やまがた好日抄

低く暮らし、高く想ふ(byワーズワース)! 
山形の魅力や、日々の関心事を勝手気まま?に…。

峰張桜

2005-06-19 | 神丘 晨、の短篇
(峰張桜/会津若松市)

その老人は、突然声をかけてきた。
「あんたは、何処から来た?」
まるで、私を詰問するやうな口調だった。
「山形、からですがー」
四月半ば、私は朝から会津地方の桜を写真に収めてゐた。
「山形か? いいだらう。何をしてゐる?」
老人は、遠巻きに私を見ながら刑事のやうに聞いた。
「休みを利用して、会津の桜を撮ってゐます。好きなもので」
「ウム」とうなずくと、老人は神殿へ向かった。暫くして、拍手の音が聞こへた。
私は、状況の整理もできないまま、バッグを片付け始めた。
「ところで、この峰張桜の話を聞きたくはないか?」
背後で再び老人の声がした。
私が、「はあ」と曖昧な返事をすると、
「今日は祭りだ。酒でも飲みながら話を聞かせてやる。わしの家はすぐ近くだ」
さう云ひながら私の袖をつかんだ。
「まったく、この桜を会津五桜から外すやつの気が知れん」
老人は、独り言のやうに云ふと、今度は私の手を引いた。