角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

いろいろあって今がある。

2013年04月15日 | 地域の話




今日の草履は、彩シリーズ22cm土踏まず付き〔四阡四百円〕
紺でまとめたちょっとシブ系の配色ですが、赤やピンクの中に並ぶと逆に目立つんですね。早速お選びのおばさまがいらしたので、この配色は完売となりました。

角館には全国津々浦々からお客様がお越しになります。今年ぜひお会いしたいと思っているのが、お隣り岩手県は北三陸からのお客様。NHK朝ドラ「あまちゃん」の舞台ですね。欠かさず観たいと思った初めての朝ドラかもしれません。

北三陸の方にぜひ訊きたいと思っていたのは、驚いたときに発する「じぇっ」という言葉。言葉というより「音」に近いですが、ほんとにそう言うのかがとても気になっていました。

それが今日、北三陸の方と会わずして本当であることが分かりました。米蔵二階で「今昔きものと古布の市」を開いている業者さんは、青森県と岩手県の県境に自宅をお持ちだったんですね。訊いてみると、『うん、言うよ』。

それにしてもこのドラマには、いろんな意味で惹き込まれています。北東北の田舎に嫌気が差して東京へ飛び出した女性と、その田舎に自分の居所を見出した女性の娘。そしてその娘を観光の目玉に育てたい地元民の思惑。北東北の観光地というだけでヨソの国とは思えませんよ。

ストーリー以外にも、ときどき出てくる「ちょっといい言葉」を聞き逃したくないですね。主人公の娘に、海女さんが自分たちの過去を話して聞かせるクダリでは、「いろいろあって今がある」というフレーズが耳に残りました。一定の年齢に達した人であれば、誰しも頷きたくなる台詞ですよ。

今ハマっているテレビ番組は、「あまちゃん」と「八重の桜」。この二つのNHKドラマは、見逃したくないばかりでなくセリフのひとつひとつを聞き逃したくないと思っています。
岩手県久慈市と福島県会津若松市のお客様に出会ったときは、いろんな話を聞きたいものです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

イベント目白押し。

2013年04月13日 | 地域の話




今日の草履は、彩シリーズ26cm土踏まず付き〔五阡二百円〕
金色が含まれる布地は、お洒落で厳かで豪華です。それに紺の唐草を組み合わせると「粋」が追加されますね。粋でいなせな男性をお待ちしましょうか。

お伝えしている西宮家前蔵の「吊るし雛展」は、盛況のまま後半に入っています。会期の18日まであと五日間となりました。
そして今日が初日のイベントは、米蔵二階の「今昔きものと古布の市」。青森県八戸市の業者さんが、面白い骨董布を展示しています。ファンにはたまらない逸品らしいですよ。

そしてこちらも初日を迎えたイベントは、「角館桜舞」と題する片岡鶴太郎展です。本日から5月19日まで、武家屋敷通り北端の平福記念美術館を会場に始まりました。21日(日)にはトークショーやサイン会もあるそうで、なかなか大きなイベントですね。

すでに今日から鶴太郎展目当てのお客様が西宮家も訪れていて、11時頃から午後3時過ぎまでひっきりなしのご来店でした。ついこの間まで“真冬”だった西宮家にも、桜の開花を待たず春が来た感じです。何時間も喋り続けたのは久しぶりですよ。

しかし角館の繁忙ピークはこんなものじゃありません。桜が見頃を迎えるまで、まだ二週間はあるでしょうか。体を慣らすためにも、「吊るし雛展」「今昔きものと古布の市」それに「片岡鶴太郎展」は、とてもありがたいイベントになりそうです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

老後の心得。

2013年04月12日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ22cm土踏まず付き〔四阡四百円〕
稀に届くグラデーションの布地は、草履になってもなかなかお洒落です。優しい色合いはご高齢の女性にお似合いかもしれません。サイズは22cm、足の小さなおばあちゃんにいかがでしょう。

以前のブログでも触れましたが、装飾用ミニ草履が好調です。今年ここまでの四ヶ月余りで、私が編む大人用土踏まず付きとカミさんが編む装飾用ミニ草履の売上個数が、ほぼ同数なんですね。こんな現象は今年が初めてです。



