角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

子を思う親心。

2011年06月18日 | 実演日記




今日の草履は、古くからの知人に依頼されたオーダー草履です。私が18歳のときからお世話になっているご夫婦で、樺細工の木地を造る職人さんなんですね。「今日の草履」は男の子のお孫さんが履くもので、それが面白いことに舞台の芝居に使うんだそうです。おばあちゃんがそうした芸事が好きですから、隔世遺伝したのでしょう。
『草履があんまり目立たないように、昔のワラみたいな色で編んでけれぇ』がこちらになります。

岩手県一関市からお越しのご夫婦旅。奥様が角館草履にとても関心が高かったのですが、ひとまずご購入を断念したのは西宮家に着くまでのお買い物でした。よくあるんですよ、『いやぁ~、もう予算いっぱい使っちゃったものねぇ』という言葉。
試し履きされた奥様がため息混じりに言うのは、『これ、娘が欲しがるわぁ』。するとご主人も、『あっ、そうだよ。あいつは冬でも裸足だものなぁ』。

このあとこちらの娘さんの話題になりました。娘さんは幼少時、極度の喘息に悩まされたそうです。普通の学校に進めないくらいの病状で、小学校時代の四年間を養護学校で過ごしたんですね。その学校の先生にとても厳しい人がいて、咳き込んでいる状態でも走らせたり、タワシで体を擦らせたりが日常だったそうです。
当時を振り返って奥様が言うのは、『親も涙だらけだったぁ』。

しかしこの先生との出会いは、結局娘さんを助けることになりました。次第に体力がついて普通の学校に戻ると、自ら志願して剣道部に入るスポーツウーマンに変貌したんだそうですよ。
そしてその娘さんに、間もなく赤ちゃんが生まれます。ご夫婦にとっての初孫は、娘さんの幼少期の思い出と相まって、どんなに楽しみなことかと思いますね。

結局草履のほうは、その娘さんと妹さんの2足をお買い上げくださることになりました。『今日の2足はお父さんの年金から出したから、次に自分たちの分を買うときはあたしの年金からだね』と奥様。
自分たちの草履が後回しになった悔しさよりも、娘さんたちに買ってあげた嬉しさのほうが何倍にも見えましたね。

仙台に暮らすわが家の次女から、先日カミさんへメールがありました。それは、『やっぱり自転車が欲しいんだけど…』。
次女のアパートは、大きな道路から入ってしばらく急勾配の坂道になっています。そのせいで引越し当初は、自転車不要としていました。それが暑い季節を迎えて、日常の買い物等徒歩のみがツラくなってきたようです。

自転車そのものは、中学時代から使っているものがあります。これを仙台まで運ぶ手段なわけですが、運送屋さんに頼むと結構な金額なんですね。ふと気づいたのが、高速道路休日千円の最終日。それが今日と明日です。私は休めませんから、行くとすればカミさんが自分で運転するしかありません。そしてそれは、かつて経験のない、かなり大胆な行動と言えました。

そこへ助っ人の登場です。それは三女。部活を休むのは気が引けながら、姉のアパートを訪ねるチャンスはもうないかも知れません。ましてこのたびは、仙台までの初運転に挑戦する母親の助手席で、適度な話し相手になるという“使命”があります。
運転席も助手席も、ちょっと頼りない車が今朝出発しました。

これもまさに、子を思う親心でしょう。私はひたすら無事な帰りを待つのみです。
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