ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

12/04/08 悪役・悪婆の魅力たっぷり「通し狂言 絵本合邦衢」

2012-05-15 00:30:30 | 観劇

4月の観劇では「通し狂言 絵本合邦衢(えほんがっぽうがつじ)」についても書いておきたい。昨年3月の公演も観たが、リピートしようとチケットをとったら東日本大震災で公演中止になってしまった。国立劇場開場四十五周年記念の歌舞伎公演の掉尾を飾る公演として再演は嬉しい限り(特設サイトはこちら)。
4/8(日)に観劇し、さくらまつりの最終日だったので観桜の記事のみアップ済み。
筋書も昨年分を持参して今回の見本と比較したところ、一部は重なっていたが工夫して読み応えのあるものとなっていることを確認してしっかり購入!こうしてコレクションが増えるのが嬉しい悩みでもある(^^ゞ

大阪天王寺の合邦辻閻魔堂で実際に起こった敵打ちを踏まえた狂言。四世鶴屋南北が読本『絵本合邦辻』を原作として、左枝大学之助と立場の太平次という極悪人を主人公に据え、悪事の限りを尽くさせる筋立てとなっている。座頭役者がその二役を演じるのが眼目のようだ。仁左衛門は、孝夫時代に玉三郎とのコンビで新橋演舞場でも公演しており、20年ぶりの再演、今回の舞台はさらにブラッシュアップされていた。
大阪松竹座での「霊験亀山鉾」や「盟三五大切」など、このところ悪役に力を入れて取り組んでいる仁左衛門だが、遠征をしない私は「絵本合邦衢」の悪役二役で仁左衛門の悪の魅力を存分に堪能した。
Wikipediaの「絵本合法衢」にある話のあらすじよりもすっきりと刈り込まれていてスピード感があり、もたつなかい展開。 文化デジタルライブラリーの「絵本合法衢」の項のあらすじは国立劇場での初演(幸四郎の悪の二役)の時のものだが、そこでの場面とも少々違っていた。ずいぶんと工夫しての通し上演になっていることがわかる。戯曲を練り上げる努力の積み重ねの大事さを痛感。

今回の主な配役は以下の通り。
左枝大学之助、立場の太平次=仁左衛門
高橋瀬左衛門、高橋弥十郎=左團次
太平次女房お道=秀太郎
うんざりお松、弥十郎妻皐月=時蔵
田代屋後家おりよ=秀調 田代屋娘お亀=孝太郎
田代屋与兵衛=愛之助 佐五右衛門=市蔵
お米=梅枝 孫七=高麗蔵
松浦玄蕃=男女蔵
昨年は段四郎がつとめた高橋瀬左衛門を、今回は左團次が弟弥十郎と二役替わった(国立の初演時は同じ二役とのこと)が、兄の敵を弟が討つということで二役替わる方が効果的だと思う(眉のメイクを変えるバンドで早替りで雰囲気が変わっているのもよかった)。当初は段四郎出演予定だったのを降板しているのでちょっと心配。
それと太平次女房お道を昨年は吉弥がつとめていてよかったが、秀太郎に代わっていて、夫に殺される哀れな感じが増していた。

仁左衛門は大学之助と太平次の二役を音遣いを変えた声で自在な台詞回し。五十日鬘に黒羽織袴姿の大学之助は、分家ながら御家乗っ取りをねらう大悪党で、愛鷹を殺してしまった百姓の子どもを斬り捨てる場面でその残虐性が浮かび上がる。
太平次の方はごろつきで、愛嬌ある軽みと凄みをきかせる小悪党ぶりがいい。安達元右衛門風の見得もあって、「敵討天下茶屋聚」を彷彿とし、歌舞伎は型をうまく使うものだ。それにしても時代がかった大悪党も生世話っぽい小悪党もいずれも魅力たっぷりに演じられるのは、当代では仁左衛門だよなぁと感心至極。

うんざりお松は悪婆の原点的なお役らしいが、時蔵のお松が実によい。あだっぽさはあまり感じないが、蛇の皮を剥き毒を絞る場面、田代屋での強請場、太平次に甘えかかる場面がよく、そのいじらしい女が愛する男に殺されてしまうという哀れさがいいのだ。
斬られて井戸に突き落とされ、ここで早替わりになって弥十郎妻皐月ですぐに登場するので観ている方は少しほっとできるのも嬉しい。
子息の梅枝が綺麗で儚げで、夫の孫七ともども返り討ちにあって殺されるお米にはまっている。おりよも巻き込まれて毒殺されるし、与兵衛とお亀夫婦も死ぬ。敵討ちの機会をねらって大学之助の妾奉公に出たお亀は返り討ちされて幽霊になって夫与兵衛に会いに来る。二世の誓いの言葉を聞かなければ成仏できないといういじらしい孝太郎のお亀。愛之助の与兵衛は、半殺しにされて自害に追い込まれてやっと生き別れだった兄弥十郎と名乗りあうことができるという哀れさが際立っていた。百姓佐五右衛門は冒頭に息子を、娘のお亀・お米も殺されている。とにかく何人殺されるのかという、まさに南北の芝居だ。

原作では太平次は最後に敵として討たれるらしいが、今回は主人の大学之助に殺されたとしてその死の場面は省かれる。その分、大学之助が弥十郎夫婦によって討たれる場面が丁寧に描かれる。仁木弾正が最後に討たれる時のような下に黒い網を着込んだ白装束で最後も返り討ちをねらうが、弥十郎たちの計略で油断させられて討たれての大団円。

悪の華咲く二役の仁左衛門と悪婆の魅力をあらためてみせてくれた時蔵。二役での大活躍は仁左衛門、時蔵、左團次というのも特筆しておこう。

我が家に飾られている『演劇界』2月号の付録の役者の舞台写真カレンダーの5月は仁左衛門の大学之助だったし、『演劇界』6月号の表紙は時蔵のうんざりお松。やっぱりちゃんと書いておくようにと背中をおされたようだ。


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2 コメント

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Unknown (hitomi)
2012-05-19 22:44:44
仁左衛門丈、もう素敵過ぎます。孝夫時代の仁左衛門と玉三郎の日本橋、テレビで観たことがあります。今も目に浮かびます。東京はいいですね。
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★hitomiさま (ぴかちゅう)
2012-05-20 02:08:48
「日本橋」は25年ぶりの上演だそうですが、孝夫時代の仁左衛門との共演だったのですね。12月日生劇場での公演を楽しみに観ようと思っています。
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