その理由は間違いなくこのポップにあるわけですが、この文面を読んだお客様の反応に、ときに大爆笑が起こります。
60歳代と思しきおばさまお二人連れが、実演席に立ち止まりました。ひとりのおばさまがこのポップを読んで…

『ほら、オメん家のとーさんが寝たきりにならねように、この草履飾ればいいね』

『したってウチのとーさん、もし寝たきりになっても自分のオシメは自分で替えるがら構うなって言うもの』

自分のオシメが自分で替えられる。それは「寝たきり」と呼ばないような気もします。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

作家さんは大人物。

2013年04月11日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡六百円〕
白が含まれる布地は、「汚れ」の点で避けられる傾向にあります。でもそこはあくまで「一般に…」の話。白っぽい布地でのオーダーが、かつて確かにありました。「今日の草履」も可愛らしく仕上がったので、きっとお選びの方がいらっしゃるでしょう。

四月も半ばに入ろうとしていますが、今日の角館も寒いです。朝はいっとき雪が降り、その後も冷たい雨で夜を迎えようとしています。桜の便りももちろんお伝えできません。少なくともあと十日や二週間で見頃になることはありえませんね。

西宮家前蔵で開催中の「吊るし雛展」は、未だ人出の寂しい角館の中で異彩を放っています。新聞に掲載された記事は思いのほか小さかったのですが、その反響は日々驚くばかりですよ。「吊るし雛」というものにこれほどの愛好者がいるとは、井の中の蛙を思い知らされています。

ただこの人気の秘密は、どうやら作家さんその人にもありそうです。地元の栃木に在籍する50人ほどの生徒さんも、複数のグループに分かれて角館にいらしているんですね。確かに観光も兼ねてのようですが、第一の目的は先生の応援です。生徒さんたちの作品展示もあるとはいえ、その強い結束力を感じました。

さらに驚くのは、先生のふるさとである旧二ツ井町(現秋田県能代市)からのお客様がとても多いことです。親類縁者はもちろん、高校まで暮らした同い年のみなさんとそのご家族が遊びに見えるんですね。
『角館は初めて来たども、面白いものがいっぱいある町だな~』の声を複数から聞きました。

今朝お顔を合わせた際に『(来客が多いので)お昼ご飯食べてますか?』とお尋ねすると、『おかげさまで少し痩せました~』。
そういう気さくさが、人望を集めるひとつの要素なんでしょうね。いやはやなんとも、ちょっと久しぶりに「大人物」とお目にかかった気がしています。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

角館名物○○焼。

2013年04月09日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡六百円〕
黒基調と黄色は相性がいいうえに、年代を問わずお選びいただけます。またいろんな配色が並ぶ中で、黄色の緒がよく映えるんですね。「幸せの黄色い鼻緒」と呼びましょうか。

和歌山県からお越しのおじさまひとり旅。軽自動車に折りたたみ自転車を積み込んで、「東北」とは決めたものの細かな旅程を立てない、気ままな旅を愉しんでおられました。この春定年を迎えたおじさまのかねてからの願いが、この東北旅行だったそうです。東北人のひとりとして、嬉しい限りであります。

定年を迎えたものの、この旅が終わると間もなく新たな職場に就くそうです。
『二年前に白血病を克服しまして、せっかくもらった命だから出来る限り働こうかと思うとるんです』。
新しい職場はデスクワークと言います。『これも縁でしょう。新しい事務所でこの草履を履かせてもらいますわっ』。

その後西宮家内の散策から戻ったおじさまは、『いや~、隣りの蔵に“御狩場焼”ってのぼり旗があるでしょ。てっきりこの土地の有名な焼き物(陶器)と思って入っていったら、料理なんですね』。



確かに世の中にはいろんな「焼き」がありますからねぇ。次は、『てっきり角館名物の今川焼きかと思ったわよぉ』と言うお客様をお待ちしたいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

首がなければ凝り知らず。

2013年04月08日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ24cm土踏まず付き〔四阡八百円〕
可愛らしさでは在庫の中でもトップクラスと思います。本格的な春を目前に控え、こうした配色がなんとも嬉しい時節です。お若い女性もいいですが、中高年のおばさまにもお勧めしたい一品ですね。

西宮家に五つある蔵のひとつ前蔵では、現在「吊るし雛展」が開催されています。栃木県在住の作家さんとお弟子さんが創る吊るし雛が、所狭しと並んでいるんですね。先月まで行われていた「角館雛めぐり」にこの企画が事前告知されていて、今月5日の初日から間断なく見学者がお越しです。

