ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

08/01/15 NHK「プロフェッショナル」の玉三郎

2008-01-19 23:58:45 | テレビ

娘の成人式の疲れを引きずる1週間ではあったが、翌日のNHK「プロフェッショナル」の玉三郎の回はビデオ録画しながらちゃんと観た。
9・10・12月歌舞伎座での出演演目の稽古の様子や舞台裏、初日の舞台などの映像が続くとぐいぐいと引き込まれてしまう。
玉三郎は小児麻痺にかかり1歳半頃には歩けなかったし、その後遺症で右足が少し短いのだという。衣裳を着る時に足袋の中にフェルトを敷いている映像に驚いた。幼少期にかかった小児麻痺で足が不自由だったので日本舞踊を始めたという話を聞いたことがあるが、今でもそこまでしないといけないということは知らなかった。

5歳で観た六世歌右衛門に憧れ、6歳から14代目守田勘弥の許で日本舞踊を始め、踊りが大好きな子になった。才能を見込まれて14歳で勘弥の養子となり、5代目坂東玉三郎を襲名。女方としては背が高すぎて客席から笑いが起こった。背の高い女方の写真を見て必死に研究。衣裳の中で腰を曲げ膝を曲げて低く見せるという、身体に無理をしながら舞台に立っている。もともと病弱だった上にそういう無理をしながらの舞台。
ウィキペディアの「坂東玉三郎(5代目)」の項はこちら
19歳で主演抜擢して脚光を浴び大役が次々と舞い込む。翌1970年海老玉コンビで「鳴神」→その映像が流れたのだと思う。壮絶な仕事漬けの日々。30ヶ月も休みなしに舞台に立っていた24歳の時に心が折れたようになり立ち上がれなくなった。鬱になってしまう。「もうすぐ踊れなくなる。踊れなくなったら自分はどうなってしまうのだろう」という不安が強くなる。舞台に立てなくなった時のことを考えるようになり、30代には新劇の演出や映画の監督にも挑戦、高い評価を得た。しかしそれだけでは満たされない何かがあったという。
→そうか、多角的な活躍は試行錯誤の産物だったのか!!
「肉体的にはいつまで続けられるかわからない。しかし自分は踊りから離れることはできない」「いつしかこう考えるようになった」「ただ明日の事だけを考えよう」
その日の舞台が終ると家に真っ直ぐ帰って、身体のケアを徹底しひたすら身体を休めた(専属のトレーナーに身体をほぐしてもらって疲れをとり、ぐっすり眠る。声を気づかって友人との長電話もしない。初日の打ち上げにも出ない、等)。
気がつけば初舞台から50年。明日だけを見つめる一途な日々は今も続いている......。

予想を遥かに上回るストイックな方だった。またここまで踊りが好きな人なんだということに感心。駆り立てるものは名前のついた目標ではなく、生理的な衝動だという。
役者の華論議で出た話。「舞台には生き方が現われてしまう」。その生き方とは向上心があるか、ちゃんとやろうと思っているかということ。品行方正かどうかじゃないようだ(笑)
「漠とした何かのためにやっているが、それを見失う時がある。そういう時には天から見られているという思いが最後の拠所。嘘はつけない。生真面目にやる」
玉三郎の公式サイトの「今月の言葉」でも、自然環境と人間の関係のような視点で語っていることも少なくない。今回の番組でもやはりそういう意識が現われたようだ。地方巡業の時に海辺に立ち寄った場面。「自然の何気ない美しさ」に惹かれ、「さも無意識にそういう雰囲気が出たらいい」という。
無意識に美しいということを追求するというのは究極に難しいことではないのだろうか。

