全店の店長が集結し、「歳末商戦を乗りきろう!ファイヤー!」という主旨の会が、当社にはある。
私のようなぺーぺーの社員は参加することはできず、神秘のベールに包まれている社内行事だ。
この会が開催されると「そろそろ年末なんだわ」と思う。
夕方、課長職以上の上司や役員たちはそそくさと会社近くの会場に移動していった。
心なしかみんな嬉しそうである。
吉熊上司も慌しく行ってしまった。
暫くしてから、電話が入った。
吉熊上司からだった。
「悪いけど、あの書類持ってきて」
という内容だった。
風邪を引いた吉熊上司の声は、周囲のざわめき声に溶けそうなぐらい弱々しかった。
寒い夜道。
書類を片手に、会場へとトコトコ赴く。
「虎は千里往って千里還る」…という言葉を思い出しながら。
(あれは子を想う親心を表す言葉なんだが)
大切なモノのために千里の道を走る虎と、
歩いて数分の会場まで、書類を届けに行くパシリの自分とを重ね合わせて、失笑。
色々あったけど、私が上司だと思える人は彼だけだ。
彼のためなら何でもしたいと考えている。
それは日常での些細なことにすぎないかもしれない。
しかし、そんな小さなことが会社のためになっているという実感に繋がったとき、
私はこの上ない達成感を得られる。
会場に着く。
たくさんの店長がお酒片手に談笑していた。
壇上で、どこかの店長が「アジアの純真」を歌っている。
「白のパンダをどれでも全部並べて~♪」
「白のパンダ」は「白熊だよ」と、心の中で突っ込みながら吉熊上司をキョロキョロ探し、どこかの店長と囁きあう吉熊上司を発見。
人を押し分け、そのクマのような背中に近付く。
「よっ!ありがとうな」
風邪で青白いんだか、
酔って赤いんだか分からない微妙な顔色をした吉熊上司はそう言って書類を受け取った。
そして「皆さんに配っておいて」と私に指示を下した。
広い会場を走り回り、役員さん全員に書類を渡す。
残業がある私は、そそくさと出口に向おうとした。
吉熊上司に引き留められ、「俺、もう飲めないよ。これ、お前にやる」と、ビールが注がれたコップを渡された。
ざわめく会場で、役員一人一人に大声で書類の概要を説明した私の喉はカラカラだったので、二つ返事でいただいた。
ごくっ
「うんめ~っ!」
ドラゴンボールの悟空のような素っ頓狂な声を漏らした瞬間、
「亮子ちゃん~!」
と、聞き覚えがある甲高い声が背後から近付いてきた。
同期のAちゃんだ。
私の同期の殆どは店長になり、全国各地で頑張っている。
彼女も先日店長になったばかりで、今日は店長会デビューとのこと。
新人店長は、もれなくカラオケで歌を披露しなければならないらしい。
「ファンタスティポ歌うの。ああ、緊張するよ~!」
彼女は高揚感を隠せず、楽しそうに出番を待っていた。
「頑張ってね!」
彼女と、そして周囲にいた店長たちに挨拶をして、会場を去った。
私の仕事は、売上高というものを作れない。
経費削減をして、どうにか経常利益を生み出そうとしているが、そんなのは店の人の汗と涙で作られた売上高には到底敵わない。
本社に来て一番最初に上司に言われたこと。
それは、「俺たちは店の人に食わせてもらっている。それだけは忘れるなよ」という言葉だった。
日々、自分の仕事で精一杯になって忘れてしまうことだが、とても大切な真実だ。
いよいよ、歳末商戦が始まる。
今年も見知らぬ店舗へ販売応援に行く予定だ。
店舗の売上には貢献できないにしろ、せめて店舗スタッフの邪魔にならぬよう頑張ろう。
ほろ酔いの私は、千里を駆け抜ける虎の心境で、会社へ戻った。
私のようなぺーぺーの社員は参加することはできず、神秘のベールに包まれている社内行事だ。
この会が開催されると「そろそろ年末なんだわ」と思う。
夕方、課長職以上の上司や役員たちはそそくさと会社近くの会場に移動していった。
心なしかみんな嬉しそうである。
吉熊上司も慌しく行ってしまった。
暫くしてから、電話が入った。
吉熊上司からだった。
「悪いけど、あの書類持ってきて」
という内容だった。
風邪を引いた吉熊上司の声は、周囲のざわめき声に溶けそうなぐらい弱々しかった。
寒い夜道。
書類を片手に、会場へとトコトコ赴く。
「虎は千里往って千里還る」…という言葉を思い出しながら。
(あれは子を想う親心を表す言葉なんだが)
大切なモノのために千里の道を走る虎と、
歩いて数分の会場まで、書類を届けに行くパシリの自分とを重ね合わせて、失笑。
色々あったけど、私が上司だと思える人は彼だけだ。
彼のためなら何でもしたいと考えている。
それは日常での些細なことにすぎないかもしれない。
しかし、そんな小さなことが会社のためになっているという実感に繋がったとき、
私はこの上ない達成感を得られる。
会場に着く。
たくさんの店長がお酒片手に談笑していた。
壇上で、どこかの店長が「アジアの純真」を歌っている。
「白のパンダをどれでも全部並べて~♪」
「白のパンダ」は「白熊だよ」と、心の中で突っ込みながら吉熊上司をキョロキョロ探し、どこかの店長と囁きあう吉熊上司を発見。
人を押し分け、そのクマのような背中に近付く。
「よっ!ありがとうな」
風邪で青白いんだか、
酔って赤いんだか分からない微妙な顔色をした吉熊上司はそう言って書類を受け取った。
そして「皆さんに配っておいて」と私に指示を下した。
広い会場を走り回り、役員さん全員に書類を渡す。
残業がある私は、そそくさと出口に向おうとした。
吉熊上司に引き留められ、「俺、もう飲めないよ。これ、お前にやる」と、ビールが注がれたコップを渡された。
ざわめく会場で、役員一人一人に大声で書類の概要を説明した私の喉はカラカラだったので、二つ返事でいただいた。
ごくっ
「うんめ~っ!」
ドラゴンボールの悟空のような素っ頓狂な声を漏らした瞬間、
「亮子ちゃん~!」
と、聞き覚えがある甲高い声が背後から近付いてきた。
同期のAちゃんだ。
私の同期の殆どは店長になり、全国各地で頑張っている。
彼女も先日店長になったばかりで、今日は店長会デビューとのこと。
新人店長は、もれなくカラオケで歌を披露しなければならないらしい。
「ファンタスティポ歌うの。ああ、緊張するよ~!」
彼女は高揚感を隠せず、楽しそうに出番を待っていた。
「頑張ってね!」
彼女と、そして周囲にいた店長たちに挨拶をして、会場を去った。
私の仕事は、売上高というものを作れない。
経費削減をして、どうにか経常利益を生み出そうとしているが、そんなのは店の人の汗と涙で作られた売上高には到底敵わない。
本社に来て一番最初に上司に言われたこと。
それは、「俺たちは店の人に食わせてもらっている。それだけは忘れるなよ」という言葉だった。
日々、自分の仕事で精一杯になって忘れてしまうことだが、とても大切な真実だ。
いよいよ、歳末商戦が始まる。
今年も見知らぬ店舗へ販売応援に行く予定だ。
店舗の売上には貢献できないにしろ、せめて店舗スタッフの邪魔にならぬよう頑張ろう。
ほろ酔いの私は、千里を駆け抜ける虎の心境で、会社へ戻った。