アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
  人権・平和・民主主義・生き方を考える。
   

首相の「夫人同伴」とジェンダー

2023年07月21日 | 天皇制と政治・社会
  
 
 岸田文雄首相は先のNATO(北大西洋条約機構)首脳会議出席(11、12日)に裕子夫人を同伴しました。今回に限らず、外遊に夫人を伴うことは少なくありません(写真左)。日本だけではありませんが、この悪しき慣習はやめるべきです。その理由はいくつもあります。

 第1に、「夫人同伴」は天皇制(君主制)の模倣だからです。

 「夫人同伴」がいつから、どういう経緯で始まったのか、詳細は分かりませんが、ウィキペディアには、「首脳が外国訪問に妻を伴うのは、かつて王侯が遠方へ出かける際には必ず妃を伴った習慣の名残である」とあります。

 日本の「皇室外交」において、天皇や皇太子は基本的に皇后、皇太子妃を同伴します(写真中)。

 主権在民の社会で、「国家」の代表とされる首相が天皇制の慣習に倣うのはきわめて不適切です。

 第2に、甚だしい政治の公私混同だからです。

 言うまでもなく、首相夫人(いわゆるファーストレディ)は選挙で選ばれた人ではありません。公務員でもありません。その人物が首相の配偶者であるという属性で「国家」を代表するかのように振る舞う権限はなく、公私混同も甚だしいと言わねばなりません。

 首相の息子を「秘書官」にして首相官邸に入れることが問題になりましたが、外遊への「夫人同伴」もそれと同じ問題性を持っています。

 第3に、公費(市民の税金)の無駄遣いだからです。

 「夫人」の海外渡航・滞在費用はすべて公費(税金)です。
 それだけではありません。「首相夫人」には複数の省庁から派遣された官僚が専属担当としてつきます。安倍晋三元首相の昭恵夫人には5人の担当官僚がつき、「森友学園」疑惑で問題になりました。専属官僚ももちろん公費負担です。

 第4に、強調する必要があるのは、典型的なジェンダー差別だということです。

 首相が女性の国では男性のパートナーが同行することが希にありますが、圧倒的に「夫人同伴」です。

 夫人が一歩下がって首相に同行する姿は、典型的な「内助の功」の図であり、家父長制度の残滓といえます。

 これは、第1の「天皇制の模倣」と表裏一体の問題です。天皇・皇太子が皇后・皇太子妃を従える姿は、家父長制度そのものであり、「男系男子」の世襲制である天皇制の本質です。

 首相の「夫人同伴」はその天皇制に倣って、男尊女卑の家父長制を表象したものです。ジェンダー差別の解消が焦眉の課題になっているとき、けっして容認できるものではありません。それが無意識の慣習になっているだけにいっそう危険です。直ちにやめるべきです。

 

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「ウクライナがクリミア橋攻撃」を軽視する偏向報道

2023年07月20日 | 国家と戦争
   

 ロシアが穀物輸出合意の継続に反対した17日、もう1つ大きな出来事がウクライナでありました。クリミア大橋での爆発です。市民家族の両親が死亡し、娘が負傷しました。

 同橋が攻撃を受けたのは、昨年10月8日に続いて2度目です。この時はトラック運転手など少なくとも3人が死亡しました(写真右)。当初ウクライナ政府は関与を否定していましたが、今月になって認めました(13日のブログ参照)。

 今回もウクライナ政府は関与を認めていません。
 しかし、「ウクライナメディアの「RBCウクライナ」は17日、情報筋の話として、ウクライナ保安局などが関与した無人艇による攻撃だと伝えた。同紙によると、情報筋は「橋は水上ドローン(無人機)で攻撃された。橋に近づくのは難しかったが、最終的に成功した」と話したという」(17日付朝日新聞デジタル)。
ウクライナ治安当局者は同国メディアに、攻撃が海軍と保安局による特別作戦だったと明かし「橋に到達するのは困難だった」と戦果を誇った」(19日付京都新聞=共同)

 2回のクリミア橋攻撃に共通しているのは、一般市民が犠牲になっていることです。にもかかわらず、ウクライナ政府からはそれに対する遺憾・謝罪の表明は一切行われていません。

