rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

大麻(マリファナ)解禁と麻薬戦争

2019-06-18 15:30:42 | 社会

2017年10月26日トランプ大統領は医療用鎮痛剤「オピオイド」の乱用に関する「全国的な公衆衛生の非常事態」を宣言しました。この背景には、医療用の鎮痛剤としながら合法的に必要以上の麻薬(オキシコドンなどのオピオイド)が処方され、全米で年間4万人が麻薬の過量摂取で中毒死している(2015年)という現実があります。これは交通事故(3万数千人)、銃(3万数千人)、殺人(2万人)、自殺(4万人)を超える数字であり、2千年は薬剤による死亡が1.7万人程度であったことから比較しても非常事態と言える増加率です(下図参照)。2018年の米国の泌尿器科研修医向けUpdateではオピオイド蔓延の問題が取り上げられていたので、備忘録としてまとめると共に、オピオイドの入門薬物として合法化が進む大麻(マリファナ)についてもまとめておこうと思います。麻薬の基本的知識はアクセスの多いこちらを参照して下さい。

 

米国 Drug Enforcement Agency 2015 の資料

 

2019年7月号の岩波「世界」に麻薬現代史と題して国連薬物犯罪事務所に所属していた藤野彰氏の論説が載っていて参考になりました。特に最近の各国における大麻を含む麻薬合法化の流れについて解説していて、これは積極的に一般人が麻薬に近づき易くなる事で社会を豊かにしようなどという意図ではなく、非合法であったものを合法化することで「青少年への不適切な使用」を防ぎ、「犯罪組織に渡る不法収益を防ぐ」事を目的としていると言うのです。しかし大麻を含む薬物の危険性の十分な教育を伴わない娯楽目的の合法化は「取り締まり当局の負担は少なくなる」けれども社会問題が増えるだけの結果になるだろう、と警告しています。

 

米国では基本的に大麻(マリファナ)は非合法ですが、州によって合法化されている所もあり、既に11の州で大麻は合法化(成人は使用可能)されています。しかし、2014年に解禁されたコロラド州では品種改良で神経に影響するTHC(テトラヒドロカンナビノール)を含む成分が多い大麻が増加し、大麻を混ぜたチョコなどの食品を食べた人が急性中毒の症状を訴えて病院に駆け込んだり、神経障害による交通事故が増加したりしているという報告が出ています。同様にカナダケベック州でもgreenoutと呼ばれる中毒患者の急増が懸念されていると米国FOXニュースなどでも報じられています。

 

米国の麻薬の氾濫は3回の歴史があり、1回目は南北戦争、2回目はベトナム戦争、そして今回の3回目は1990年代から製薬会社ががんや終末期医療の疼痛管理に積極的に麻薬を使用するようキャンペーンを始めてから急増したと言われています。ヘロインの使用は2000年には米国で40万人であったものが、2010年には70万人に増加、2016年には麻薬の過量摂取による死亡が下図のように人口10万人あたり13名に達しています。麻薬使用者の多くは医師からの処方で使い始め、強い痛みが消失してもその多幸感からそのまま使い続ける人が増加しているということです。日本においても緩和医療講習会などに出ると一時盛んに「麻薬を使え」キャンペーンが行われていた時期があります。確かに必要にして十分な量の麻薬で終末期医療などに麻薬を使用することは合理的ですが、反応性うつ病にもやたらと抗うつ薬を使用して自殺者が急増したように、慢性疼痛に麻薬を多用することは良い結果を生まないことがやっと米国で認識されてきたようです。注意が必要なのは日本でも腰痛などに多用されている「トラマドール」は現在米国でも麻薬と同じ習慣性のある要注意薬物に指定されており、安易な処方は避けるよう指導されていることです。

 

 

大麻(マリファナ)は麻薬か

 

「大麻は喫煙よりも害が少ない」と言い張る人もいます。「欧米では大麻が合法化されているのだから日本でも合法化しないのは遅れている」とまるで大麻を取り締まっている日本が男女差別と同様に遅れた社会であるかの様に主張し、大麻合法化を訳知り顔で迫る人もいます。欧米において本当に大麻(マリファナ)の娯楽使用が社会的に問題ないとされているのか、また薬物として麻薬に相当しない物なのか検討しました。NIH(National Institute of Health)の下部組織である米国薬物乱用研究所(NIDA)のCompton所長は、大麻が癌疼痛などに対する鎮痛作用を持っている事、神経に対して作用する事が明らかであることから、麻薬としての要素が十分にあると認識しています。目的を明確にした医療用大麻がより精製した薬物になれば、呼吸毒性が少ない鎮痛剤としてより有用になる可能性があると述べています。しかし天然のマリファナは種々の不純物を含んでおり、娯楽用の多幸感を得る目的で特に青少年が使用する事は厳に避けるべきであると述べています。大麻が麻薬乱用の救世主になるかもという意見には代表的な米国の内科学会誌(JAMA)でも触れられているように否定的な見解が多いのが現実です。私もこれらの意見に賛成です。私は大麻も麻薬の一種であり、今後とも禁止薬物として取り締まるべきであると考えます。外国で大麻を覚えた人が日本でも吸いたいがために大麻合法化を主張していますが、彼らは決して日本の社会を良くしたいという良心に従って主張しているのではありません。

コメント (8)
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