rakitarouのきままな日常

人間様の虐待で小猫の時に隻眼になったrakitarouの名を借りて政治・医療・歴史その他人間界のもやもやを語ります。

書評「ロシアから見た北方領土」

2013-03-04 19:26:54 | 書評

書評「ロシアから見た北方領土」岡田和裕 著 光人社NF文庫2012年刊

 

著者は新聞記者から作家になった岡田和裕氏1937年中国東北地方生まれ。日本とロシアが安政年間に領土問題、交易に関して初めて接した時(1854年)から1.5世紀に渡る歴史をロシア側からの資料と視点から眺めたもので、勿論日本がもつ各種資料と比べながらできるだけ公平な視点で北方領土問題を考えようという書籍です。とかく「一方的な日本固有の領土の侵略」と「頑迷固陋なロシアの態度」だけに目が行きがちな北方領土問題を多角的にとらえ、特に将来ロシアとの平和条約締結、共同開発には欠かせない国境線の確定(これが領土問題そのものですが)交渉を行う上では有用な資料となりえると思いました。

 

構成は江戸時代における日本・ロシアの北方探検、開発の歴史に遡り、開国後の交易交渉、樺太千島交換条約における確執、その後のロシア、ソ連との戦争状態と満州、北方地域の所有の移行経緯、第二次大戦とそれ以降のやり取り、現代における日露交渉という内容でまとめられています。特筆すべきは帝政ロシア時代の探検に基づく千島列島の開発や松島藩とのやり取りなどがロシアの資料を十分に利用して書かれている事です。

 

ロシアから日本を見ると、「日中は近代で2回(日清戦争、日華事変)しか戦争をしていないのに、ロシアとは4回(日露戦争、シベリア出兵、ノモンハン事変、第二次大戦)もしている。日本は侵略好きな油断ならない国家だ」という事になるようです。こちらの認識では「油断ならない熊はロシアだろう」と思ってしまうのですが、実際日本固有の領土をロシアが侵略したのは第二次大戦末期に北方領土を奪った事と不当なシベリア抑留をした事くらいで(それでも十分悪い奴と思いますが)、ロシアにしてみるとシベリア出兵やノモンハンもかなりな痛手であった事が資料から解ります。

 

江戸期における開発では日本が1635年には択捉島に到着していた一方で、帝政ロシアが1697年にカムチャッカ半島に到着ですから日本に一日の長があり、樺太に至っては1422年の室町時代から多賀城の碑に記述があるというので、何らかの行き来があったものと思われます。しかし日本もロシアも元々現地に居住していたアイヌ・クリールといった人達に混ざって動物や魚を捕ったのが始まりであって、いつ記載があるからその土地が記載した国のものというものではないと思います(アイヌ原住民の物というのが一番正しい)。でないと太古に記載があるという理由で、日本は中国の所有物になってしまいます。

 

「千島や樺太は諦めるとして、北方4島は日本固有の領土だろう、ソ連(ロシア)が終戦のどさくさに奪って居座っているのはけしからん」という日本の主張は国際法を含む各種法的には正しく、正面切って公正な場で判断を仰げば日本に利があることは間違いありません。しかしソ連にしてみると第二次大戦後、北海道の領有は諦めたのだから小さい島位でガタガタ言うな(主にアメリカに向かっての主張)というのが本音のようです。日本は独立国といっても至る所に米軍基地があり、第三者的に見てアメリカの属国であり、国際問題において大戦後米国に反旗を掲げた事が一度もないのですから、日本を一人前の国家として扱えない、領土問題を話し合うにもまず米国の意向を確かめてからでないとできないのであれば、日本と話し合うより米国と話せば済む(米国は勿論取り合わないですが)という考えも納得できるものです。

 

4島を返してほしければ沖縄を含む日本全国から米軍を追い出せ、という非公式声明も彼らの本音と言えるでしょう。ソ連が崩壊して、ウクライナやバルト諸国などソ連時代に比べて領土がかなり減った現在のロシアにとって僅かな島であっても領土を日本に割譲するというのは選挙制度で指導者が選ばれる体制である現体制ではなかなか難しい問題であることは間違いないでしょう。6章7章ではエリツイン、プーチン時代における日露交渉の経緯が書かれているのですが、エリツインが提案したとされる5段階案(20年くらいかけて、開発、経済交流を優先させてから4島の管理方法を決める)などは建設的対応としてもっと積極的に考慮してもよいのではと思いました。プーチンは2島(歯舞色丹)プラス北方海域を一つの提案としているのでは、という推測がされていますが、最終決定は先延ばしにして交流を優先するという方法は現代社会においては唯一の建設的対応のように私は思います(尖閣のようにそれを壊すことも容易と言えますが)。

 

本書の巻末には1945年4月の「日ソ中立条約破棄に関するソ連の覚書」戦後の日本の領域を示した「連合国最高司令官訓令677号」など歴史的に参考になる有益な資料がまとめられており、領土問題を考える際の資料集としても参考になると思いました。

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