rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

千両役者になれなかったゼレンスキー大統領

2023-05-26 17:37:30 | 政治

2023年5月19日から21日にかけて広島G7サミットが開催されました。主なテーマはウクライナ問題だったという事ですが、5月20日ウクライナのゼレンスキー大統領がフランスの政府専用機で広島に到着し、G7に参加することになり注目を集めました。私は「バフムトがいよいよ陥落しそうな時に何をしに日本にやってくるのか?」と疑問だったのですが、唯一意義が残せるとすれば「G7会場で直接ロシアとの停戦を宣言すること」かもしれないと淡い期待を持ちました。

世界へのアピール性は絶大な舞台であった

 

I.  戦争の三態

 

第二次大戦は新旧帝国主義同士の戦いでしたが、それ以降の戦争は、

 

(1)国家同士の争い(中東戦争やフォークランド紛争): 当事国同士で決着がつく。

 

(2)代理戦争(Proxy War): 資本主義対共産主義といった朝鮮戦争やベトナム戦争に代表される一見国家間の争いのようで、別に戦争の目的があるもの。当事国同士で決着がつかない事が多い。

 

(3)テロとの戦争 : 米国一国主義(グローバリズム)が確立されて、軍産複合体の維持のために無理やりテロリストを仕立てて軍を出動させる戦争。COIN(Counterinsurgency)は本来治安維持のために警察が行う仕事であり、末端の個々の兵士が攻撃の可否を決定するという本来の軍にあるまじき指揮系統を取るため、メンタルをやられる兵士が多い。テロリスト(と認定する相手)がいなくなるまで戦争継続可能。

 

の3つ態様に分類されるようになります。しかし「戦争」と名が付く限り、全ての戦争で、五体満足な若者が殺し合い、生き残っても一生癒えない傷を負い、戦争当事者の国家社会に計り知れない負の遺産と経済的負担を強いるものです。だから「責任ある為政者」はあらゆる努力をして戦争は避けるべきであり、始まった戦争は終わらせる道(Off-ramp strategy)を探らねばなりません。

 

現在行われているウクライナ紛争を(1)だと考えている中学生レベルのヒト(ニュースは中学生も理解できるレベルでないといけないのでproxy warについては語れない)も沢山いますが、そのようなヒトは戦争を語る資格はありません。(1)であるなら他国は一切口を出さず、ロシアとウクライナが交渉して戦争を終えるか、仲介国(トルコやミンスク合意の時は独仏)を交えて出口を探れば良いのです。しかし(2)である場合、戦争をさせている元の主体が納得しないと戦争は終わらず、どちらも強力である場合、朝鮮戦争のように「休戦」のまま戦闘だけ終わる可能性もあります。(3)になると目的が軍産複合体維持なので、兵器を買う資本が続く限り(国債を発行してでも)永久に続くことになります。

 

II.  Proxy Warとしてのウクライナ紛争

5月15日クメルニツキの集積所がロシアのミサイルで2度に渡り大爆発、数百億円分の西側兵器弾薬が消滅し、英国製劣化ウランが周囲に飛散して核汚染も起きたと言われる。 5月下旬からウクライナ兵士から最も信頼の厚いザルジニー司令官が重傷を負って一線から退いたという報告。

 

ウクライナ戦争は衰退しつつあるグローバリズム(DS陣営)が米英を中心とした西側諸国とNATO、EUを資金源として、中ロを代表とする非西側諸国(BRICSやグローバル southを含む)多極主義陣営と代理戦争をしているのが実態です。戦況としてはロシアの圧勝であるのに、西側は実態を伝えることができず、戦争終結に向けて話し合うことさえ禁じられている理由がここにあります。上記のどのような態様であっても、戦争が「外交の一形態」である事に変わりはない以上、基本の基として戦争を行う上での「目的」と「戦略」が必要であり、それらを明確にした上で戦争の主体である「軍」に指令を出さねばなりません。今回の紛争で、当初プーチン大統領は特別軍事行動(special military operation)という表現を用いて、あくまで戦争ではなく、特定の目的を伴う軍事行動としていましたが、今年に入ってからはNATO西側諸国がロシアを消滅させようとする試みに対する「正義の戦争」であるとproxy warであることを明確に演説でも表現するようになりました。以下に両当事者たちの戦争の「目的」と「戦略」を記します。

 

(1) ロシアの目的と戦略

 

当初の「目的」は「ウクライナの非軍事化、非ナチ化、ドンバスの独立確保」。戦略としては「ドンバス地域に侵攻してキエフも包囲」することでウクライナ政府に要求を飲ませる予定であった。ウクライナ市民への損害は極力避けていた。

2022年4月トルコなどを仲介とした休戦交渉が英米の命令で中断され、多量の武器供与と共に戦争継続が指示されると、ロシアはキエフ周辺から撤退、ハリコフ等東部地域に戦線構築をし直し、マリウポリ奪還を目指した。現在の戦略は戦線を動かさず、圧倒的火力(砲撃)でウクライナ軍の兵を消耗させる。西側に資本が続く限り武器供与を継続させて経済を衰退させる、という戦略に変更、バフムトでは最大5万人のワグネル傭兵部隊が逐次投入された計30万のウクライナ軍を打ち負かし、70%の兵力を減殺、西側は既に5兆円以上の援助をウクライナに投入しており、今後も米国(バイデン)は5000億円の援助を議会に提出する予定とされ、まさに狙い通りの効果が得られている。

