アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

見落とせない「スポーツウォッシング」の危険

2023年09月12日 | スポーツと政治・メディア
  

 バスケットW杯に続いてラグビーW杯。スポーツ好きには楽しい大会が続いています。しかし、日本のメディアのスポーツ報道は過剰です。とくにニュースや特番で繰り返されるNHKの報道は異常です。

 スポーツは庶民の楽しみである半面、政治に利用される面があることを忘れることはできません、とりわけ国旗(「日の丸」)国歌(「君が代」)が強調される国際大会(その典型はオリンピック)は、ナショナリズムを鼓舞する場となります。

 そしてもう一つ、見落とせないのが「スポーツウォッシング」です。

 「スポーツウォッシング」とは何か。スポーツ文化評論家の玉木正之氏はこう定義します。

「人気のあるスポーツ・イベントなどで一般大衆が熱狂するなか、それを利用して権力者(政府)が自分たちに不都合な事実を覆い隠すこと。2022年サッカーW杯では、カタールの同性愛者や外国人労働者に対する差別が、W杯の熱狂で隠されたとの指摘もあった」(玉木正之・小林信也編『真夏の甲子園はいらない』岩波ブックレット2023年)

 日本において、昨年のサッカーW杯で「隠された」のはそれだけではありませんでした。

 W杯の開催は2022年11月20日~12月18日。日本が敗退する12月5日まで「熱狂」に包まれました。メディアがそれを煽りました。このとき、日本の政治は「国」の進路にかかわる重要な問題に直面していました。

 岸田首相は軍事費を5年後の27年度に約11兆円(GDP比2%)にするよう指示(11月28日)。自民党と公明党は「敵基地攻撃能力」を持つことで合意(12月2日)。そして、それらを盛り込んだ「軍拡(安保)3文書」が閣議決定されたのです(12月16日)。まさにサッカーW杯の「熱狂」に包まれていた中で。

 メディアはこうした重要な政治課題よりも、W杯の報道を優先しました(写真右は昨年12月2日午後7時のNHKニュース)。これこそ「スポーツウォッシング」に他なりません。

 今はどうでしょうか。ウクライナ戦争に停戦の動きは見えず、アメリカはウクライナに劣化ウラン弾供与を表明。林外相はウクライナに飛び、さらなる支援を約束(9日)。岸田首相は東電福島原発の汚染水海洋放出の責任を棚上げしたまま、「内閣改造」(13日)で支持率低迷に歯止めをかけようとしています。
 そんな中での、ラグビーW杯の過剰報道です。

 政権(国家権力)の統治にとって「スポーツウォッシング」はきわめて有効です。NHKはじめメディアがそれに手を貸します。スポーツの政治利用を許さない市民の見識が試さています。
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