さらに今朝の新聞に紹介記事が掲載されたこともあって、今日も天候の悪さにかかわらず多くのお客様がお越しでした。会期の18日まで、ご来場延べ人数は相当の数になるでしょう。これほどの集客力を誇るイベントは、これまで数えるくらいしかなかった気がします。

大仙市協和からお越しのおばさま三名様。やはり「吊るし雛展」の新聞記事を読んでお越しとのこと。うちのおひとりは過去にお会いしていたようで、『おや~、この草履、前よりだいぶ綺麗になったどごでねがっ!?』。数年ぶりのお客様にはよく言われます。

試し履きをしていただきながら、いつものように「鼻緒が当たる指の股は首のツボ」をご説明すると、『首は凝らねなぁ。そもそも首がねぇもの』。
誠に恐縮ながら、大笑いさせていただきました。

確かに首がなければ「首凝り」という症状は生まれないでしょう。でもちょっと思うのは、多少の首凝りは覚悟のうえで、やっぱり首はあったほうがよろしいのではと…。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

船出する若者たち。

2013年04月05日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ22cm土踏まず付き〔四阡四百円〕
♪ 春よ来い 早く来い
  歩き始めた みぃちゃんが
  赤い鼻緒の じょじょはいて
  おんもへ出たいと 待っている


先日の地元紙に、春の人口動向を書いた記事がありました。就学や就職のため秋田県から外へ出る人と、逆に外から秋田県へ入ってくる人がいるわけですが、その比率が5対1なんだそうです。もちろん秋田県から外へ出る人が多いんですね。
学校も企業も選択肢の少ない田舎では、ひとまずやむおえない数字と思います。

わが家の場合、長女は就学で青森市に出ましたが、就職ではふるさとへ戻ることが出来ました。次女も仙台市の学校に就学中で、こちらは当面県外就職の予定です。三女は一年後の高校卒業と同時に地元就職を望んでいますが、どうなるかまだ分かりません。
いずれにしても三人姉妹揃って地元で暮らすことは、近い将来にないでしょう。

お若い女性が実演席で足を止めました。簡単な挨拶のあとも実演を見続けていた女性は、『手仕事を見てるのって、楽しいですよね』。ちょっと気恥ずかしさが残る笑顔に、まだ社会慣れしていない純朴さを感じます。
『どちらから?』と訊ねると、『出身は岩手なんですけど、最近この近くへ就職しまして…』。5対1の「1」のほうなんですね。

学校を入りなおしてまで美術を学んだ女性は、25歳の今春、卒業と就職を勝ち得たといいます。その事業所も彼女の美術を評価しての採用であり、学んだ成果が活かせるのは幸せと思いますね。
実際彼女も、『材料費を心配しないで創れるのが、とっても嬉しいんですぅ』。学生時代は材料費の節約で苦労したんだそうです。

お金の苦労は親御さんのほうが深刻だったでしょう。高校を卒業してからさらに七年の学生生活ですから、支援するのも並大抵じゃないですよ。就職が決まったことをご両親に報告すると、『これでやっと老後の貯金が始められる』と言われたそうです。笑ってしまうくらい気持ちがよく分かりましたね。

人は誰しも、自分の人生に「夢」や「希望」を持っています。若者であればなおさらでしょう。その夢に向かうひとつの手段として、人生のいっときを県外に暮らすことは不自然でありません。ただ親として願うのは、その土地で肥やしになる人たちと出会ってほしいことですね。
『これを機に、近くへ来たらいつでも寄ればいい』と女性に告げると、『はいっ、お給料をもらったら草履が欲しいです』。

歩き始めたみぃちゃんは、おんもへ出たいと思いました。若者たちが外へ外へと出て行くのは、至極当たり前のことなんでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

達観の境地。

2013年04月03日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ24cm土踏まず付き〔四阡八百円〕
紺にエンジ、角館草履の王道的配色は安定感があると思います。部屋履き草履に関心があってもなくても、まず「綺麗な草履」とは言っていただけるんじゃないですかね。今年もたくさん編みたい配色です。