バフムト陥落までに逐次投入(下策)されたウクライナ部隊の総数 これだけの部隊がワグネル一隊に駆逐された。戦死戦傷の6割以上は砲爆撃によるのであり、高価な精密兵器があっても勝てないという良い見本である。

ウクライナへの武器供給はもう限界であるというPOLITICOの記事

 

(2) 西側(ウクライナ)の目的と戦略

ウクライナ国の「目的」としてはロシア軍の完全撤退とクリミアの奪還ですが、余りに非現実的。戦略は援助に頼り、戦術も近代兵器を使う以上のものはなし。西側の非公式な戦争目的はロシアプーチン体制の崩壊とグローバル資本のロシア経済乗っ取り。戦略はウクライナ国民を使って戦争をする。いざとなったら核を使うだが、うまくロシアが核を始めに使った事にしないと「正義」が立たないので苦戦中。公的Off-ramp strategyは今回の広島サミットの状況を見るとゼロに等しい状態です。(殆ど戦術的意味のない廃棄前のF-16供与の合意はしたらしいが)

一時高価なパトリオットミサイル供与がゲームチェンジャーになるという虚報が流れたが、パトリオットは限られた地域の限られた高度に対するミサイル防衛でしかない(左図)。しかもロシアのイスカンデル、極超音速のキンザールは右図の様に尾部から複数のデコイを放出してミサイル本体の撃墜を困難にしている。多数のデコイに惑わされたキエフ防衛に使われたパトリオット乱れ撃ちの画像が問題になり、その後ウクライナ市民は対空防衛などのSNS投稿を禁止された。

市民によって投稿された高価なパトリオットミサイル乱れ撃ちの動画。ロシアの全ミサイルを撃墜したなどというのは嘘である。

 

III.  広島G7サミットは、ウクライナにとって確実に停戦し、ウクライナ国を残せる千載一遇のチャンスだった

 

代理戦争という事実、西側の戦争目標が公の席や記者会見で堂々と宣言できない以上、公的には、ウクライナ戦争はロシアとウクライナという国家間の戦争ということになっていて、西側はウクライナを支援しているという名目でしかありません。従って、広島で全ての西側首脳が集まっている席で、またグローバルサウスの代表たちが出席している前で「ウクライナは、これ以上若者達を戦場で失うことはできません。本日を持って休戦交渉に入ります。」と宣言してしまえば、それを広島の場で、公に否定する事はどの首脳も不可能であったはずです。米軍機を敢えて選ばず、独自の諜報機関を持つ核保有国のフランス機で台湾上空を避けて来日したゼレンスキー氏は、先月習近平と蜜月になったマクロンに頼んで、広島から中国経由でロシアに旅立つ事もできたはずです。その下準備にインド・モディ首相と事前会談することも可能でした(実際真っ先に会談していた)。ロシアの要求を呑んだうえで、現状のウクライナ領土の保全を保証してもらい、非武装・中立化を宣言、ロシアを中心としたウクライナの復興を「広島の地」でEU日本、グローバルサウスに協力要請すれば、世界の一般市民への情報発信としては否定しがたい説得力を持ったと思います。

2019年のパリ会談におけるゼレンスキー氏とプーチン大統領    一時は大統領としてアゾフ大隊に停戦を呼び掛ける努力もしていたが

 

本来、ゼレンスキー氏は大統領選挙の際、ウクライナ東部の内戦状態を終結することを目標にしていました。ミンスク合意を尊重する方針であり、2019パリ会談に参加した後に、アゾフ大隊に対して戦闘を止めるよう説得したりもしていました。しかしその後は対ロシア強行派に変容して現在に至るのですが、本心ではウクライナの若者が地球の裏側からの命令でロシアと戦争をさせられて死んでゆく事に忸怩たる思いがあるだろうと私は思っていました。この一年、ロシアとの停戦を画策しても悉く潰されてきた経緯があります。しかしもうそのような気概は微塵もなくなってしまった、西側DSのパペットに徹する人生と決めてしまったようで残念に思います。

 

IV.  ウクライナ戦争の今後

決着のつかない代理戦争は朝鮮戦争型の「凍結」を米国としては狙っている様ですが、私はベトナム型の敗戦になるように予想します。それは西側資本主義経済とドルを中心にしたグローバル資本主義が既に行き詰まっていて、これからはグローバルサウスとBRICS多極主義陣営の実物経済(エネルギーや穀物、架空取引による信用経済とは異なるtangible economy)中心の経済に移行してゆくことが必至であるからです。その際はロシアは元よりロシア語圏であるオデッサも獲得して沿ドニエストルと連絡路を得てウクライナの海への通路を断つと思われます。残るウクライナはゼレンスキー氏が述べている様にポーランドとの国境をなくし、形式上国家は残るもののリヴィウあたりまではポーランド領になり(元々ポーランド領だった)、残りは非武装中立地帯としてロシアとの緩衝国家として残されてゆくのではと思われます。

4月5日に突如ポーランドを訪問したゼレンスキー氏

コメント (7)
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