Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

北の大地で触れた社会心理学

2014-07-30 10:10:29 | Weblog
土日に北海道大学で開かれた社会心理学会大会に参加した。心理学会はもちろん、社会心理学会の本大会を聴講するのは初めてだ。マーケティングおける社会心理学の役割を考えると、遅すぎたといえる。

実際、マーケティングや消費者行動の研究は、認知的不協和理論や精緻化見込みモデルなど、社会心理学からさまざまな概念を借用してきた。実務面でも、マーケティング・リサーチの確立に社会心理学者が果たした役割は大きい。

様々な口頭・ポスター発表を聴いて感じるのは、そのテーマの多くが誰にとっても身近な現象を扱っていることだ。それにはいい面と悪い面がある。悪い面とは、自分には関係ないテーマだと「逃げる」ことができないことだ。

「政治行動」のセッションは、昨年来、経済政策と世論に関する研究に関与しているので、大変興味深かった。たとえば三浦麻子、稲増一憲両先生の発表では、「保守-革新」の測定の問題について、いろいろ考えさせられた。

最近の若者には、保守=共産党、革新=維新の会、という知覚があるという。マーケティングの立場、というか少なくとも自分の場合、人々がそう思うことを素直に受け取る。しかし、社会心理学者は、そう素直ではないようだ。

歴史的に形成された「保守-革新」の概念を、現在の若者がどこまで理解しているかが分析される。そうした方向の研究を新鮮に感じつつ、自分なら新しいイデオロギーの出現という方向で話を進めるだろう・・・などと考えていた。

朝8時から始まったキーノートスピーチに、時間を勘違いしていて5分遅刻。しかし、下條信輔先生の「社会脳」に関する講演は、いつもながら刺激に満ちていた。社会心理学への叱咤と激励が混じったメッセージと受け取った。

視覚のような、ほぼ生理的に見えるメカニズムにも、社会的交互作用が進化プロセスを通して与えた痕跡が読み取れる。つまり、広範な心理現象はほぼすべて社会的なのであり、社会心理学は心理学の一応用分野ではない、と。

それを受けて自分が勝手に妄想したのは、まず自律的な個人の意思決定があって、そこに社会的相互作用を加味するのではなく、そもそも社会のレベルに一体性があり、そこに裂け目が入って個人が生まれるというストーリーだ。

午後のワークショップでは、杉谷陽子先生の発表が興味深かった。ブランドの強さを悪いクチコミに態度が影響を受けにくいことと定義、ブランドへの態度を機能性と感情、感情をさらに憧れと親しみに分けるという枠組みである。

指定討論者の北村英哉先生が指摘されたように、憧れ-親しさの2因子は、下條先生がおっしゃっていた選好を規定するNovelty-Familiarityにも関連しそうである。ということは何か「進化的な基盤」がある話なのかな・・・と妄想。

杉谷さんは、製品の身体経験が、とりわけ親しさの因子を通してブランドへの態度に影響すると予想したが、実はすべての因子に影響したという。いずれにしろ、いま取り組んでいるプロ野球のファン研究にも参考になりそうだ。

最後に聴講した「文化進化」のセッションでは山本仁志さん、小川祐樹さんによる、アクセルロッドの文化伝播モデルに関する研究を除き、いずれも初耳。そんな研究があるのか、と社会心理学のスコープの広さに驚かされた。

技術の淘汰を伴う伝播を再現する被験者実験とか、集団主義の成立を国別の集計データを使って論じる分析とか、いずれも大胆な研究で、非常に面白かった。学の世界は広い。やはりときどき、他学会を覗くという旅が必要だ。

学会ではどうしても、自分好みの話ばかりつまみ食いして、栄養の偏りが出てしまうかもしれない。社会心理学について、一度きちんとした教科書を読み通す必要があると思いつつ、時間だけが経っていく・・・

社会心理学 (New Liberal Arts Selection)
池田 謙一、唐沢 穣、工藤 恵理子、村本 由紀子
有斐閣