女は、公園に逃げ込むやうに入ると、ベンチに深く身を沈めた。
男とは、いつものやうに「左様なら」とは云はないで別れた。
女が、唯一男に頼んでゐることだった。
それを聞くのは最後の一回でいい、と思ってゐた。
「少女のやうな頼みごとだな」と男は笑って約束した。
逢ふたびに、互いをいとおしむやうな別れは嫌だった。
その気持ちを引きずるだけで、一層の辛さがました。
女が顔を上げると、枯れかけたやうな椿の木が見へた。
中央の幹を見放したやうに、ひこばゑが出てゐた。
この木は枯れ果ててゆくのか。
それとも、再生してゆくのか。
男と別れられない自分が惨めだった。
結論を出せない自分の弱さに嫌気がさした。
でも、一年後にこの公園に来て、答へをださう。
女は、椿の根元を見つめながらさう思った。