2月から3月にかけて、卒業旅行と称する学生さんが多く立ち寄られます。今年も何人かが実演席の丸太椅子に腰をかけていきました。愛知県の会社に就職が決まった青年は実演を興味津々眺め、『こういう手作り品って、原価率はどれくらいなんですか?』。
『君は言いづらいことを訊くねぇ』と笑うと、『スイません、経済学部なもんで…』。

学部はどこであれ、物怖じせずに質問できるのは間違いなく長所ですよ。もう入社式も済んで、元気に働き出しているでしょう。
未だ50歳程度でことさら昔が懐かしいということはありませんが、はじけるような躍動感とか、危なっかしいフレッシュさははるか昔に消え失せました。そういう意味では若さが羨ましい気持ちも分かります。

御歳86歳とおっしゃるおじいさんがお越しです。しっかりした歩調で実演席に立ち止まると、しばし実演を眺めてお出ででした。やがてゆっくりとした口調で、『昔はみんなワラ草履を履いだもんだものなぁ』。私が、『その頃の日本人の足は、みんな元気だったようだんシな』と言うと、『んだべ。昔使ってたもので、ダメなものなのひとつもねぇべ』。

お帰りの際『どうぞお元気でっ』と言うと、『いや、少し長く生き過ぎだ。若い人だぢさ迷惑ならねようにしねばな。はははっ』。
嫌味も皮肉も感じられないご老体の言葉には、人としてするべきをすべて終え、あとは天に召されるを悠々と待つ「達観の境地」を覚えましたね。

2010年10月に他界した叔父は、叔母のふるさとである角館で余生を過ごしました。東京生まれの東京育ち、そのうえ脳梗塞による半身の不自由が残っていましたから、老いてからの角館暮らしにはいささかの心配があったものです。

しかし周囲の心配をよそに、叔父本人はとても楽しく余生を過ごしたと思います。命が惜しくないと言えばヘンですが、残された人生を謳歌するように挑戦を忘れない人でした。
叔父の葬儀の日、住職の残した言葉を思い出します。『あなたの叔父さんは、達観の境地にあったかも知れねな』。

つい先日、知人の祖母が97歳でこの世を去りました。私は直接お会いしたことのないおばあさんですが、つい最近までケンタッキーフライドチキンやすき焼きを食べていたそうです。
そのおばあさんが晩年よく言っていた言葉は、『ずいぶん長生きしたども、今が一番いいなぁ』だと聞きました。

戦争という過酷な時代を経験したとはいえ、働き盛りの若かりし頃より、年老いて歩くのもおぼつかなくなった今が一番いい。その言葉にも「達観」を感じます。
角館の草履職人がそんな境地に達する日は来るのか、若さを羨ましく感じているうちはまだまだでしょうなぁ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新しい相性。

2013年04月02日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ24cm土踏まず付き〔四阡八百円〕
黒や濃紺に案外ピンクが似合うというのを、比較的最近知りました。様々な配色を試していくうち、それまで気づかなかった相性が分かったりします。これも経験ということでしょう。

昨日の実演席の丸太椅子に、とても可愛らしい姉妹が座っていました。子どもの見学者そのものは珍しくないのですが、その姉妹は欧米外国人。月並みな表現ですが、フランス人形のような可愛らしさです。
お父さんがスコットランド人でお母さんが日本人。姉妹は新年度から小学校4年生と2年生になるそうです。

お父さんとお母さんが西宮家内の散策に誘っても、姉妹は丸太椅子を立とうとしません。そこでしばし実演席で預かることになったのですが、気が楽だったのは姉妹が日本語を話せることです。聞けばスコットランドは行ったことがあるくらい、生まれてずっと日本暮らしなんですね。

姉妹と草履職人の三人だけになった実演席では、4月からの小学校が話題になりました。『すっごく仲良かった子が別のクラスになっちゃうの。でもね、前に仲が良かった子とまた同じになるんだっ』。お姉ちゃんの言葉に、『私も仲良しと離れちゃうの』と妹が続きます。
私が『新しいクラスになれば、きっと新しいともだちが増えるよ。ともだちはいっぱいいたほうが楽しいからね』と言うと、二人はとても良い笑顔を見せました。

学校はあと数日春休みですが、世の中は新年度に移行しました。わが家の長女も昨日から保育園勤務がスタートしています。別れの年度末から出会いの新年度へ、人もまた新しい相性が生まれるのでしょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする