Piano Music Japan

シューベルトピアノ曲がメインのブログ(のはず)。ピアニスト=佐伯周子 演奏会の紹介や、数々のシューベルト他の演奏会紹介等

続 なぜブラームスは D946 に終曲を加えたのか?(No.1658)

2009-06-26 15:37:56 | 作曲家・シューベルト(1797-1828
D946/1&2 について「曲名が無い自筆譜」が残っている原因を書いていたら1回分になってしまった。軌道を元に戻す


ブラームスが D946 を編集&出版した1868年になると既にシューベルトの主なピアノ曲は出版されていた。「完成されたピアノソナタ全曲」の他に「D840 レリーク」「D459+D459A 5つのピアノ曲」も出版済みだ。小品集では、

  1. 即興曲集 作品87(後に訂正される)D899前半2曲 → 1827年12月10日出版

  2. 楽興の時 作品94 D780 → 1828年7月11日出版

  3. 即興曲集 作品142 D935 → 1839年4月26日出版

  4. 即興曲集 作品90 D899全4曲 → 1857年12月20日出版


となっており、「シューベルトのピアノ連作小品集」の姿が楽譜から読み取れるようになって10年が経過していた。即興曲集作品90 の全貌が分かってみると

  1. 2曲で構成されている曲集は見当たらない(最低で4曲)

  2. 3集の内「2集が ハ調で始まり変イ調で終曲する(D780 & D899)


と言う特徴を備えているように見える。また1868年当時は

「変奏曲付きアンダンティーノ(ロ短調) と 華麗なロンド(ホ短調)作品84 D823


と言う連弾曲が「シューベルトの生前に出版」されていたことになっていた。この D823 が さらに1楽章前にあり、ホ短調 → ロ短調 → ホ短調 になっていることが判明するのは、旧シューベルト全集出版まで待たなければならなかったのである。
 そんな時に「シューベルトのピアノソロ曲が外見的には3曲」ブラームスに寄せられたのだ。


 1868年当時は「紙とインク」で作曲年代を決定する手法などまだまだ全く芽も出ていなかった。

D946/3 自筆譜は作曲年月を記入していない。「冒頭楽章の可能性が低い」ことは推定


される。中間楽章か終楽章かは曲想次第だが、どうも終楽章のようだ。

D946/3 は D946/1&2 と紙が全く異なることから同一の作品とは断定できない


ことはブラームスは承知していた。そこで D946/1&2 の楽想を見る。

  1. D946/1 → 冒頭楽章確定

  2. D946/2 → 中間楽章の可能性が高い。D780 と D899 からすると終楽章でも不思議では無い


が普通の感覚であろう。そこで試しに D946/3 を試しに終楽章に据えて見る。

  1. D946/1 変ホ短調
  2. D946/2 変ホ長調(同主調)
  3. D946/3 ハ長調(短3度下の長調)

となり、D899 や D780 に近い形となる。詳細を述べると、D899 と D780 の終曲は「長3度下」なのだが、変ホ短調から長3度下の調性は「ロ長調」「ロ短調」になり、「減4度」となってしまう。ブラームスから見れば小さな誤差の範囲だったと推定される。

ブラームスは D946 を「3つの小品」として世界初版


を判断する。1868年当時の資料分析からして特に悪い判断とも思えない。「シューベルト生前のウィーン楽譜出版社」と同程度のいじり方だと感じる。


 ブラームスが「3つのピアノ小品」の形で世界初版を出したおかげで、1951年に ドイチュが「シューベルト主題作品目録」を出版するまで、これらの曲は3曲まとまって作曲されたモノと信じ込まれていた。ドイチュが目録を出版してからでさえ、別の作品の可能性を支持した楽譜は出版されて来なかった。
 ベーレンライター新シューベルト全集は「D946/3 がどの曲集に属しているのか? または 単独曲なのか?」については明示しないモノの

D946/3 は1827年作品で、D946/1&2 は1828年5月作品 と序文で明記した


但し、D946/3 の「先行する楽章群の行方」がわからないので、旧シューベルト全集と同じく3曲まとめて出版した。D459A もそのオリジナル型がはっきりしないので、旧全集の曲順でそのまま掲載されているのと同じ扱いだ。


ブラームスは1人でも多くの人に、1曲でも多く、素晴らしいシューベルトピアノ曲を知ってほしい


と願って3曲出版したのだ。その後150年近く、「ブラームス校訂楽譜通りの演奏」だけを強要したわけでは無い。
 20世紀後半に ドイチュ や デュル の研究が進み、別作品と判明してから以降も、

内田光子の暴言「ベーレンライター新シューベルトは間違っている。D946/1 の第2エピソードを削除した楽譜など、全集の名に値しない」


により、佐伯周子 以外は誰も使用していないようだ(爆

ベーレンライター新シューベルト全集の「D946の扱い」 = ロンドン王立音楽院版の扱い


である。内田光子のお膝元の権威ある楽譜なのだが、なぜか王立音楽院版には暴言を吐かない内田光子。 やはりベーレンライター新シューベルト全集を「黄色い廉価版」で購入したことに起因する大錯覚なのだろう!!!
 新バッハ全集、新モーツァルト全集 などに親しんでいらっしゃった方ならば、お解りの通り、新全集に拠って解明されて来たことは余りに多い。シューベルトファンならば、是非 新シューベルト全集でシューベルトを楽しんで頂きたい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする