角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

愛なき批判。

2011年06月27日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡円〕
気持ちイイくらいの青で統一してみました。ベースの深い青は、水深日本一の田沢湖を思い起こさせますね。梅雨が開け暑い夏がやって来る頃には、どなたかがお選びになるでしょう。

昨晩はテレビ番組の中で最も楽しみにしている、NHK大河ドラマがありました。歴史モノですからストーリーは分かりきっているのですが、演じる俳優さんや脚本家の趣味によって、結構雰囲気が変わります。石坂浩二さんの千利休はとても良いですね。この先向井理さん扮する徳川秀忠がどう化けるか、大きな楽しみのひとつでしょう。

昨晩のシーンに、秀吉の弟である豊臣秀長が亡くなる場面がありました。秀吉に対し遺言のように遺したのは、『耳障りなことを言ってくれる人を大切に…』のような台詞。侍の世界では頂点を極めつつあった秀吉ですから、おそらく周囲は「イエスマン」が多かったでしょうね。秀長がそんな兄を憂いたという演出でした。

確かにこの意味はよく分かります。耳に心地よいことばかり聞こえれば良いのですが、実際の生活でそんなことはありません。ときに腹が立つほどの批判を受けることもあれば、まったく予期せぬ指摘を受けることもあるでしょう。そうした批判や指摘を「大切なもの」として聞くことができるかどうか、それはその批判に「愛」があるかどうかだと思うわけです。
実は秀長の台詞を聞いた瞬間、さかのぼること数時間前の実演席を思い出していました。

秋田県北部に位置する地方都市から、20数名の団体さんがいらっしゃいました。お昼ごはんにちょっとアルコールが入ったおじさまや、食事を済ませて買い物を愉しむおばさまなど、まずいつもの光景です。草履コーナーの丸太椅子にもおばさま数名が座り、好きな配色選びでそれは賑やかに過ごされました。

草履コーナーがいっとき静かになったとき、ひとりのおじさまが私の前に立って話し出しました。『角館なんて昔の街並みがねがったら、ただの寂しい町だものな。ほんとになんにもねぇべ。見せる範囲も狭いがら、少しのお客さんでも商いになるんだな』。
全国津々浦々いろんな人がいるわけですが、初対面でいきなりこの手の話をされたのは初めてです。

おじさまの言葉は勢いづいて止まりません。『町のあちこちに稲庭うどんの看板出でるども、まるで角館の食い物みでったねが。角館サ昔からある食い物どご売り物にしねばダメだべっ』。
私がお応えしたのは、『私は見ての通り草履職人だがら、ただ一生懸命草履編むだげだんシ。食い物のことはその道の人が考えるんシべ』。

おじさまのご指摘はごもっともで、角館人とて何もせずにいるわけではありません。仙北市では「食」についていくつかの事業が始まっているのですが、こちらのおじさまとはそういう話をする気になりませんでした。最初の言葉、「ただの寂しい町」を聞いたときに、角館に対する愛はもちろん、人様のふるさとに対する心さえないのが分かりましたからね。
コメント
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