Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

ソーシャルメディア研究WS@鳥取

2011-02-23 15:50:19 | Weblog
鳥取大学で開かれたソーシャルメディア研究ワークショップ。栄えある第1回になるか,それとも幻のワークショップとして終わるのか,いずれにしろ参加者の皆さんには喜んでいただけたし,参加できなくて残念という声もいくつかいただいた。自分の発表を犠牲に,幹事役に集中してよかった(ウソ)。

発表者(敬称略)とその発表タイトルは以下の通り:
■水野誠(明治大学):ソーシャルメディア・マーケティング・サイエンス
■石井晃(鳥取大学):口コミに着目した消費者行動の数理モデル化
■鳥山正博(野村総研):ネット上の情報収集と口コミによる商品分類

■藤居誠(東急エージェンシー):QPRモニタの購買行動とCGM
■山本晶(成蹊大学):消費者のクチコミ受発信意向について
■澁谷覚(東北大学):ソーシャルメディアにおける信頼性

■佐野幸恵(日本大学):ブログデータから観測する人間の集団現象
■村田真樹(鳥取大学):メディア関連テキストへの教師あり機械学習の適用
■徳久雅人(鳥取大学):ブログ記事からの観光評判情報の抽出と分類

■松本英博(デジタルハリウッド大学):ツイッターにおけるコミュニケーションモデルの仮説
■大向一輝(国立情報学研究所):リンクトデータでつながるミュージアム
■福田忠司(鳥取県):ソーシャルメディアを使った鳥取県の情報
■新垣久史(鳥取大学):話題共鳴分析事例

■吉田就彦(デジタルハリウッド大学):ソーシャルメディアを有効化する書き込み力
■松村真宏(大阪大学):ソーシャルメディアと仕掛学
■安田雪(関西大学):クロスメディアの使い分け―どこから仕入れ、どこへ喋るか
これだけの発表を個別に紹介するわけにはいかないので,それはむしろ,臨場感溢れる toggetter をご覧いただきたい。このブログでは,今回,お互いの議論から見えてきた,いくつかの論点を記しておこう。

WSの早い段階で,安田先生が「情報伝播と行動伝播の違い」をちゃんと考えるべきだと問題提起された。モデル研究の立場からは,それは情報受信と行動の間の関数をどう定義するかに帰着する。最も単純なモデルでは,情報を受け取ったら一定の確率で製品を購入する,などと仮定される。しかし問題は実証分析で,行動への影響を測るにはデータの制約がある。

情報伝播から行動変容への流れは,ネットワークの性質,それを構成する成員の特徴,情報の質と量,等々に依存する。社会学者や心理学者はそこに注目して実証研究を積み重ねてきた。たとえば,ネットワークを構成する二者関係については,社会心理学での説得研究の蓄積がある。信頼あるいは権威のある者の情報伝播は,受信者の行動を変容させやすい。

澁谷さんはこうした研究の流れを踏まえながら,社会的な絆がなく信頼性が低いネットクチコミは,相手との同類性が高い場合に相手の経験の有用性が高くなる(=モルモットとして使える)ので行動に影響を与える指摘する。これは,その極限に洗脳がある説得という行為より,主体的な模倣あるいは学習という行為に近い。むしろ合理的な行動といえる。

他方,二者間関係に注目しつつも,最適異類性を唱える点で山本さんは少し違う。そこでのメカニズムが澁谷さんの指摘とどう対応するかは,彼女があとで提起した問題と関係する。つまり,Watts らがいうように,インフルエンサーは存在しないのか,という問いだ。しかしクチコミが模倣-学習だとしたら,主導権はインフルエンシーとされる側に移る。

そもそも二者間にインフルエンスがないのであれば,インフルエンサーは存在しないといってもよい。ただし,Watts らが本来主張するのは,周囲に対して恒常的に強力な影響を与えるオピニオン・リーダが存在しない,ということである。この主張が実証的に一般化されているかどうか,ぼくは寡聞にして知らない。ぼく自身はその主張に懐疑的である。

これについては,モデル自体はどちらも作り得るのであって,どういう条件の下でどちらが成り立つかについて,包括的な実証研究が待たれている。ソーシャルメディア研究は(少なくともぼくにとっては)そういう期待を担ってスタートしたが,最近その困難さが目立つようになった(というのが冒頭のぼく自身の発表であった・・・最初からネガティブだw)。

しかし,ソーシャルメディア自体普及し始めたばかりであり,研究もこれからである。今回の発表にもログデータ分析からサーベイ調査,統制実験まで多様なアプローチがあった。大向さんの提唱するオープンリンクトデータのような環境面の整備も,研究の進展に貢献するに違いない。困難や不足感こそ研究のブレークスルーを生む。今後がおおいに期待される。

なお,このワークショップに関するツイートで,最もRTが多かったのが,村田先生の「テキストに基づくイデオロギーの予測」という話題であった。国会演説を政党を教師信号にSVMで学習させ,新聞の社説の「党派」を予測させるというもの。読売や産経の社説がそこそこ「共産党」的である,という結果が受けたようだ。やはり研究は「目の付けどころ」である。

さて,2日目に境港に場所を移して行われた「妖怪シンポジウム」については,改めて投稿することにしたい。