「いつまで、かうして一緒に歩けるかしら?」
女は、男がカメラのシャッターを切り終はった時に云った。
「今年は紅葉の色が昨年より悪いな、冷夏だったせゐだらうか」
男は、さう云ふとカメラを提げた手を少し振りながら歩き始めた。
「いつまでかー。どちらかが死ぬまでだらう」
「あら、ここで死ぬ訳でもないし、それに私、あと十年もしたらこんな山路歩けなくなるわ」
「いいさ。私が車椅子を押してやるさ」
「無理よ。私も歳をとるけれど、あなたも同じ年月を過ごすのよ」
「さうか、すっかり忘れてゐたな」
「ばかね」
女は、男との、ざれ言のやうな会話を楽しんでゐた。
明日になれば、ばかばかしく思へる会話だった。
毎年、晩秋の山路を男と一時間ほど歩いた。
それだけだったが、女はいつもそこで秋に別れを告げ、その年に別れを告げてきた。
「さっきの話だけれどー」
女は、男の後姿に話しかけた。
「やはり、車椅子を押してでも連れて来てくれますか?」
男は、振り向きもせずに「いいよ」と云った。
女は、男がカメラのシャッターを切り終はった時に云った。
「今年は紅葉の色が昨年より悪いな、冷夏だったせゐだらうか」
男は、さう云ふとカメラを提げた手を少し振りながら歩き始めた。
「いつまでかー。どちらかが死ぬまでだらう」
「あら、ここで死ぬ訳でもないし、それに私、あと十年もしたらこんな山路歩けなくなるわ」
「いいさ。私が車椅子を押してやるさ」
「無理よ。私も歳をとるけれど、あなたも同じ年月を過ごすのよ」
「さうか、すっかり忘れてゐたな」
「ばかね」
女は、男との、ざれ言のやうな会話を楽しんでゐた。
明日になれば、ばかばかしく思へる会話だった。
毎年、晩秋の山路を男と一時間ほど歩いた。
それだけだったが、女はいつもそこで秋に別れを告げ、その年に別れを告げてきた。
「さっきの話だけれどー」
女は、男の後姿に話しかけた。
「やはり、車椅子を押してでも連れて来てくれますか?」
男は、振り向きもせずに「いいよ」と云った。