rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

心理療法はあてにならない

2008-05-12 18:29:42 | 書評
書評「フロイト先生のウソ」 Rolf Degen 著 赤根洋子 訳 文春文庫2003年刊

何か大事件が起こるたびに被害者や家族の心理的「トラウマ」への公的対処が議論されるようになりました。まるで「心のケア」という科学、社会的概念全てが完成しているように感じますが本当はどうなのでしょうか。今回紹介する「フロイト先生のウソ」は、少し心理学に興味を持った人ならば常識とされるような既成概念の殆どが実は科学的根拠のないでたらめであり、古色蒼然たるフロイト理論をもっともらしく焼き直ししただけの場合も多数あることを数多くの心理学分野の論文を示しながら証明しています。

心理療法について述べた所では、心理療法は「プラセボ」(治療効果がないとされる偽薬、偽治療)以上の効果は証明されず、人は治療を受けようが受けまいが精神の自然治癒力によって治ることを示しています。例えば神経症患者の66%は2年以内に自然治癒し、90%が5年後には精神の健康を取り戻していて、これは治療を受けて治った患者の比率と変わらないと述べています。「心理学産業は市場と顧客の拡大を図るために日常のささいなことに無理にでも病名を付けるしかないのである。ただの疲れが「慢性疲労症候群」となり、つらい思いでは「心的外傷後ストレス障害PTSD」と呼ばれる。遂にはちょっとでも心に不調があれば専門家に相談すべきだということになる。」と心理業界の本音を暴露しています。

他にも「幼児教育が生涯の能力を決めるなどという科学的根拠はない」、「人は無意識の世界に完全な記憶を持っていて催眠によって再現できるなど嘘である」、「催眠術は被験者の自覚があるないに関わらず協力にすぎない」、「幼小児期のトラウマによって成人してから苦しむことなどない」、「多重人格は存在しない」、「右脳、左脳分担説の嘘」といったその道でメシを食べている人たちが読むと卒倒しそうな内容の真実が科学的根拠を示しながら次々と明らかにされて行きます。この本が明らかにしたことは環境によって犯罪がおきたのであって本人が悪いのではないという風潮の法曹界にもかなり厳しい現実をつきつけることになるでしょう。

「心のケア」は「悩みを聞いてあげる」だけで8割は治ったようなものだと言います。家族や友人がその役割を果たせば十分であると筆者は述べます。昨今の何でも公的ケアを求める風潮は本来責任を負うべき家族や教員の「責任転嫁」に過ぎないことは明らかで、それに心理業界の思惑が一致しているということでしょう。現在医療心理師と臨床心理士の二つの国家資格があり、混乱を生じているようですが、利用する側から言えば呼び方などどちらでもいいじゃん、と思うのはそもそもこの分野がどうでもよい分野だからかも知れません(ああ言ってしまった)。

ちなみにこのRolf Degenという著者はドイツ心理学会から科学出版賞を授章しているそうです。心理学会というのは懐が深い。訳者が後書きで述べているように内容にやや強引、日本の現状と異なると感ずる所はあるのですが、淡々と事実を積み重ねて示す事で皆があえて指摘しようとしない既成概念に挑戦するこの本は「心理学分野の副島本」とも言えましょう。

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