緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

ホルヘ・ボレット演奏 ベートーヴェン ピアノソナタ第31番を聴く

2017-07-09 21:17:56 | ピアノ
ホルヘ・ボレット(Jorge Bolet、1914-1990、キューバ出身、のちにアメリカで活動)の演奏で、めずらしい、ベートーヴェンのピアノソナタ第31番のライブ録音を見つけた。
ボレットはリストとショパンを得意としており、録音もこれらの作曲家のものが多いが、ベートーヴェンは殆ど見たことがなかった。
このライブ録音は1964年のアメリカでのタングルウッド音楽祭の演奏と思われる。
ボレット50歳の時の演奏。
ボレットはこの頃は無名に近く、1974年の還暦になってカーネーギー・ホールでの演奏でようやく名声を得るに至った不遇のピアニストであった。
このカーネーギー・ホールでのライブ録音を聴くと、聴衆の異常なほどの熱狂ぶりを感じることができるが、それはむしろボレットの超絶技巧に対するものと思う。
しかしボレットは技巧派というより、私はとても繊細な感性の持ち主という印象を持つ。
そして演奏解釈も正統的である。
しかしこのような要素であればあまり記憶に残らない。ボレットの演奏に惹かれるのは、やはり静かでありながら熱い情熱を感じさせてくれるところ。
そして決して派手ではないが音の使い方が絶妙なところにある。

今日見つけたベートーヴェンのピアノソナタ第31番の解釈も正統的でオーソドックスなものであるが、この曲の演奏としてはトップレベルの一つに数えられると思う。
この曲は、ピアノ曲の中でも最も好きな曲の一つで、今まで数えきれないくらい様々な多くのピアニストの演奏を聴いてきたが、ボレットの演奏はその上位に位置するものである。
残念なのはライブ録音なので、破綻がいくつかあることと、音が非常に悪いことだ。
ボレットがベートーヴェンのピアノソナタをスタジオ録音してくれなかったことは実に惜しい。
50歳という演奏家としては最も充実した時期に録音の機会が少なかったことは、とても残念なことである。

このピアノソナタ第31番で、演奏が超一流かどうかが見分けられるフレーズとして、例えば次のような箇所が挙げられる。

第一楽章の難しいトリルとその後の和音、



第三楽章フーガの最後の盛り上がり。



この最後の盛り上がりは、どん底からの強い精神的回復を意味するものであり、感情的、精神エネルギーの高まりを最後まで上昇させなければならないが、最後の最後になって速度や音量を落としてしまう奏者が多い。
譜面には速度や音量を落とす指示は一切なく、このような演奏は石橋を叩いて演奏するようなものであり、それまでの演奏がどんなに素晴らしくても興覚めする。
ボレットの演奏の最後がどうなるか、初めて聴いたときにははらはらしたが、期待を裏切るものではなかった。

コメント