特に舞台の工夫で長く見せた2つの演目。「牡丹燈籠」ではベテランの仁左衛門が最後の場面の演技に迷っているのを助けられるような女方の演技を初日まで工夫していた。仁左衛門は玉三郎お峰の死に様を絶賛。この死に方を受けた仁左衛門の絶叫が思い出される。長年培った信頼関係を見せつけられる名コンビ。
「信濃路紅葉鬼揃」では振付師とともに動きを決めていくという演出の現場の映像が興味深かった。自分の稽古は後回しにして後進の女方を厳しく指導する姿にも納得。通し稽古で不安にさいなまれる様子にも本当に繊細な人間なんだなぁと感じたり(^^ゞ
後シテの鬼女の見得のアップも可愛い。
「安心して舞台に立ったら、これほどつまらないことはない」→常に不安にさいなまれることもおそれていないのね!
「プロフェッショナルとは、どんな状態でもこれだけのものをお客様に提供できるという線をきちっと保てること」→これぞ、玉さまの美意識!

自分でも見習いたいと思うことは数々あれど、なかなかできないことばかり。とりあえず東京での玉三郎の舞台はなるべくしっかり観ていくことをあらためて決意した次第。
写真は、NHK公式サイトのこの番組のコーナーより。この笑顔がまたいいんだよね。そうそう再放送があるようですよ(^O^)/
放送日:1月21日(月) NHK総合/デジタル総合
放送時間:翌日午前1:30~翌日午前2:30

9月「阿古屋」
10月「羽衣」
10月「牡丹燈籠」
12月「信濃路紅葉鬼揃」


最新の画像もっと見る

11 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
素敵な笑顔の玉様でした (どら猫)
2008-01-20 12:04:31
陋屋へのコメントとTBをありがとうございます。
あのストイックな生活と芸に対する姿勢を語る時のあどけない位の明るい笑顔がとても素敵でした。
一つのことにあそこまで打ち込んで「明日しか見ない」という境地に達した方の笑顔なのだなと思いました。
東京の公演はなかなか見られないかもしれませんので、ぴかちゅう様の感想をお待ちしております。
TB失敗 (どら猫)
2008-01-20 12:12:25
TBに失敗してしまったので、名前のURLに記事のURLを書かせていただきました。名前をクリックしていただくと陋屋の記事にリンクします。
良い番組でした (みゆみゆ)
2008-01-20 21:20:00
玉三郎さんの舞台、私もこれからも楽しみたいと思いました。
実際に見た舞台の舞台裏を見ることができ、とても興味深かったです。
内容の濃い番組でした (六条亭)
2008-01-20 22:33:37
こん♪♪は。お嬢さんの成人式、おめでとうございました。お母さまとしてはほっと一安心というところですかね。

玉三郎さんのこの番組、過去の軌跡と今をこれだけ簡潔に、しかも凝縮した内容でまとめた特集番組はなかったですから、感動も大きかったと思います。その舞台に対するストイックな姿勢から、あのような奇跡の女形と言われる美しさが生まれたのだと思います。

