世界の中心で吉熊が叫ぶ

体長15センチの「吉熊くん」と同居する独身OLの日常生活

大海へ

2015年02月13日 23時39分31秒 | Weblog
私の仕事といえば、たまに副社長から内線がかかってきて、パソコンの設定を依頼され、
「もう俺さ、歳食ってるからさ、コンピューターなんて分かんねぇんだよ。もう一度生まれ変わらないとダメかな」
という呟きに
「そんなこと仰らないでください~」
と困り笑顔で応対するお仕事です。はい。

勿論それだけではなく、今の優先事項といえば、紛れも無く予算作成である。
今朝、吉熊上司に予算の進捗を聞かれ、
「え、まだ?・・・木曜日の日が暮れるまでに完成してね」
と言われ、焦る。最後の砦。消耗品費・雑費の詰めが残ってる・・・。

今日は後輩男子ししゃも君の送別会。私はその幹事を担っている。
「予算作成が終わらなくて、○○さん(私)が送別されるようなことにならないでくださいね」
と後輩女子Cちゃんに言われた。それには吉熊上司も大爆笑。
なんとかキリがよいところまで終え、会社近くの居酒屋へ。

今日はこの店で経理部の歓迎会も行われる。
関西から旦那さんの転勤で引っ越してきた中途採用の女子(マッツー←すっかり馴染んでいる)の歓迎会だそうだ。
我々が飲んでいると、経理部員がぞろぞろと入店し、我々に手を振り、上の階の個室へ吸い込まれていった。

トマト鍋をつっつく。



さて、ししゃも君の退職。
(ししゃも君の名前の由来は、彼が経営管理室に来る前、社長が「彼は子持ちです」と言ったから)

彼は2年前、プロジェクトメンバーとして経営管理室にやってきた。
以来、吉熊上司と共に、プロジェクトを進めてきた。
プロジェクトがひと段落した年末に、彼の口から退職することを告げられた。
衝撃的だったが、でも心のどこかで予感していた私がいた。・・・彼は優秀だから。

「やりたいことが他にある」という理由だったが、今日はその真相を聞いた。
奥さんと子供を背負った彼が、「自分に何ができるのか」「自分は何をしたいのか」「将来の資産設計」「転職するならば30歳直前の今しかないんじゃなかろうか」などを考えていたことを今日、知った。
昼休みの薄暗い社内で一人で黙々と勉強をしていた彼。
国立大学を出て、中小企業診断士の資格を取り、普通だったらそれに胡坐をかいでしまうのだろうが、上昇志向の強い彼は大海へ泳ぎ出ることを選んだ。「同僚に恵まれていたので、決断が鈍りました」とも言っていた。


そこへ、宴を終えた経理部女子三人(O主任・叶姐さん・マッツー)が乱入。
これからの当社、業界の動向、日経平均株価について語った。
特に「これから会社はどうなる」「どうすれば会社が良くなるのか」といった話題は、明日の我が身にも関することなのでガクガクブルブルしながら聞いた。

また吉熊上司の私に対する本音を聞く際は必然的に酔いが醒める。
「この子はね、よく考えているよ。うん、よく考えている。・・・仕事以外でね!!あは」
と言われた。ギクっ!

吉熊上司は「考えて仕事しろ」「言われたことだけやってるんじゃつまらないじゃない?」「上の人を使うんだよ。頭を使って」と何度か繰り返して言っていた。酔った頭にメモ。


宴も酣。終電間近。

みんなで駅へ向う。

最後、駅で吉熊上司とししゃも君が握手をしているのを後ろから見ていた。


吉熊上司が、ししゃも君に

「自分が決めた道。数年後、数十年後、『これでよかったんだ』と思える、後悔しない人生を歩んでね。絶対に負けてはいけません。頑張って」

と言っているのを聞いて、涙腺崩壊。


「ちょっと○○さん、泣かないでください。誰の送別会か分からなくなっちゃうじゃないですか」
と言っているCちゃんの目にも涙。

吉熊上司を見送り、ホームへ。

電車が来る間際、ししゃも君は我々に背を向けてホームの電光板をずっと見上げていた。
「最後ぐらいこっち見てよ」
と言っても
「今はちょっと待ってください。涙が恥ずかしいです」
となかなかこちらを振り返ってくれない。

最後の最後、握手を交わし、涙、涙の別れをした。
電車に乗り込み、彼のひょろっとした躯体が消えるまで手を振った。

きっと、たぶん。
冒頭のような雑務や予算作成(調整)に忙殺されている私は、今月末ぐらいには、ししゃも君のことをあまり思い出さなくなるのだろう。入社15年目、過去の経験から、そのことはずいぶん学習してきた。

その「時間の残虐性」を知っているから、別れる「今」という時間がとても辛いし寂しい。
だから、気を緩めると、これを打っている今も、涙はとめどなく溢れてくる。

礼儀が正しくて頭が良いししゃも君のことだから、新天地でも頑張っていけるだろう。
ありがとう、ししゃも君。
どうか、お元気で。



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