 それどころか、「同局(ウクライナ保安局)のマリック長官は「クリミア橋は極めて正当な(攻撃)目標だ。勝利の後、特別作戦の詳細を話す」と約束」(17日付朝日新聞デジタル)するなど、まさに「戦果」を誇っています。戦争当事国の非人間性がここにも表れています。

 問題は、そうした戦争当事国の非人間性と一体となったメディアの偏向報道です。

 NHKはじめ日本メディアの「クリミア大橋攻撃」に関する報道は、「ロシアの穀物合意離脱」に比べきわめて小さいものです。ロシアのウクライナ攻撃で市民に犠牲がでたときは繰り返し詳細に報道しますが、それとは極めて対照的なダブルスタンダード(二重基準)です。

 さらに、ウクライナに対する批判の論調は皆無です。それどころか、「(ロシア軍の)補給ルートにあるクリミア橋の破壊は今年6月に始まったウクライナの反転攻勢の行く先を左右する」(19日付共同配信)など、「橋破壊作戦」への期待すら示唆しています。

 NHKに至っては、ウクライナ保安局が認めているにもかかわらず、「“ウクライナによる”とロシアが主張」(19日夜のNHKニュース=写真中)と、ウクライナによる攻撃だということに触れようとしません。

 これは明らかな偏向報道です。

 戦闘行為はどちらの攻撃であろうと肯定することはできません。そこには人(もちろん兵士も人間)の犠牲、自然の破壊が必ず伴うからです。まして、一般市民に対する攻撃・犠牲は絶対に許されません。

 ロシアによるウクライナ市街地攻撃が許されないのと同様、ウクライナによる橋の攻撃も許されません。メディアは「ロシア悪」に立脚した偏向報道・ダブルスタンダードが「停戦・和平」を遠ざけていることを自覚すべきです。

明日も更新します。

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食料輸出「覚書」不履行・国連事務総長の責任を問う

2023年07月19日 | 国家と戦争
   

 ロシアとウクライナの穀物輸出合意(2022年7月)の延長にロシアが応じないと発表(17日)したことに対し、西側諸国およびNHKはじめメディアはいっせいにロシアを非難しています。しかし、なぜロシアは合意延長に反対したのか、その理由・背景を客観的に検証しなければなりません。

 ロシアのペシコフ大統領補佐官は17日、「ロシアに関する部分が履行されていないので終了する」と述べました(17日付朝日新聞デジタル)。プーチン大統領も今月13日、「約束が履行されれば、(合意に)復帰する」と述べていました(同)。

 「約束」とは何か。共同通信配信記事(18日)によればこうです。

「合意延長交渉に影を落としたのが、ロシア産の食料と肥料の輸出促進を約束した国連とロシアの覚書の存在だ。 ロシア農業銀行が、国際決済のネットワーク「国際銀行間通信協会(SWIFT)」から除外され、同銀行を通じた決済ができなくなっていることが輸出の支障になっている。ロシアは「約束が果たされていない」(ラブロフ外相)と繰り返し批判してきた」(18日付京都新聞)

 プーチン氏が「履行されれば復帰する」という「約束」とは、「ロシア産の食料と肥料の輸出促進を約束した国連とロシアの覚書」のことです。

 その「覚書」が履行されていない、というロシアの主張は本当でしょうか?
 18日付朝日新聞デジタルはこう報じています。

「グテーレス氏(国連事務総長)は11日付でロシアのプーチン大統領に書簡を送付。ロシア側の不満を解消するために、ロシア農業銀行の子会社を国際的な決済網である国際銀行間通信協会(SWIFT)に復帰できるよう、欧州委員会とともに具体的な提案をしたことも明かした」

 グテーレス氏はロシア農業銀行(の子会社)がSWIFTに復帰するよう提案したと11日付の書簡でプーチン氏に伝えたのです。つまり、ロシア農業銀行が国際決算できない状態は現在も続いているということです。
 ということは、「ロシア産の食料と肥料の輸出促進を約束した国連とロシアの覚書」は今に至るも履行されていない、というロシアの主張は本当だということになります。

