緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

追悼 熊谷賢一氏

2017-12-17 21:12:40 | マンドリン合奏
マンドリンオーケストラ作品で知られる、熊谷賢一さんが10月9日に亡くなっていることを知った。
享年83。

熊谷賢一氏の作品は、私の学生時代に盛んに演奏されていた。1980年代前半のことだ。
私の手元に残っている学生時代の楽譜を見ると、次の5曲を演奏していることが分かる。

・マンドリンオーケストラのためのボカリーズNo.9-海原へ-
・群炎第6番-樹の詩-
・群炎Ⅰ
・マンドリンオーケストラのためのボカリーズNo.1-暁の歌-
・マンドリンオーケストラのためのボカリーズNo.2-街の歌-

私が卒業した年だったか、母校のマンドリンクラブの合宿に、熊谷賢一氏を招いて直接指導してもらったとの話を後輩から聴いた記憶がある。
熊谷氏の新曲だったと思う。
OBとして定期演奏会を聴きにいったが、斬新かつ難しい曲だった印象が残っている。

卒業してしばらくマンドリン音楽から遠ざかっていたが、30代後半になり、何かのきっかけで学生時代に弾いた鈴木静一や藤掛廣幸の作品を聴きたくなり、CDを手に入れて再びマンドリン音楽にのめり込むようになったが、何故か熊谷賢一の作品には関心が行かなかった。
その理由は恐らく、熊谷作品がフォークソング的要素があり、軽い音楽、という印象を抱いていたためであろう。
実際、学生時代に弾いた熊谷作品で印象に残っているのは初めて弾いた、ボカリーズNo.9-海原へ-と、その翌年に他大学とのジョイントで弾いた群炎第6番-樹の詩-以外はあまり印象に残っていない。

Youtubeで鈴木静一などマンドリンオーケストラ作品の実演が投稿され始めても、熊谷作品を目にすることは無かった。
私は愚かにも熊谷作品は人気が無いからだ、と勝手に解釈した。

昨年の11月の終わりだったと思う。
神奈川大学マンドリンアンサンブルの定期演奏会を聴きに行った。
この定期演奏会のプログラムで、熊谷賢一氏の作品を目にする。
マンドリンオーケストラのためのボカリーズ第5番「すばらしい明日のために」という曲だった。

プログラムの曲目解説を読んで絶句した。
「マンドリン合奏曲の作品に取り組み始めてからは、マンドリン音楽の新しい創造的な発展のために精力的に作品を生み出してこられましたが、学生団体の不作法や著作権処理の不備などを理由に、作者本人が1996年に斯界との絶縁を宣言し演奏が凍結されました。その後2000年に凍結は解除されましたが、マンドリン合奏曲の重要なレパートリーであり、すばらしい財産とも言える氏の作品が演奏される機会は激減し、特に学生の間で存在すら知られなくなってしまったことは残念なことです。」
これで熊谷作品の演奏が見つからなかった理由がわかった。

神奈川大学マンドリンアンサンブルの定期演奏会の感想を記事にしてからしばらくたったある日、この記事にコメントの投稿があった。
驚いたことに熊谷賢一氏のご子息からであった。
とても有難いことに、熊谷賢一作品の一覧が見られるホームページと、マンドリン作品の多くが聴けるYoutubeのアカウントを教えて下さった。
これをきっかけに、熊谷作品のいくつかを聴き始めた。
その中で、熊谷作品の真価、それは今までの見方を180度変えるきかっけとなった曲、演奏に出会ったのである。
それは学生時代の1984年の夏に、他大学とのジョイントコンサートで弾いた想い出の曲であり、熊谷作品では一番好きだった「群炎第6番-樹の詩-」、演奏はノートルダム清心女子短期大学マンドリンクラブによる初演(1983年)であった。

まず冒頭のギターパートの重奏の音に驚いた。今なかなか聴くことの出来ない、重厚な、芯のある強い音。そして他パートが加わり音楽が展開されていくうちに、この曲が物凄い力を秘めていることに気付かされた。
そして何度も何度もYoutubeの演奏を聴いた。
人間を始め、全ての根源的な生命力、廃墟、苦難のどん底から這い上がっていく力強いパワー、決して後戻りしない決意を感じさせる強固な再生力、人間に対する信頼、優しさなど、人間を初めてとする生物や自然の根本的なありかたを問う、スケールの非常に大きな曲であることが分かった。
マンドリンオーケストラ曲の最高傑作の1つであると確信している。

曲や演奏の感想は以前の記事で書いたので、もしよかったら読んでいただけると嬉しい。

http://blog.goo.ne.jp/ryokuyoh/e/14765116d0e3c5e1b801678a44378829

Youtubuで、初演者であるノートルダム清心女子短期大学マンドリンクラブの実演が聴けるが、是非聴いて欲しい。
聴いて下さるなら、演奏時間7:25あたりから17:50当たりを注意して聴いて欲しい。
そして、特に12:02から13:00あたりを更に注意して聴いて欲しい。
この部分の音楽、そして演奏が物凄いのだ。
何か強く感じるものがないだろうか。
我々が普段感じることを忘れている、いや感じることが出来なくなっている、人間の根源的な何かが。

この演奏によって、学生時代に弾いたこの曲が実は凄い素晴らしい音楽であることに今さらながら気づいた。
気付くのに実に33年を要した。

熊谷賢一さんの音楽を通して私は50を過ぎて、とても大切なものを学ばせていただいた。
熊谷さん、ありがとう。

【追記201712182332】
文中、私が母校のマンドリンクラブのOBとなった最初の年に、母校の合宿に熊谷さんを招いて指導を受けたという話を聞いたことを書いたが、この時の曲が、マンドリンオーケストラのためのバラード第4番「河の詩」という曲であることが分かりました。

【追記20171224】
NHKでかつて放映されていた「中学生日記」という番組の1970年代前半のテーマ曲が聴きたくなり探していた。
1975年からの風間先生(湯浅実)の前の時代だ。
いろいろ調べていたら、1970年代前半のあの忘れられないテーマ曲の作者が、熊谷賢一らしいことが分かった。
音源を探しているが、今現在見つけられていない。
(NHKアーカイブスにもこの時代のものは残っていないとのこと。しかし何とか聴きたい)

【追記20171224】
NHK大好き人間だった両親のもと、しかたなく見ていた「銀河テレビ小説」。
「銀河テレビ小説」で見た番組で、最も古い記憶で鮮明に覚えているのが「黄色い涙」だった。1974年のこと。
そしてその翌年1975年に放映されたのが「青春のいたみ」だった。
このタイトルを何故覚えていたかというと、この時代に見ていた銀河テレビ小説で何が一番良かった?、と当時兄と話していて、私が「青春のいたみ」だ!、と話したのを今でも覚えているからだ。
この「青春のいたみ」のテーマ曲の作者が何と熊谷賢一だった。
この「青春のいたみ」のテーマ曲も現在探しているが、見つけられないでいる。

【追記20180211】
【追記201712182332】で記載したマンドリンオーケストラのためのバラード第4番「河の詩」のプログラムが見つかった。
OB1年目の時に聴きに行った1986年11月の母校第18回定期演奏会のプログラムに載っていた。



【201808250141】
1:09からを聴くと、20代の頃を思い出す。
苦しみと再生。
強固な強い意志。
2:49から。日本人でしか書けない、日本人でしか感じられない。
日本人の感性って、すごい。
この感じ方、もっと大切にしたい。

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