9日付の朝日新聞デジタルによれば、ウクライナ政府のマリャル国防次官は、「273日前にロシアの兵站を寸断するため、クリミア橋への最初の攻撃が行われた」と述べ、橋爆破へのウクライナ軍の関与を実質的に認めました。テレグラムチャンネルに投稿した内容を、独立系メディア「メドゥーザ」が9日伝えました。
クリミア橋の爆破(写真左)は2022年10月8日。ニューヨークタイムズは直後から「ウクライナ情報機関が計画」と報じましたが、ウクライナ政府は否定していました。9カ月たってようやく認めたわけです。
ウクライナ政府やアメリカ・NATOが「ロシアの犯行」と主張していたものが、実はそうではなかった、という例はこれだけではありません。
▶海底パイプライン「ノルドストリーム1・2」の爆破(2022年9月26日、写真中)
ゼレンスキー大統領はウクライナの関与を否定し、バイデン大統領は「ロシアの意図的な破壊工作だ」(9月30日)と非難しました。
しかし、調査報道でピューリッツア賞を受賞したジャーナリスト・シーモア・ハーシュ氏が「米海軍の潜水士が爆弾を仕掛けた」と暴露(23年2月8日)。米紙ワシントン・ポストは、「バイデン政権がウクライナ軍による攻撃計画の情報を事前に把握していた」と報じました(6月6日)。
▶ウクライナ軍による「人間の盾」
国連人権高等弁務官は2022年7月に公表した「報告書」で、ウクライナ軍が「国際人道法を守らなかった可能性がある」として市民を巻き込む「人間の盾」を警告しました。ゼレンスキー氏は明確に否定しました。
しかし、アムネスティ・インターナショナルも8月4日の報告書で、ウクライナ軍が、学校や病院を含む民間人居住地域に軍事拠点を構築し、市民の命を危険にさらしていると批判しました。
ロシアとウクライナが非難の応酬をしている事案で、真相が明らかになっていない問題は他にもあります。
▶ポーランドへのミサイル着弾(2022年11月15日)
ウクライナ政府の調査団が11月下旬現地入りしましたが、その結果は報じられていません。
▶穀物輸出の実態
国連とトルコの仲介で合意された穀物輸出再開(2022年8月1日)。プーチン氏は「途上国へは3~5%しか送られておらず、大半は欧州へ横流しされている」と批判。仲介したトルコもロシアの指摘を認めましたが、ゼレンスキー氏は「事実無根」と否定。協定の延長にかかわる焦眉の問題です。
▶ウクライナ南部カホフカダム決壊(6月6日、写真右)
ゼレンスキー氏は「ロシアの戦争犯罪」と非難しましたが、アメリカ政府はコメントしていません。トルコのエルドアン大統領はプーチン氏との電話会談を受けて「真相究明調査委員会」の設置をゼレンスキー氏に提案(6月7日)しましたが、ゼレンスキー氏の回答は報道されていません。
▶ザポリージャ原発の事態
ゼレンスキー氏は「ロシアが爆発物を設置した」と発言(4日)。ロシアは「全くのウソだ」(ラブロフ外相)と反論。IAEAも「差し迫った危機はない」としながら「調査する」と言明。
以上の諸事案に共通しているのは、NHKはじめ日本のメディアは(日本だけではないようですが)、当初からゼレンスキー氏のビデオメッセージの肉声を流すなどウクライナ政府側の主張を詳細に報じる一方、真相究明(あるいは調査の途中経過)の報道は行わず、曖昧なままにしていることです。
これはきわめて重大な偏向報道です。戦争当時国同士のプロパガンダも問題ですが、「中立」を装いながら行われるメディアの偏向報道は市民の情勢判断を阻害し、結果、停戦・和平を遠ざけることになり、いっそう重大です。
戦争の中でも、戦争の中だからこそ、真実の報道、真相究明が必要であり、私たち市民はそれを要求する権利と義務があります。
※明日も更新します。