 そもそも昨年7月の合意はグテーレス氏とトルコのエルドアン大統領が仲介したものです(写真中)。そしてグテーレス氏はロシアと「覚書」を交わした。その「覚書」(約束)が履行されていないことがロシアの合意離脱の理由なのです。
 このことについて、グテーレス氏はどう説明(釈明)するのでしょうか。

 岸田政権は「誠に遺憾」(松野官房長官、18日記者会見)とロシアを非難し、17日の国連安保理理事会(写真右)では西側諸国が集中的にロシアを非難しました。これらの国々が、国連(グテーレス氏)の「覚書」不履行について口を閉ざしている(報道されていない)のはどういうわけでしょうか。

 グテーレス氏が自らの「覚書」不履行を棚上げして、「決定を深く遺憾に思う」(17日)とロシアを非難するのはきわめて無責任・不公正です。「政治的中立」を本旨とする国連の事務総長としての資格が問われると言わねばなりません。


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ウクライナ戦争長期化望む兵器産業

2023年07月18日 | 国家と戦争
   

 ウクライナ戦争はなぜ停戦に向かわないのか。なぜアメリカはじめNATO(北大西洋条約機構)諸国は停戦・和平に消極的なのか―その大きな要因の1つは、欧米の兵器産業育成・基盤強化の思惑・戦略です。

 先のNATO首脳会議(11、12日)は、「ウクライナへの長期的軍事支援」を確認しました。一方、大量の弾薬・兵器が消費されているため、ロシアもウクライナも弾薬不足が深刻になっています。

 そうした中でどうやってウクライナへの「長期的軍事支援」を行うのか。NATOとEUが共同ですすめているのが、ASAP(弾薬生産支援法案)です(13日のNHK国際報道2023)。同法案は、5憶ユーロ(約770億円)を欧州の兵器産業に投資するもので、「ウクライナを支援し、EUの防衛技術と産業基盤を強化するもの」(スペイン・ロブレス国防相)(同)です。

 兵器産業の基盤強化のためには戦争の長期化が必要だ、とNATOの元幹部が語っています。

 NATO首脳会議を前に、朝日新聞はNATOの元防衛投資担当事務次長、カミーユ・グラン氏にインタビューしました。グラン氏は「(首脳会議は)冷戦終結以来、欧州の防衛産業の大きな転換点になる」として、次のように語りました(要約)。

< 現在ウクライナで起きている戦争は、本格的な通常型紛争で、最近になく非常に残虐なものだ。ウクライナでは、双方の1日あたりの死者は多い時で1千人に達している。

 弾薬や装備の使用量も1945年以降の欧州では前例がない。ウクライナもロシアも、毎日数千発から数万発の弾薬を消費し、あらゆる武器や装備を使用している。ウクライナに対する西側の軍事支援の規模は前例がないものだ。

 近年欧州諸国の防衛産業が関与した紛争では、弾薬の使用量はそれほど多くなかった。その結果、欧米の弾薬などの生産量は激減した。いったん減らしてしまうと、弾薬の増産には時間がかかる。
 欧州ではウクライナに今後1年間で100万発の弾薬を供給するという約束を守るため、大幅な増産に取り組んでいる。

 現代の弾薬や砲弾は複雑な部品の組み合わせで構成されている。部品の不足は避けねばならない。そのため業界は、数カ月先を見据えた長期的な生産能力への投資を可能にする契約を望んでいる。>(11日付朝日新聞デジタル)

 兵器産業が望んでいる「数カ月を見据えた長期的投資を可能にする契約」を実行するのがASAPです。NATO・EU諸国と兵器産業が一体になってウクライナ戦争の長期化を図る構図がここにあります。

 欧州だけではありません。

「アメリカのオースチン国防長官は(米軍需企業の)レイセオン・テクノロジーズの重役だった人物で、「戦争を続けてロシアを疲弊させる」と公言しつつ、アメリカの軍需産業に巨万の富を引き入れている」(安斎育郎氏『ウクライナ戦争論』2023年6月)といわれています。

 岸田文雄政権が「ウクライナ支援」を“錦の御旗”にしながら、三菱重工はじめ日本の兵器産業にテコ入れし、さらに、「殺傷能力のある兵器を搭載した装備品も輸出可能とする」武器輸出のいっそうの改悪を図ろうとしていることももちろん無関係ではありません。

