ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

11/05/08 新橋演舞場歌舞伎(1)幸四郎の二役で「敵討天下茶屋聚」

2011-05-16 23:59:13 | 観劇
昨年に続き「團菊祭」は大阪松竹座での開催となり、新橋演舞場五月大歌舞伎公演は幸四郎・吉右衛門兄弟の座頭公演。それぞれの特別チラシ・ポスターもつくって気合が入っているようだ。
冒頭の写真は昼の部の「敵討天下茶屋聚」で二役をつとめる幸四郎の安達元右衛門の扮装。狂言の下敷きとなったのは慶長14年の>「天下茶屋の仇討」(Wikipediaの項はこちら)。
5/8に観たが、予想よりも面白かった。
【敵討天下茶屋聚(かたきうちてんがぢゃやむら)】作:奈河亀輔 補綴:今井豊茂
あらすじと主な配役を公式サイトより引用、加筆。
西国の大名浮田家の忠臣早瀬玄蕃頭(段四郎)は、お家横領を企む家老岡船岸之頭(桂三)や東間三郎右衛門(幸四郎)の計略を察知し岸之頭を切腹に追い込むが、東間に闇討ちされて、重宝の色紙まで奪われてしまう。
玄蕃頭の子、伊織(梅玉)と源次郎(錦之介)の兄弟は、父の敵討のため行方をくらました東間を追って大坂の四天王寺へやってくる。供をしてきた家来の安達元右衛門(幸四郎)が東間の策略によって酒を強いられて禁酒の誓いを破り、泥酔して暴れ回ったので、伊織は元右衛門を勘当し、元右衛門の弟弥助(彌十郎)も兄弟の縁を切る。伊織の妻である染の井(魁春)と源次郎の許嫁葉末(高麗蔵)も同行していたが、葉末はここで行方不明となってしまう。
流浪の末、東寺近くの貸座敷で暮らすようになった伊織兄弟と弥助。そこへ東間方に寝返った元右衛門が按摩として上り込む。元右衛門は弥助に旧悪を詫びて金をめぐんでもらうが、色紙を買い戻すために染の井が身を売った聞いた様子を戸棚のうちで聞き、夜中にしのびこんで50両を奪い、弥助を殺害。帰宅した伊織の足を切りつけて逃げ去る。
その後、伊織兄弟は福島天神の森で貧窮の日々を過ごしてた。源次郎が留守のところへ元右衛門と東間が現われ、なぶり殺しにされる伊織。戻ってきた源次郎も襲われて川に投げ込まれるが、人形屋幸右衛門(吉右衛門)に助けられた。源次郎の敵討ちを助けることを約束した幸右衛門は、かどわかされていた葉末を助け、染の井を請け出し、東間一味の所在もつきとめた。幸右衛門ととも助力してくれる京屋萬助(歌昇)の手引きを受け、源次郎は染の井、葉末とともに元右衛門と東間を討ち、見事本懐を遂げるのだった。
その他の主な出演者は以下の通り。
奴腕助=錦吾、片桐造酒頭=歌六、坂田庄三郎=友右衛門、田楽師松阿=廣太郎、田楽師竹阿=廣松

公式サイトのみどころによると、「安達元右衛門は四世大谷友右衛門が工夫を凝らし、以後、多くの名優が演じ、練り上げられた役どころです。今回は、悪党ながら愛橋のある安達元右衛門と、悪の首領である東間三郎右衛門の魅力的な悪の二役を松本幸四郎が初役で勤めます。この二役を一人の俳優が演じるのは天保年間以来となる注目の舞台をご覧下さい」とのこと。
なるほど、当代の友右衛門とその子息がきちんと配役に組み入れられているのは、四世に敬意を表してのことだろう。

幸四郎が早替りで二役をつとめる舞台は、2003年11月に国立劇場で「天衣紛上野初花」の通しで河内山と直次郎を演じたのを観ている。二役を替わるのは、まぁ話題作りのためだろうという感じだった。ところが、今回の安達元右衛門と東間三郎右衛門の二役は全く違った。

幸四郎はミュージカルやストレートプレイでの舞台経験が長く、その分歌舞伎出演の積み上げが少ない分、どうしても歌舞伎ではニンにある役かそうでない役かで見応えが全く違ってしまうように思う。
三郎右衛門はニンにある役。仁木弾正で当たりをとった五代目幸四郎に敬意を表した黒子をつけてつとめていたが、実に不気味で立派だった。それを活かすように早瀬玄蕃頭を暗殺する場面で段四郎と、歌六の片桐造酒頭と二人で黒の着流し姿で笠をとって極まる場面も実に絵になっていた。

しかしながらこの芝居は座頭が元右衛門を演じることが多いようで、先代の勘三郎や二代目松緑はよかったらしい。幸四郎の元右衛門は、これまで「盲長屋」の道玄などを積み上げてきたのが生きたなぁ、頑張っているなぁとは思って感心したが、小悪党を一生懸命やっている感は否めない。この役だけでは主役としての存在感が不足だったかもしれない。
主の大事の時にありあわさずの大失態といえば、忠臣蔵の勘平は女でしくじり、こちらの元右衛門は酒でしくじる。心機一転のところを敵側に策略とはいえ酒を飲まされてまたしくじった。可哀想なヤツと思ってみていると、金に目がくらんでの盗みと弟殺しと転落。最後に善人でしたというモドリもなく、どうしようもないヤツままで敵討ちで殺されてしまうのだから、それを魅力的に演じなければならないというのはどうしてどうして難しい役だ。
幸四郎が二役をやるのは大変ではあるが、実はよかったように思う。三郎右衛門の大悪人と元右衛門の小悪党、この対照を一人二役で際立たせることで相乗効果が生まれ、これでこそ座頭役者としての存在感をきっちり示すことができたと思う。

さて、敵討ちをする側の兄弟の梅玉、錦之介がこれまたよかった。錦之介の前髪姿は実に美しいし、梅玉の伊織が弟を思う場面、返り討ちにあって無念に死んでいくところもせつない。この兄弟のコンビが今回の舞台のもう一方の要に思えた。高麗像の許嫁がきりっとした姿でニンにも合い、義姉の魁春ともども最後の仇討の場面も武家の女の白装束姿が舞台を引き締めていた。
源次郎の敵討ちを助ける幸右衛門に吉右衛門がつきあい、敵討ちの手引きの場面は京屋萬助にバトンタッチしたのは歌昇の出番をつくるためだろう。本筋と関係ないところで役者の出番を作り出してしまうのは歌舞伎の融通無碍なところだとまたまた感心(笑)

元右衛門が先に討ち取られ、早替り(身代わりの役者は仰向けに倒れながら顔がよく見えないように上げているのが大変そう)。替わった後の三郎右衛門との立ち回り。最後に敵味方が舞台に並んで手を付き、座頭が「昼の部の狂言はこれぎり~」となるのは、歌舞伎らしい幕切れ。「お疲れさん!」とばかりに、明るく打ち出される。
昼の部が予想以上に面白く、得をした気分で満足、満足。

5/15に観た夜の部の感想を続けて書く予定。             


最新の画像もっと見る

コメントを投稿