やまがた好日抄

低く暮らし、高く想ふ(byワーズワース)! 
山形の魅力や、日々の関心事を勝手気まま?に…。

枯れ椿

2005-09-15 | 神丘 晨、の短篇

女は、公園に逃げ込むやうに入ると、ベンチに深く身を沈めた。
男とは、いつものやうに「左様なら」とは云はないで別れた。
女が、唯一男に頼んでゐることだった。
それを聞くのは最後の一回でいい、と思ってゐた。
「少女のやうな頼みごとだな」と男は笑って約束した。
逢ふたびに、互いをいとおしむやうな別れは嫌だった。
その気持ちを引きずるだけで、一層の辛さがました。

女が顔を上げると、枯れかけたやうな椿の木が見へた。
中央の幹を見放したやうに、ひこばゑが出てゐた。

この木は枯れ果ててゆくのか。
それとも、再生してゆくのか。
男と別れられない自分が惨めだった。
結論を出せない自分の弱さに嫌気がさした。

でも、一年後にこの公園に来て、答へをださう。
女は、椿の根元を見つめながらさう思った。