 兵器産業の育成・基盤強化は巨額の軍事費と戦争の長期化を必要とし、戦争の長期化は兵器産業に一層の利益をもたらします。この悪のスパイラルを断ち切るためにも、ウクライナ戦争早期停戦・和平の世論を広げることが急務です。

明日も更新します。

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「海の日」に“4つ目の侵略”を加えるのか

2023年07月17日 | 日本の近現代史
   

 日本政府は7月の第3月曜日を「海の日」として「祝日」にしています(1996年)。海にちなんだ国独自の祝日を決めているのは日本だけだといわれています。それは世界には国連が決めた「世界海洋デー」(6月8日)があるからです。

 それなのに日本はなぜ、独自の「海の日」を決め「祝日」にしているのでしょうか。

 そこには近代史における日本の侵略の歴史が何重にも投影しています。

 第1に、「海の日」の前身は「海の記念日」で、制定されたのは1941年です。この年8月8日に「戦艦大和」が進水し(就役は12月16日)、12月8日、天皇裕仁が宣戦布告しました。海軍力を誇示したアジア・太平洋戦争の開始と「海の記念日」は一体です。

 第2に、「海の記念日」(もとは7月20日)の由来は、1876年のこの日、天皇睦仁(明治天皇)が北海道・東北巡幸から「明治丸」(写真左)で横浜港に帰着したことです。
 北海道は明治天皇制政府が真っ先に植民地化した土地です。

 さらに、この年の2月27日、日本は朝鮮に江華島条約(不平等条約)を締結させ、朝鮮半島の侵略・植民地化の足掛かりにしました。

 第3に、あまり知られていませんが、日本による琉球(沖縄)侵略・植民地化とも深い関係があります。

 1879年3月、明治天皇制政府は、処分官・松田道之を兵士300~400人、警察官160人とともに琉球に派遣し、武力を背景に琉球国王に日本への服従を強要しました。いわゆる「琉球処分」です(写真中)。
 この時、松田が乗って琉球へ向かった船が、天皇睦仁が乗った「明治丸」でした。なお、「明治丸」の名付け親は伊藤博文だとされています。

 この武力侵略が、「国体(天皇制)護持」のための「捨て石」となった沖縄戦、天皇裕仁の「沖縄メッセージ」(1947年)を経て今日の沖縄の軍事植民地化・構造的差別につながっています。

 「海の日」の由来の「明治丸」と琉球・沖縄の侵略・植民地化・差別との関係はもっと注目される必要があるでしょう。
 
 そして今、「海の日」に第4の侵略・加害の歴史が加わろうとしています。東電福島原発汚染水放出です。

 今年の「世界海洋デー」で、韓国の市民・環境団体などが「国際共同声明」を発表し、日本政府に汚染水の放出やめるよう要求しました(6月8日のブログ参照)。
「海はすべての生命の源です。放射能汚染水の海洋投棄は、命を奪う行為であり、地球市民として許せません」(共同声明)
 「世界海洋デー」の由来は、「海洋汚染の防止・資源保護」を宣言した「地球サミット」(1992年)です。

 こうした反対の声を無視して日本の都合・利益のために放射能汚染水を放出することは、近隣諸国に対する、否、海でつながっているすべての国々に対する、そして海産物を食料とする全ての人々に対する侵略的行為と言っても過言ではないでしょう。


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日曜日記258・韓国市民と日本市民の違いを考える

2023年07月16日 | 日記・エッセイ・コラム
   東電福島原発汚染水放出を容認する「報告書」を日本で発表(4日)したIAEA(国際原子力機関)のグロッシ事務局長は、3日後の7日、韓国・ソウルを訪れた。彼を迎えたのは、韓国市民の大規模なデモだった(写真)。

