角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

偉人は面白い人!?

2009年04月03日 | 実演日記


今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡円〕
ピンク基調のうさぎちゃんプリントをベースに、合わせはピンクの流紋プリントです。
色調といいプリント柄といい、文句ナシに可愛い草履ですね。和柄の優雅さ、洋柄の楽しさ、そしてこうした可愛らしさも混じって、角館草履の展示パネルはその特徴を見せるのだと思います。平生地はこちらです。




古今東西「偉人」と呼ばれる人が大勢いますが、そうした人たちの伝記や隠れたエピソードを知るとき、その面白さと言いますか滑稽さに笑っちゃうことがあります。
最近ノーベル賞を受賞した博士の中のおひとりにも、そぶりやおしゃべりに面白い方がいましたね。

昨日のこと、お歳のころは70歳代半ばと思しき老紳士がお越しでした。実演席隣りの入り口から入って見え、『こんにちは~』とお声をかけると老紳士も同じく返してくださいました。そのときのアクセントを聞いて、純粋な日本人ではないことが分りました。日系二世か、もしくは中国系の方で日本に精通している、そんな印象を持ちました。

挨拶の後、展示パネルを眺めたまましばらく黙っていらしたので、あまりおしゃべりは得手ではないのかと思い、私も黙って草履を編んでいました。するといきなり、『いやぁ~、驚きましたよ。こんな綺麗な履物は生まれて初めて見た、この草履はもっと全国に知らせなきゃもったいない。そう、京都の清水寺はゼッタイいいし、東京の若者が集まる場所でも人気になる。そうだ、パリへ出しませんか、日本の品物は評価が高い、ゼッタイ受けますよ。ロシアだってイイですよ、ロシアは日本の製品がとても人気が高いんです』。

おしゃべりが得手ではないどころか、老紳士の言葉はとどまるところを知りません。一瞬の隙をつき、『私ひとりが作っているので、とてもそんなところへ出す生産量なんてありませんよぉ』と言うと、『ダメですよそんなことでは。あなたにはお子さんがいないんですか、娘さんでもイイ。家族でダメなら親類縁者みんなで作ったらイイ、出来れば一族っていうのがイイんですよっ』。

あまりに熱心にお話くださるので、『海外にも明るそうですけど、なにかそうした商いをされているんですか?』とお訊ねすると、『まぁ、シンクタンクですね。あちこち飛び回っている松尾芭蕉みたいなものですよ』。
「シンクタンク」、テレビでときどき耳にする名称ですが、私にはよく分かりません。「ポリタンク」ならわが家にもあるんですけどね。

しばらく熱弁を奮われた後、『これから秋田市の商工会議所へ行かなければならないので、また時間がとれたらお邪魔しますよっ』。
私は挨拶の後、『面白い人もいるもんだなぁ』としばらく老紳士の背中を見ていました。するとくるっとこちらを振り向き、また私に向かって進んできました。
『今気づきました、やっぱりあなたはどこへも行ってはいけない。この草履を見るために人がここへ集まるんですねっ』。

私は思わず、老紳士へガッツポーズを見せてしまいました。私の願いを老紳士が見抜いてくれたことに、これまでとはまた違う喜びを感じたんです。
老紳士はもしかしたら名のある御方かも知れません。「偉人」というのは、どこか面白いもんです。

コメント
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