に小池氏は同じ11日の記者会見で、記者が「「汚染水」との言葉を使うのをやめるべきではないか」と質問したのに対しこう答えています。

「『汚染水』という言葉を使ってはいけないかのような議論にはくみしない。…溶け落ちたデブリに接した水なので…アルプス処理によって現時点では排出基準は下回ったとしても…私たちは汚染水と呼んでいる」(12日付しんぶん赤旗)

 これは正当な主張です。海洋放出されたのは汚染水、あるいは処理汚染水と言うべきものです。いずれにしても汚染されています。その犯人は言うまでもなく東京電力と日本政府です。

 そうであるなら、汚染水の中に住む魚を「汚染魚」と言って何が間違っているのでしょうか。汚染水だと言いながらその中の魚は「汚染されていない」という共産党の「認識と見解」は支離滅裂、自己矛盾も甚だしいと言わねばなりません。

 村井氏の「汚染水」表記は事実にも、また、「汚染水」と呼んでいる共産党の方針にも反していません。

 この件で直ちに想起されるのは、野村哲郎農水相の「汚染水」発言です。岸田首相は「汚染水」の言葉が「関係者に迷惑をかける」として直ちに厳重注意し火消しに躍起になりました(2日のブログ参照)。「汚染魚」表記で「関係者のみなさんに謝罪をします」(小池氏、同上しんぶん赤旗)という共産党中央の対処は岸田政権のそれとどこが違うのでしょうか。

 第2に、経験豊かな女性政治家を予定候補から下ろした重大さです。

 党中央の自己矛盾に満ちた「理由」で、村井氏は予定候補から下ろされました(下りざるをえませんでした)。村井氏は広島県福山市の市会議員を長年務め、衆院選にも何度も立候補するなど、保守地盤の強い地で共産党の看板を背負って奮闘してきた女性政治家です。

 それが今回のような理不尽な理由で事実上政治生命を断たれる処分を受けました。処分の当否・軽重は党内問題なのでこれ以上言及しませんが、女性政治家をもっともっと増やなければならない時に、きわめて残念です。

 小池氏は以前、党内での「パワハラ」が認定され、警告処分を受けました(22年11月14日)。しかし、小池氏は党内ナンバー2の書記局長の地位に居続けています。それは小池氏が最高幹部の1人だからなのか、それとも男だからなのか。今回の村井氏とはあまりにも対照的です。

 日本共産党には自省・自戒しなければならない問題が多々ありますが、今回のことはそのリストに新たなⅠ行を加えたと言えるでしょう。


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見落とせない「スポーツウォッシング」の危険

2023年09月12日 | スポーツと政治・メディア
  

 バスケットW杯に続いてラグビーW杯。スポーツ好きには楽しい大会が続いています。しかし、日本のメディアのスポーツ報道は過剰です。とくにニュースや特番で繰り返されるNHKの報道は異常です。

 スポーツは庶民の楽しみである半面、政治に利用される面があることを忘れることはできません、とりわけ国旗(「日の丸」)国歌(「君が代」)が強調される国際大会(その典型はオリンピック)は、ナショナリズムを鼓舞する場となります。

 そしてもう一つ、見落とせないのが「スポーツウォッシング」です。

 「スポーツウォッシング」とは何か。スポーツ文化評論家の玉木正之氏はこう定義します。

「人気のあるスポーツ・イベントなどで一般大衆が熱狂するなか、それを利用して権力者(政府)が自分たちに不都合な事実を覆い隠すこと。2022年サッカーW杯では、カタールの同性愛者や外国人労働者に対する差別が、W杯の熱狂で隠されたとの指摘もあった」(玉木正之・小林信也編『真夏の甲子園はいらない』岩波ブックレット2023年)

 日本において、昨年のサッカーW杯で「隠された」のはそれだけではありませんでした。

 W杯の開催は2022年11月20日~12月18日。日本が敗退する12月5日まで「熱狂」に包まれました。メディアがそれを煽りました。このとき、日本の政治は「国」の進路にかかわる重要な問題に直面していました。

 岸田首相は軍事費を5年後の27年度に約11兆円(GDP比2%)にするよう指示(11月28日)。自民党と公明党は「敵基地攻撃能力」を持つことで合意(12月2日)。そして、それらを盛り込んだ「軍拡(安保)3文書」が閣議決定されたのです(12月16日)。まさにサッカーW杯の「熱狂」に包まれていた中で。