 当の日本ではこんなデモは起こらなかった。私もデモしなかった。自分も含め、日本市民と韓国市民のこの違いは、何なのだろう、どこからくるのだろう。

 「放射能汚染水」だけではない。「戦時性奴隷(日本軍慰安婦)」問題、「強制労働(徴用工)」問題…。

 先日(6月22日)、京都精華大学で「韓国文学が教えてくれること」と題した翻訳家・斎藤真理子さんの講演会があった。オンラインで参加した。

 多くの示唆に富んだ話の中で、特に印象に残った1つは、斎藤さんが訳してベストセラーになった『82年生まれ、キム・ジョン』が文庫本(写真)になった際(2022)、著者のチョ・ナムジュが「文庫版に寄せてメッセージ」で書いた言葉だ。

「現実はあまりにも早く変わる…特に2022年の韓国は、時間が逆に流れている気分です」

 22年5月に発足した尹錫悦政権のことだ。短いが痛烈な保守政権批判だ。日本で、安倍・菅・岸田と続く政権を、自著で批判した「人気作家」がいただろうか。

 斉藤さんは、1943年に治安維持法違反で京都で逮捕され、45年2月16日、福岡刑務所で獄死(事実上虐殺)した尹東柱(享年27)にも言及し、こう強調した。

「韓国文学は、個人と社会の関係がキーワード。世界の中で自分の国をどうみるか、その関係性の中で自分をみる」「韓国の歴史の中には、無念の死の蓄積がある」

 さらにこう述べた。

「朝鮮戦争(1950~)はまだ終わっていない。その認識があるかないか。韓国と日本の決定的な違いだ」

 韓国市民と日本市民、韓国文学と日本文学、韓国の歴史教育と日本の教育…その違いを考え続けたい。日本の宿痾が浮かび上がってくるはずだ。

<今週のことば>
 
 徐京植氏(東京経済大学名誉教授)   

 真実を語り続けよう (18年間続いたハンギョレ新聞の連載コラムを終えるにあたって)

「最後に、エドワード・サイードの言葉を思い出しておきたい。(なぜ1967年以降、政治的実践の方向に進んだのか、という問いに対して)「パレスチナ闘争が正義について問いかけるものだったからです。それは、ほとんど勝算がないにもかかわらず真実を語り続けようとする意志の問題でした」(『ペンと剣』
 私たちも、勝算があろうとなかろうと「真実」を語り続けなければならない。厳しい時代が刻々と迫っている。だが、勇気を失わず、顔を上げて、「真実」を語り続けよう。サイードだけではない。世界の隅々に、浅薄さや卑俗さと無縁の、真実を語り続ける人々が存在する。その人々こそが私たちの友である」(7日付ハンギョレ新聞日本語電子版)

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『動物会議』に学ぶ人間・大人の責任

2023年07月15日 | 国家と戦争
   

 立命館大助教の横田祐美子氏(現代フランス哲学)は、大人たちが現代社会の問題に真摯に取り組まず、「未来」という常とう句で「問題を先送りにし、子どもたちに押しつけようとしている」ことに警鐘を鳴らした論稿(6月30日付京都新聞夕刊)で、ドイツの児童文学作家エーリヒ・ケストナー(1899~1974)の『動物会議』(1949年)を取り上げました。

 初めて知った本ですが、感銘を受けました。「岩波のこどもの本」の『どうぶつ会議』(光吉夏弥訳、1954年第1刷)から要約・紹介します(写真も)。

<「戦争がすんで何年にもなるのに、ヨーロッパには父や母がどこにいるかわからない子どもたちが何千人といる。それなのに、もう新しい戦争のうわさがたっている。人間たちは会議ばかりやっている」

 業を煮やしたゾウのオスカーは、世界中の動物によびかけ、動物会館で会議を開くことにしました。人間の子どもたちのために。

 「動物会議」が人間(各国の政治家・軍人)にまず要求したのは、「国境をなくすること」。しかし人間はこれを拒否しました。

 「動物会議」が次に要求したのは、「制服(兵士や公務員など)の全滅」。人間はこれも拒否。

 動物たちの中からは「もうむだだから、会議はやめてひきあげよう」の声も。しかし、オスカーは言います。「人間なんかどうなったっていいよ。もんだいは、子どもたちだ」

 動物たちがとった最後の手段は、世界中の子どもたちを「人質」にとって隠すことでした。これにはさすがの人間もまいって、動物たちが提起した「とりきめ」に各国の代表者がサインしました。その「とりきめ」はこうです。

