Mizuno on Marketing

あるマーケティング研究者の思考と行動

経営学とゲーム理論から学ぶ夜

2014-04-05 15:24:03 | Weblog
昨日は JIMS マーケティング・ダイナミクス部会に慶応大学の三橋平先生、筑波大学の石川竜一郎先生をお招きして、ご研究を伺った。経営学(マクロ組織論)を専門とする三橋さんは、スポーツ競技において順位が途中でわかることが選手のパフォーマンス(の評価)に与える影響を分析する。

先行研究に、ゴルフトーナメントにタイガーウッズが出場するかどうかで、他の選手のパフォーマンスが変わることを示したものがある。タイガーウッズが出ると、他の選手は勝ち目が薄くなると感じてモチベーションを低下させる。これをタイガーウッズ効果と呼ぶという。

三橋さんは、こうした他選手の効果をもっと掘り下げ、類型化する。さらには、フィギュアスケートを対象にすることで、ジャッジの役割を新たに加える。ジャッジが、選手のパフォーマンスがそれまでの順位に依存することを織り込むことで、バイアスを持つことを立証する。

こうした評価対象の順位が自己の評価に与える影響に関する議論は、消費者行動でいうコンテクスト効果とどこかでつながるかもしれない。あるいは、自分たちが2位であることを強調した、かつての Avis の広告のように、シェアの順位がブランド選好に及ぼす効果もありそうだ。

ゲーム理論に認知的要素を導入した研究を行う石川さんは、バブルに関する被験者実験を報告された。トレーダーが合理的なら証券の売買はファンダメンタル・バリューにしたがって行われ、バブルは生じない。しかし、実験を行うと発生することが過去の研究で示されている。

それについては、トレーダーが他のトレーダーの合理性に疑いを持っているからだという解釈が行われてきたが、石川さんたちは、それを覆す実験を行う。被験者たちに取引を何度も経験させると、バブルは生じなくなる。そこに経験を持たないトレーダーを途中参加させる。

従来の解釈だと、経験のない新入りの参加で他のトレーダーがバブルを予測し、それが実現するはずだが、そうはならなかった。そこから、石川さんたちは、トレーダーたちは他者について考えるのでなく、自分たちの経験からの学習に基づいて行動していたのだと結論づける。

石川竜一郎氏・編著の本↓

制度と認識の経済学
船木由喜彦・石川竜一郎
エヌティティ出版

お二人の研究では、期せずして、競争において相手の心を読むことが重要なポイントになっていた。しかも、相手の行動ではなく、モチベーションとか合理性とかいった、深いレベルの心的状態を読むかどうかである。これは実は身近な問題で、自分もまた日々悩まされている。

また、真摯な研究態度や緻密な論理構成など、学ぶべきことが多かった。畏友の研究のますますの発展が楽しみだ。