(写真は、イメージです)
「あの花、桐の花よね」
女が、助手席で窓の外を指さした。車は六月のつづら折りを上ってゐた。
男は、前方に注意を払ひながら、女が云った方向を幾度か見たが、それと分かるものを
認めることは出来なかった。
「ほら、あの花ー」
車が杉木立を抜けた時、女が再び云った。
確かに、山肌に小さな紫色のかたまりが見へた。
「何だらう? 今の時期だから、桐の花も咲くだらうけど、桐って里の樹ではないのかな。
こんな山中に咲くだらうか。藤の花ではなかった?」
「いへ。確かに桐よ」
女は、正面を向きながらはっきりと云った。
その厳しい横顔を見ながら、男が「私もよくは見へなかったがー」と云ひかけた時、
女は、「さうね、藤の花かもしれない。私も、不確かだしー」と曖昧に云った。
「あの花、桐の花よね」
女が、助手席で窓の外を指さした。車は六月のつづら折りを上ってゐた。
男は、前方に注意を払ひながら、女が云った方向を幾度か見たが、それと分かるものを
認めることは出来なかった。
「ほら、あの花ー」
車が杉木立を抜けた時、女が再び云った。
確かに、山肌に小さな紫色のかたまりが見へた。
「何だらう? 今の時期だから、桐の花も咲くだらうけど、桐って里の樹ではないのかな。
こんな山中に咲くだらうか。藤の花ではなかった?」
「いへ。確かに桐よ」
女は、正面を向きながらはっきりと云った。
その厳しい横顔を見ながら、男が「私もよくは見へなかったがー」と云ひかけた時、
女は、「さうね、藤の花かもしれない。私も、不確かだしー」と曖昧に云った。