「戦争にどう向き合うのか」という市民公開講座が9日、京都市内でありました。主催はNGO市民科学京都研究所。そこで澤野義一・大阪経済法科大特任教授が「永世中立と憲法」と題して特別報告を行いました。澤野氏は「中立政策」研究の第一人者です。
澤野氏は「ロシアのウクライナ侵略の要因」をこう指摘しました。
「ウクライナは1990年の主権宣言で軍事ブロック非加盟(中立)を明記した。さらに96年、ウクライナはそれを憲法に明記した。しかし、NATOの東方拡大の中で、2019年、親欧米派政権はNATO加盟を方針とする憲法改正を行い、中立政策を放棄した」
公開講座の会場では、安斎育郎氏(立命館大国際平和ミュージアム終身名誉館長)の『ウクライナ戦争論』(6月20日発行)が販売されていました。その中で安斎氏は、澤野氏が指摘した「ウクライナの改憲」について経過を詳細に記しています。
「アメリカが50億ドルの巨費を投じて演出した暴力的なユーロ・マイダン・クーデター(2014年)は、正当な選挙で選出されたヤヌコーヴィチ大統領を暴力的に解任。その後の選挙でアメリカの狙い通り親米傀儡のポロシェンコ政権が成立した。
バイデン米副大統領(当時)はポロシェンコ政権のもとで、2019年2月7日、ウクライナ憲法116条に「ウクライナ首相はNATOとEUに加盟する努力目標を果たす義務がある」という趣旨の条文を追加させた」
澤野氏と安斎氏の指摘を年表にすると次のようになります。
▶1990年 ウクライナが主権宣言で「中立政策」を明記
▶1996年 ウクライナ憲法に「中立」を明記
▶2014年 アメリカ(オバマ大統領、バイデン副大統領)がマイダン・クーデターを演出
▶同年 親米傀儡のポロシェンコ政権が成立
▶2019年 憲法「改正」で「中立」を放棄し、「NATO加盟」を義務化
アメリカはウクライナをNATOに引き込むため、マイダン・クーデターを陰で操り、親ロ政権を転覆。傀儡政権を樹立して改憲させ、主権宣言以来約30年間維持してきた「中立政策」を放棄させたのです(写真左はマイダン・クーデター、写真中・右はそれを演出したヌーランド米国務次官補=当時)。
これはウクライナ戦争の発端といえる重要な経過です。
平和学研究者の足立力也氏によれば、ロシアは軍事侵攻(2022年2月24日の)4日後に「停戦条件」を示しました。その内容は、「①ウクライナの中立化②ウクライナの非武装化③ウクライナ領だが2014年にロシアが併合したクリミア地方のロシア主権承認④ドンバス地方の独立承認」でした(日本ジャーナリスト会議(JCJ)機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号掲載の足立氏の講演)。
ロシアはウクライナの「中立化」を「停戦」の第1条件にあげましたが、それはアメリカが暗躍して憲法を変えさせるまでは憲法に明記されていたウクライナの基本政策だったのです。
ゼレンスキー大統領は米欧軍事同盟であるNATO加盟に躍起になっていますが、あらゆる軍事同盟に加わらない「中立化」に立ち戻ることこそ停戦とその後の平和、ウクライナ市民の安全を保障する道です。