 メディアはこうした重要な政治課題よりも、W杯の報道を優先しました(写真右は昨年12月2日午後7時のNHKニュース)。これこそ「スポーツウォッシング」に他なりません。

 今はどうでしょうか。ウクライナ戦争に停戦の動きは見えず、アメリカはウクライナに劣化ウラン弾供与を表明。林外相はウクライナに飛び、さらなる支援を約束(9日)。岸田首相は東電福島原発の汚染水海洋放出の責任を棚上げしたまま、「内閣改造」(13日)で支持率低迷に歯止めをかけようとしています。
 そんな中での、ラグビーW杯の過剰報道です。

 政権(国家権力)の統治にとって「スポーツウォッシング」はきわめて有効です。NHKはじめメディアがそれに手を貸します。スポーツの政治利用を許さない市民の見識が試さています。

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「処理汚染水訴訟」9つのポイント

2023年09月11日 | 公害・原発・環境問題
   

 東電福島原発汚染水の海洋放出で、福島、宮城、茨城、岩手、千葉、東京の1都5県の市民約150人が国と東京電力を訴えた初の訴訟(8日提訴)。日本のメディアはほとんど報じませんでしたが、韓国のハンギョレ新聞は早くから注目し、8月29日に弁護団の海渡雄一弁護士にインタビューし、5日付(日本語電子版)で報じました(写真中)。
 海渡氏の発言から、同訴訟のポイントをまとめました(以下、インタビューから抜粋)。

①「処理汚染水」 (「汚染水」か「処理水」か)多核種除去装置(ALPS)で処理された汚染水を意味する「処理汚染水」という用語を使っている。

②「二重の加害行為」 政府と東電による「二重の加害行為」を告発する訴訟としたい。 政府の原子力規制委員会は、処理汚染水放出にかかる実施計画変更認可処分(5月10日)と、放出設備検査の合格処分(7月5日)を決定している。この2つの決定の取り消しを請求する。放出を許可した処分を取り消してほしいという行政訴訟だ。東電には放出の中止を求める民事差し止め訴訟を起こす。

③「大災害」 政府は漁業分野で被害が発生することを認めて補償するという。すなわち処理汚染水放出は「災害」だということだ。これは原子炉等規制法に定める「災害の防止上十分でないもの」に当たるため違法である。

④ロンドン条約 ロンドン条約96年議定書によると、放射性物質の海洋投棄は全面的に禁止されている。処理汚染水の放出は議定書違反の可能性がある。政府は議定書が適用されるのは「船舶からの投棄」だと主張するが、議定書をよく読めば「プラットフォームその他の人工海洋構造物から海に故意に処分すること」も禁止対象に含まれている。これまで日本の処理汚染水放出がロンドン条約の対象なのか国際的な合意がなかった。これを裁判で争う。ロンドン条約が日本の裁判所で議論されるのは初めてだ。

⑤国連海洋法条約 同条約では、処理汚染水が害をもたらす恐れがある場合には、因果関係が証明されなくても処分してはならないとされている。このような予防原則を積極的に主張する。

⑥経路の把握 放出された処理汚染水が生物にどのように濃縮され、人間にどのような影響を与えるか、その経路を把握しなければならない。政府と東電はこの部分を全く評価していない。

⑦IAEA 国際原子力機関(IAEA)は日本政府の政策を推奨も支持もしないとレポートで明確に述べている。危険だと立証されていないが、安全だとも確認されていない。IAEAもそのような評価をしたわけではない。

⑧代替案 東電はタンクを新たに造る土地がないと主張しているが、完全にうそだ。7、8号機の建設予定地だった空き地がある。海洋放出以外の方策がまともに検討されていない。長期陸上保管やモルタルで固化する方法など代案があった。

⑨東電体質 東電の大きな問題点は、重要な事実を隠す可能性があることだ。今後30年以上その内容を正確に公開するか疑問だ。社長名義の約束文書(2015年8月)も結局守らなかった。

 海渡氏は最後にこう強調しています。

「これは大災害だ。それも過失ではなく故意に被害を与えるということだ。裁判所に良心があれば、このような行為は中止すべきだという判決を下すと思う」

 10月末には追加提訴も予定されています。裁判の行方を注視・支援し、「汚染水海洋放出は止めよ」の声をさらに広げる必要があります。

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