緑陽ギター日記

趣味のクラシック・ギターやピアノ、合唱曲を中心に思いついたことを書いていきます。

ラーラ・マンドリンクラブ 第40回定期演奏会を聴く

2017-05-28 22:06:12 | マンドリン合奏
今日、千葉県市川市の市川市文化会館でラーラ・マンドリンクラブの第40回定期演奏会が開催された。
この数か月、休日が殆ど無かったが丁度今週は土日ともに休むことが出来、何か演奏会がないだろうかとイケガクのホームページを見ていたら、藤掛廣幸の新曲を初演する団体の定期演奏会のプログラムが紹介されていたので、早速行ってみることにしたのである。

秋葉原で総武線に乗り換え、本八幡(もとやわた)という駅で降り、歩いて15分くらいのところに会場はあった。
千葉県には姉夫婦が住んでいるものの、滅多に行くことは無い。
下町という感じでもなく、マンションの多い町であった。

会場に入ると以外に観客が大勢いるので驚いた。
もしかして、藤掛氏が今日この演奏会で指揮をするのではないか、という思いが閃いた。
プログラムを受付でもらって早速開いてみると、予感は当たった。
何と藤掛氏が新曲の初演の指揮をするではないか。
こんな機会は殆ど無いと言っていい。今日は体調次第では家で寝ていようかとおもったが、思いきって行ってよかった。ラッキーだ。

大ホールの客席の殆どが埋まるほどの盛況だったが、客層の多くは中高年であった。
若い人たちが少なかったが、やや残念。
大学のマンドリンクラブの指揮者やパートトップ奏者くらいは、聴きにきてもいいのではと思った。

さて、今日の演奏会のプログラムは下記のとおり。

第1ステージ
・80日間世界一周 第1組曲  高根みどり、西尾伊織編曲
・前奏曲とフーガ M.ヴェングラー作曲
・劇的序曲「魔女の谷」 Fr.メニケッティ作曲

第2ステージ
・序曲第一番 イ長調  K.ヴェルキ作曲
・マンドリンオーケストラの為の「星の庭」  小林由直作曲
・手児奈ファンタジー 藤掛廣幸作曲 (ラーラ・マンドリンクラブ委嘱作品 初演)

市川市で活動するラーラ・マンドリンクラブは60人近いメンバーを有し、40年もの歴史のある社会人団体としては規模の大きな団体である。
メンバーに若い方が少なかったが、演奏歴の長いベテラン揃いで、想像以上に上手い演奏であった。
1stマンドリンの方が演奏を力強く引っ張っていっているのが印象的。
おそらくマンドリンオーケストラ全盛時代であった1970年代から1980年代初めに学生オーケストラに所属していた方も多いのではないか。

第1ステージが始まる。
先日したようにベテランの安定した技術に加え、音も大きく、力強い演奏だ。
やはり学生時代にマンドリンクラブに所属していた方が多いのではないか。
若い時の演奏体験、それも合奏の経験が無いと、高齢になってもこのような演奏はできるものでは無い。
80日間世界一周第1組曲は、世界各国の有名な民族音楽やポピュラー音楽をメドレーにしたもの。
どの曲も過去に何度か聴いたことのある馴染みの曲。
日本では滝廉太郎の「荒城の月」、スペインではギターパート独奏で「マラゲーニャ」(?)を聴けた。
2曲目の「前奏曲とフーガ」は短いがちょっと変わった曲だった。
前奏曲とフーガと言えば、バロック時代の定番の形式でバッハの平均律クラヴィーア集や、現代の時代にこの音楽形式で作曲した日本の原博のピアノ曲を思い出すが、このヴェングラーの前奏曲は古典的というより、かなり現代的な書法で書かれた曲。しかしフーガがいかにも古典的でそのギャップが面白かった。
第1ステージの最終曲の劇的序曲「魔女の谷」はとても聴き応えがあった。そして今日の演奏会の中でも最も力量を感じさせる演奏であった。
この曲、どこかで聴いたことがあると思った。
家に帰ってから学生時代の楽譜を引っ張り出してみてみたが無かった。
学生時代の楽譜は数年前に奇跡的に、実家の物置のダンボールに入れられていたのを発見し、持ち帰ったが、鈴木静一の「狂詩曲 海」や芥川也寸志の「弦楽のためのトリプティーク」の楽譜は見つからなかった。これは無念だ。
前半途中から短調の部分が素晴らしい。Fr.メニケッティはイタリア人であろうか。
このフレーズはギターでも似たようなものを聴いたような気がするのであるが、何だったか思い出せない。
西洋の音楽の雰囲気を存分に味わうことの出来るいい曲だ。演奏会でもっと取り上げられてもいいと思う。
最後はワルツ調のリズムで華やかに終わる。