「われわれ国々の代表は、つぎのことをちかう。1、すべての国境をなくす。2、軍隊と大砲や戦車をなくし、戦争はもうしない。3、けいさつは、弓と矢をそなえてよい。けいさつのつとめは、学問が平和のためにやくだっているかどうかをみることにある。4、政府の役人と書類のかずは、できるだけ少なくする。5、子どもを、いい人間にそだてることは、いちばんだいじな、むずかしい仕事であるから、これからさき、教育者が、いちばんたかい給料をとるようにする」

 地球を揺るがすほどのよろこびが、爆発しました。これが、新しい始まりでした。>

 冷戦がはじまり、三たび世界大戦の危機が予感されたとき、ケストナーは、「すべての国境をなくす」「軍隊と大砲や戦車をなくし、戦争はもうしない」ことをはじめとする「5項目」の「とりきめ」が結ばれる世界を描いたのです。そして、「これが新しい始まり」と結びました。
 それを、大人向けの論文やSF小説ではなく、児童文学・絵本として子どもたちに贈りました。

 『動物会議』では世界中の子どもたちが「人質」にとられたことで、さすがの政治家・軍人たちも諦念して動物たちの要求を受け入れました。現実社会はそうなっていません。世界の子どもたちは「人質」になっているも同然なのに。

 それは、そうあってほしいというケストナーの願いであり、そうなるよう努力するよ、という子どもたちへの約束・誓いだったのではないでしょうか。

 ケストナーが『動物会議』を書いたのは1949年。NATO(北大西洋条約機構)が発足した年です。

 ケストナーの子どもたちへの約束・誓いを実行しなければならないのは、いまを生きている私たちです。

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アメリカの「ウクライナ中立化」妨害が発端だった

2023年07月14日 | 国家と戦争
   

 「戦争にどう向き合うのか」という市民公開講座が9日、京都市内でありました。主催はNGO市民科学京都研究所。そこで澤野義一・大阪経済法科大特任教授が「永世中立と憲法」と題して特別報告を行いました。澤野氏は「中立政策」研究の第一人者です。
 
 澤野氏は「ロシアのウクライナ侵略の要因」をこう指摘しました。

「ウクライナは1990年の主権宣言で軍事ブロック非加盟(中立)を明記した。さらに96年、ウクライナはそれを憲法に明記した。しかし、NATOの東方拡大の中で、2019年、親欧米派政権はNATO加盟を方針とする憲法改正を行い、中立政策を放棄した」

 公開講座の会場では、安斎育郎氏(立命館大国際平和ミュージアム終身名誉館長)の『ウクライナ戦争論』(6月20日発行)が販売されていました。その中で安斎氏は、澤野氏が指摘した「ウクライナの改憲」について経過を詳細に記しています。

「アメリカが50億ドルの巨費を投じて演出した暴力的なユーロ・マイダン・クーデター(2014年)は、正当な選挙で選出されたヤヌコーヴィチ大統領を暴力的に解任。その後の選挙でアメリカの狙い通り親米傀儡のポロシェンコ政権が成立した。
 バイデン米副大統領(当時)はポロシェンコ政権のもとで、2019年2月7日、ウクライナ憲法116条に「ウクライナ首相はNATOとEUに加盟する努力目標を果たす義務がある」という趣旨の条文を追加させた」

 澤野氏と安斎氏の指摘を年表にすると次のようになります。

▶1990年 ウクライナが主権宣言で「中立政策」を明記
▶1996年 ウクライナ憲法に「中立」を明記
▶2014年 アメリカ(オバマ大統領、バイデン副大統領)がマイダン・クーデターを演出
▶同年   親米傀儡のポロシェンコ政権が成立
▶2019年 憲法「改正」で「中立」を放棄し、「NATO加盟」を義務化

 アメリカはウクライナをNATOに引き込むため、マイダン・クーデターを陰で操り、親ロ政権を転覆。傀儡政権を樹立して改憲させ、主権宣言以来約30年間維持してきた「中立政策」を放棄させたのです(写真左はマイダン・クーデター、写真中・右はそれを演出したヌーランド米国務次官補=当時)。

