パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

常盤新平の「たまかな暮らし」

2013-06-23 | book
常盤新平(ときわしんぺい)の『たまかな暮らし』を読んだ。常盤は、早川書房に入り、編集長として活躍。そして、1969年昭和44年に退社し、翻訳家、エッセイシストなどとして文筆家の道を進む。残念なことに、2013年今年1月に81歳でこの世を去る。

その彼を書評で知り、1997年から2003年まで季刊雑誌に連載していた「四季の味」をまとめたのが、この本だ。2012年6月発刊。なんと心にまた、胃袋に染み入る作品なのだ。26の作品からなる。東京の出版社に勤める中村悠三27歳と、三軒茶屋で母が営む小料理屋の娘やよいの暮らしを軸に、東京の四季と食、離婚した65歳の父、定年を迎えた啓吾とのふれあいを描く。

蕎麦やカレーライス、鰻など、外食するつつましい贅沢と、やよいの母が作る家庭料理の数々。それが悠三の唯一の趣味である歳時記と東京の景色の3つが重なり合い次々に登場する。

そのあきない語り口、常にたまかな(東京弁の質素を意味)を意識した2人の言動。父と子のありがちな距離感。四季で移り変わるやよいの着物姿の描写。ああこんな暮らしがいいなあ。そういえば、悠三ではなく、啓吾の目線でこの物語を追っているのに気付く。

最後の作品の最後に出てくる「ただ食べるだけなら必要を満たすだけだが、おいしく食べるのは芸術だ」が、暮らしぶりの一つの価値観を提言する。人の幸せとは何か。食もその瞬間を生きる行為。四季も読書もそうだ。そこに貫かれる「つつましい暮らし」がいい。刹那だから人は感動し、大切にしたいと思い、いとおしく感じるのだ。しかし、また、読んでみたくなる作家に出あえた。これだから読書はたまらない。

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