15分間の休憩の後、第2ステージが始まる。
第1曲目はヴェルキ作曲の「序曲第一番 イ長調」。
ヴェルキの作品は学生時代に何曲か演奏したことがあるが、この曲は無い。
出だしのハーモニーが美しい。賛助でフルートが加わる。
フルートの寂しい旋律が心に染みる。荘厳な雰囲気がする前半にくらべ、後半は全く別の展開に。
明るく華やかな舞曲風の音楽に変わる。いかにもヨーロッパの音楽という感じだ。
途中穏やかな曲に変遷するが、最後は再び華かに終わる。
2曲目は小林由直氏のマンドリンオーケストラの為の「星の庭」。
小林由直氏の曲は今回が初めてであろうか。もしかしてYoutubeなどで聴いたかもしれない。
私とほぼ同世代の方。海外で高い評価を受けているようである。
この曲は星空をイメージした曲であるが、雄大で全体的に明るく、ロマンに溢れた曲だ。
美しい星空を見上げて感動することなど、もう数十年も無いが、高校2年生の時、故郷の北海道で大晦日の日に見た満天の星、そして30歳くらいの頃、旅行で訪れた四国の大堂海岸の夜に見た、降り注ぐような無数の星空の2回だけが印象に残っている。
このような美しい自然を見ることで人は心をリセットできるし、希望も湧いてくるのだと思う。

そして今日の演奏会の最後は、藤掛廣幸氏の新曲、「手児奈ファンタジー」だ。
藤掛氏を間近に初めて見ることができた。
70歳近いのであろうが、とてもそんなように見えなく若々しい。
新曲の解説をしてくれたのだが、気さくでユーモアのある方だ。
この曲はラーラ・マンドリンクラブの創立40周年の記念として藤掛氏に、市川市に伝わる「真間の手児奈伝説」をテーマとして委嘱された曲とのこと。
今から1000年以上も前に、手児奈という絶世の美女がおり、おおくの男性から求婚されたが、男たちに争いが起き、それに耐えきれなくなり、真間(=断崖)から海に身を投げて死んだという伝説らしい。
藤掛氏はこの短い伝説を理解するため、実際に土地を訪れたり古事記などを調べたりしたという。
そして手児奈が死んだのは男たちの求婚に耐えられなくなったからではなく、もっと別の理由、例えば家族の死などもっとつらいことがあったからではないかと確信するに至る。
そしてある日、この手児奈の夢にうなされて目が覚め、やっと具体的なメロディーや音楽が見えてきたという。
曲は、藤掛らしい悲しくも美しく繊細な旋律で始まる。
その後、太鼓などのパーカッションも加わり、激しいリズムが刻まれ、藤掛氏の曲らしく静と動の対比が聴きもの。静は心に刻まれる純粋な繊細さを持ち、動は体の中心からこみあげるものである。
その後、マンドリンとギターのソロで冒頭の悲しくも美しい旋律が再現される。
絶世の美女でありながら、若くして身を投げざるを得なかった手児奈の無念の気持ちとそれを弔う気持ちが感じられた。
藤掛氏の曲を聴くといつも感じるのは、日本人独特の感性を大切にし、それを曲に表そうとしていることである。このような作風は海外の作品で聴くことはできない。
日本人の感性と言っても、古代の日本旋法に見られるような作風ではなく、日本が一番活気があり希望に満ちていた1960年代から1970年代の時代に確かにあった雰囲気だ。
藤掛氏はこの時代に最も多感な青春時代を過ごしており、この時代に感じ取ったことが作曲のベースになっているに違いない。

曲が終ったあと盛大な拍手を受け、大きな掛け声も出た。
そしてなんとこの手児奈ファンタジーのあの悲しくも美しい主題のフレーズをもう一度演奏してくれたのである。
この曲の核となる、藤掛氏が最もインパクトを受け、夢でインスピレーションを得たという旋律だ。
この旋律を心に刻みつけて欲しいという作曲者の願いを受け止めて聴いた。
藤掛氏の指揮を初めて実際に見たが、物凄くエネルギッシュで、渾身の指揮であり、マンドリン音楽の真骨頂を聴かせてくれた。
今日は作曲者自身と直接音楽を共有し、感動できるという素晴らしい経験ができた。
藤掛氏の、多くの人々と音楽をする喜びを分かち合おうとする気持ちを十分に感じとることが出来、今日はここに来て本当に良かったと思った。
藤掛氏とラーラ・マンドリンクラブの方々、スタッフの方々に感謝したい。

最後はアンコールで團伊玖磨作曲「花の街」で締めくくられた。


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