 これはウクライナ戦争の発端といえる重要な経過です。

 平和学研究者の足立力也氏によれば、ロシアは軍事侵攻(2022年2月24日の)4日後に「停戦条件」を示しました。その内容は、「①ウクライナの中立化②ウクライナの非武装化③ウクライナ領だが2014年にロシアが併合したクリミア地方のロシア主権承認④ドンバス地方の独立承認」でした(日本ジャーナリスト会議(JCJ)機関紙「ジャーナリスト」2022年6月25日号掲載の足立氏の講演)。

 ロシアはウクライナの「中立化」を「停戦」の第1条件にあげましたが、それはアメリカが暗躍して憲法を変えさせるまでは憲法に明記されていたウクライナの基本政策だったのです。
 
 ゼレンスキー大統領は米欧軍事同盟であるNATO加盟に躍起になっていますが、あらゆる軍事同盟に加わらない「中立化」に立ち戻ることこそ停戦とその後の平和、ウクライナ市民の安全を保障する道です。
 

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クリミア橋爆破認めたウクライナ政府、他の真相は?

2023年07月13日 | 国家と戦争
   

 9日付の朝日新聞デジタルによれば、ウクライナ政府のマリャル国防次官は、「273日前にロシアの兵站を寸断するため、クリミア橋への最初の攻撃が行われた」と述べ、橋爆破へのウクライナ軍の関与を実質的に認めました。テレグラムチャンネルに投稿した内容を、独立系メディア「メドゥーザ」が9日伝えました。

 クリミア橋の爆破(写真左)は2022年10月8日。ニューヨークタイムズは直後から「ウクライナ情報機関が計画」と報じましたが、ウクライナ政府は否定していました。9カ月たってようやく認めたわけです。

 ウクライナ政府やアメリカ・NATOが「ロシアの犯行」と主張していたものが、実はそうではなかった、という例はこれだけではありません。

海底パイプライン「ノルドストリーム1・2」の爆破(2022年9月26日、写真中)
 ゼレンスキー大統領はウクライナの関与を否定し、バイデン大統領は「ロシアの意図的な破壊工作だ」(9月30日)と非難しました。
 しかし、調査報道でピューリッツア賞を受賞したジャーナリスト・シーモア・ハーシュ氏が「米海軍の潜水士が爆弾を仕掛けた」と暴露(23年2月8日)。米紙ワシントン・ポストは、「バイデン政権がウクライナ軍による攻撃計画の情報を事前に把握していた」と報じました(6月6日)。

ウクライナ軍による「人間の盾」
 国連人権高等弁務官は2022年7月に公表した「報告書」で、ウクライナ軍が「国際人道法を守らなかった可能性がある」として市民を巻き込む「人間の盾」を警告しました。ゼレンスキー氏は明確に否定しました。
 しかし、アムネスティ・インターナショナルも8月4日の報告書で、ウクライナ軍が、学校や病院を含む民間人居住地域に軍事拠点を構築し、市民の命を危険にさらしていると批判しました。

 ロシアとウクライナが非難の応酬をしている事案で、真相が明らかになっていない問題は他にもあります。

ポーランドへのミサイル着弾(2022年11月15日)
 ウクライナ政府の調査団が11月下旬現地入りしましたが、その結果は報じられていません。

穀物輸出の実態
 国連とトルコの仲介で合意された穀物輸出再開(2022年8月1日)。プーチン氏は「途上国へは3~5%しか送られておらず、大半は欧州へ横流しされている」と批判。仲介したトルコもロシアの指摘を認めましたが、ゼレンスキー氏は「事実無根」と否定。協定の延長にかかわる焦眉の問題です。

ウクライナ南部カホフカダム決壊(6月6日、写真右)
 ゼレンスキー氏は「ロシアの戦争犯罪」と非難しましたが、アメリカ政府はコメントしていません。トルコのエルドアン大統領はプーチン氏との電話会談を受けて「真相究明調査委員会」の設置をゼレンスキー氏に提案(6月7日)しましたが、ゼレンスキー氏の回答は報道されていません。

