パンダ イン・マイ・ライフ

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音楽と本、そしてちょっとグルメなナチュラルエッセイ

清張短編 駅路

2019-02-10 | book
松本清張は、ご存じ日本の社会派ミステリーの第1人者。昭和28年に「或る『小倉日記』伝」で芥川賞を受賞。その後の精力的な文筆活動は、清張全集の多さからも知る事ができる。学生時代に、知人の影響もあり、カッパノベルズを読み漁った。

「駅路」は、定年退職をモチーフにした短編。昭和35年8月に週刊誌に掲載された。定年から1年が過ぎようとしている。「駅路」を含め、清張全集の37巻、短編3は、昭和32年から35年に書かれた25篇が入っている。

高校出で銀行に入り、35年勤め上げ、営業部長で定年退職をした小塚貞一。趣味は写真と旅行という彼が、東京を離れて遊んで来るといって家を出てから30日が経っていた。そのような長い時間家を空けたことがないので、妻の百合子が家出人捜索願を所轄署に出した。子どもは、役人で去年結婚した長男と、今年商事に就職した二男という冒頭の下りで、貞一の真面目で努力家の性格と、不足の無い家庭事情が明らかにされる。銀行関係者から次の職場を紹介されたが、好きな旅でもしてゆっくりしたいというコメントも挿入されている。

貞一の家へ出向き、妻の百合子と面会する刑事。ベテランの呼野と若い北尾という設定。妻の百合子の印象を冷たい感じがすると感想を書き記す。

そして今回の旅行に持ち出した金が80万円という高額なことが、そこに何かあるのではないかと読者を引き寄せる。
そして営業部長の前が名古屋支店長が2年、広島支店長が10年だったことが明らかにされる。趣味の写真アルバムも拝見し、書かれていた撮影日時も徹帳に控える呼野。

会社関係者への操作も真面目な貞一の一面をのぞかせる。しかし、大村という女性から貞一への度重なる電話が確認される。再び訪れた貞一宅。妻は家にも電話があっていたという。その応接間には貞一が好きで集めていたゴーガンの絵があった。ゴーガンは第2の人生を求めて南洋に住んだ人。呼野は、貞一が昔勤めていた広島に飛ぶ。貞一のアルバムに残された写真は景勝地ばかり。呼野は貞一の失踪と女性の存在を結びつける。

冒頭部分から綿密に散りばめられたディテールが一つにつながる。ベテランと若者というコンビの妙。積み上げられる事実が、読者を最後まで引きつける。

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