今の円熟した舞台の数々を一つたりとも見逃すことは出来ませんね。再放送情報ありがとうございましたm(__)m。録画を出来なかった方もこれで安心ですね。

先般の『筆屋幸兵衛』のTBは何回試みても送信出来ませんでした。でも何故か今回はTBに成功しました。

TBありがとうございます♪ (hitomi)
2008-01-20 22:54:49
昨日、丸善で古本の山から文藝春秋デラックス昭和51年12月号「古典の魅力歌舞伎の楽しさ」を400円でゲットしました。若き三之助の写真や不安そうな痩せすぎの玉三郎のお三輪の写真などがあります。殺人的なスケジュールの頃ですね。
ノーブルな女神は強い人 (かしまし娘)
2008-01-21 13:27:24
ぴかちゅう様、まいど! 
玉三郎だから見よう。って気持ちじゃなくって歌舞伎俳優だからチャンネル合わせた。
って感じだったのですが、いや~あんなステキな笑顔が見れるとは思わず。ニヤニヤ♪
いつか (しろう)
2008-01-22 00:35:16
ぴかちゅうさまならきっとお書きになるだろうと、
楽しみに待っておりました。
TBされたものもしっかり読ませていただきました。
わたし、歌舞伎はまだ超ビギナーなので、
玉三郎さんを知るのに、またとない良い機会となりました。
玉三郎さんの舞台はまだ映像でしか観たことがありません。
いつか生でたっぷり堪能してみたいものです。
Unknown (くーみん)
2008-01-22 07:31:27
一線を越える前の男女は上半身がくっつき、
超えた男女は下半身が・・・、という解説、
思わず納得(爆)。
歌舞伎って、すごいもんですね~。
皆様TB、コメント有難うm(_ _)m (ぴかちゅう)
2008-01-22 23:58:54
★どら猫さま
貴ブログでの日経ビジネスオンラインの茂木さんの記事のご紹介、有難いです(なかなか自分ではそこまで見つける余裕がないのです)。
玉三郎丈の舞台をしっかり観るようになってからまだまだ数年といった私なので、今回初めて知ったことも多かったです。貴重な番組でした。ビデオに録画したので噛みしめながら見直してしまいました。玉三郎丈は病弱な身体なのに舞台に対する思いがあんなに強いから、ストイックなまでに自分を管理して「明日の舞台のことだけを考える」姿勢になられたんですね。あの奇跡のような美しさは、そういうストイックな姿勢からしか生まれないのだと納得できてしまいました。
これからも東京での舞台はなるべくしっかり観て記事アップを頑張りたいと思います。
★六条亭さま
娘の成人式へのお祝いコメントも有難うございますm(_ _)m
演劇大好きだけれど歌舞伎にはあまり興味のない友人が玉三郎には一目おいていて、昨年の「天守物語」は桟敷席で観てくれました。この番組もしっかり観てくれていて、「玉三郎はホント、アーティストだね!」と絶賛していました。その友人は芸術性を一番重視しているので、玉三郎には歌舞伎役者という範疇を超えたアーティストだと褒め称えています。
伝統を踏まえながらも自分の感性でさらにもっといいものにしたいという、まさに「生理的な衝動」とおっしゃっていたものに突き動かされている感じというのがあてはまると思います。
再放送情報はこちらにもコメントいただいている「かしまし娘さん」のところで教えていただいたものです。貴重な情報は広めたかったので追記させていただきました。TB不調の件、恐縮です。私の「筆幸」の記事のコメント欄で六条亭さまの記事をご紹介させていただいていますm(_ _)m
★みゆみゆ様
>実際に見た舞台の舞台裏を見ることができ、とても興味深かったです......それです。冒頭に自分が観た舞台の時の映像が続いてぐいぐいと引き込まれてしまいました。仁左衛門さんとの「牡丹燈籠」の稽古場面は二倍美味しかったです(^^ゞ
★「薔薇・猫・映画・演劇・旅ファン」のhitomiさま
図書館に行く途中で遭遇した古本市をついつい覗いて掘り出し物を見つけて重たくなってしまい、図書館をやめてしまったことがあります。『演劇界』の古いので昭和の三之助の対談の載った号もGETしてあります。
★かしまし娘さま
貴ブログの再放送情報、有難うございますm(_ _)mせっかくこんないい番組なので見逃した方に是非是非観ていただきたいと思い、私の記事でも宣伝させていただきました。それで再放送を観ていただく方がいたようなので、本当に感謝、感謝です。
(注)かしまし娘さんの記事は名前をクリックすると読んでいただけますのでご紹介m(_ _)m
すっかり遅くなりました♪ (かずりん)
2008-02-04 20:36:36
TBありがとうございました。
さすが~~の書きっぷり♪ぴかちゅうさま♪
それにしても、私もびっくりしました。
あの「美」の影にはもの凄い努力があったのですね~。
・・・で、こちらでご紹介されてた玉さまのブログに
行かせていただいたのですが、
読み応えありあり♪・・・ちょいと真剣に読みふけってみようと思います。
・・・惚れたらどないしょう~~♪

コメントを投稿