ザポリージャ原発の事態
 ゼレンスキー氏は「ロシアが爆発物を設置した」と発言(4日)。ロシアは「全くのウソだ」(ラブロフ外相)と反論。IAEAも「差し迫った危機はない」としながら「調査する」と言明。

 以上の諸事案に共通しているのは、NHKはじめ日本のメディアは(日本だけではないようですが)、当初からゼレンスキー氏のビデオメッセージの肉声を流すなどウクライナ政府側の主張を詳細に報じる一方、真相究明(あるいは調査の途中経過)の報道は行わず、曖昧なままにしていることです。

 これはきわめて重大な偏向報道です。戦争当時国同士のプロパガンダも問題ですが、「中立」を装いながら行われるメディアの偏向報道は市民の情勢判断を阻害し、結果、停戦・和平を遠ざけることになり、いっそう重大です。
 戦争の中でも、戦争の中だからこそ、真実の報道、真相究明が必要であり、私たち市民はそれを要求する権利と義務があります。

明日も更新します。

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クラスター弾供与に英、独、加、伊、西が反対、日本は容認

2023年07月12日 | 国家と戦争
   

 アメリカ政府がウクライナ政府の要求に応じて、無差別殺人兵器・クラスター爆弾の供与を決定した7日、サリバン米大統領補佐官は記者会見で、「NATOの結束にはいかなる亀裂もない」と述べ、「(禁止条約=オスロ条約)加盟国からは理解を示され(た)…と語気を強め」(9日付共同配信)ました。 これは大ウソです。

 ハンギョレ新聞(10日付日本語電子版)は、「米国がクラスター爆弾を供与する方針を決めたことについて、英国やスペイン、カナダなど一部の西側同盟国が反対を表明している」と報じました。

< AFP通信によると、英国のリシ・スナク首相は8日(現地時間)、「英国はクラスター爆弾の生産と使用を禁止する『クラスター爆弾禁止条約』(CCM)に加盟している」として、反対の立場を明らかにした。

 スペインのマルガリータ・ロブレス国防相も「クラスター爆弾のような特定の兵器をウクライナに送ってはならないという『強力な公約』を守る」とし、「ウクライナの適法な防衛には支持を送るが、クラスター爆弾は容認できない」と述べた。

 カナダ政府は声明を発表し、「クラスター爆弾が長期間爆発せずに地面に埋められ、後で子どもたちに被害を与える潜在的な危険性について特に懸念している」とし、クラスター爆弾の使用に対する反対を表明した。>(10日付ハンギョレ新聞)

 さらに、11日付京都新聞(共同配信)によれば、ドイツのベーアボック外相も「供与に反対」を表明し、イタリアのメローニ首相も「禁止条約の普遍的な適用を望む」と供与に反対しました。

 イギリスはアメリカとともにウクライナへの兵器供与の先頭に立っていますが、そのイギリスでさえ反対せざるをえない。それほどクラスター爆弾は残虐だということです。

 2010年に発効した禁止条約(CCM)は、その生産、使用、販売、保管、輸出入を全面的に禁止しているほか、非加盟国に対し使用しないよう働きかけることを努力義務としています。加盟国は現在111カ国で、上記5カ国はもちろん加盟しています。条約加盟国であれば、アメリカの供与決定に反対するのは当然の義務です。

 では日本はどうか。れっきとした禁止条約加盟国であるにもかかわらず、アメリカの供与決定を容認しています。

 松野博一官房長官は10日の記者会見で、「米国のこれまでのウクライナ支援にも触れ「果たしてきた役割は重要だ」と評価。「ロシアの侵略に対し、国際社会が結束して強力な支援を継続することが重要だ」と指摘し、クラスター弾供与を黙認する考えを示唆した」(11日付京都新聞=共同)のです。

 これは条約加盟国として明白な義務違反です。ここには自民党政権の対米追随がはっきり表れています。その元凶が日米軍事同盟=安保条約であることは言うまでもありません。

 同じ軍事同盟でも、NATO加盟国の上記5カ国は反対を表明し禁止条約加盟国としての筋を通しています。日本政府にはそれができない。それほど日米安保条約は、世界に際立ったアメリカ従属の軍事同盟だということです。

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