市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

【大同有害スラグ問題】・・・“スラグにアスファルトでフタすることは違法”と断じた判決文について考察

2020-08-13 23:16:00 | スラグ不法投棄問題

■2020年8月6日の上毛新聞に『スラグ撤去請求権行使せずは「違法」 渋川市行政訴訟 前橋地裁判決』という見出しの報道がありました。スラグの撤去という観点から見れば、全面勝訴というべき判決文が当会に情報提供されましたので、判決内容を見ていきましょう。


畑の中にある渋川農道のアスファルトでフタをする以前の様子。40ミリの大きさに砕かれた生一本スラグが敷砂利されている。畑の中に天然石以外の敷砂利をするのはいかがなものか、と心配するお役人様はいなかったのだろうか?

 この事件の判決に関する新聞報道はこちらです。↓↓
○2020年8月6日:【速報】大同有害スラグ報道・・・スラグにアスファルトでフタすることは違法判決!
https://pink.ap.teacup.com/ogawaken/3186.html


■判決文は、長文のうえ、しかも読みにくいので、当会で先にポイントを列挙してみたいと思います。

 まずはこの事件について、概要として押さえておきたい事項は次のとおりです。

①スラグは群馬県廃棄物リサイクル課が認定した産業廃棄物である。

②平成19年に渋川市の農道に大同スラグが敷砂利された。

③平成19年当時は、大同特殊鋼が直接スラグを建設業者や渋川市に販売する形式であった。

④このスラグは渋川市の調査で環境基準を上回れるフッ素が検出され、しかも直下の土壌まで汚染されていた。

⑤このような状況の中、スラグにアスファルトでフタをする工事が行われた。

⑥渋川市は大同特殊鋼と渋川市の工事において使用されたスラグに関する調査・撤去・処分・復旧工事等(以下処理という)について基本協定書を締結していた。末尾資料参照


■次に、この渋川農道スラグ裁判・判決文における司法判断のポイントを列挙します。

(1)渋川市と大同特殊鋼との間で締結された基本協定書には、スラグの処理はスラグに関する調査・撤去・処分・復旧工事等とあるので、被覆はスラグの処理ではなく基本協定書の処理を怠っているのではないか、とする訴えは却下された。

(2)スラグは土壌ではない。砂や石といった土壌とは区別されるべきものである。

(3)渋川農道のスラグからは土壌汚染対策法における溶出量基準及び環境安全品質基準における含有量基準をいずれも超過したフッ素が検出されており、産業廃棄物に該当するとして、裁判所も群馬県廃棄物リサイクル課同様に大同スラグを廃棄物に認定した。

(4)渋川農道のスラグは市道の客観的価値を減じて公有財産を毀損させること、つまりスラグは市道の所有権を侵害していること。

(5)スラグをばら撒いた者や排出者の大同特殊鋼に撤去を求めなければ、スラグの処理に関して渋川市の負担すべき金額が増大することが必至であること。

(6)渋川市はスラグを排出した大同特殊鋼に対し市道の所有権に基づく撤去請求権を有すること。

(7)渋川市は、渋川市の事務を自らの判断と責任において、誠実に管理し執行する義務を負担し(地方自治法138条の2)、渋川市の財産については、常に良好の状態においてこれを管理する義務(地方財政法8条)を負っているので、スラグの撤去請求権を行使しないことは違法であること。

(8)渋川市と大同特殊鋼との間で結ばれた協定書によりアスファルトでフタをする被覆工事をしたとしても市道の所有権に基づく妨害排除請求権を行使しないことは正当化されない。つまり、協定書の撤去以外のスラグ処理は違法であること。

(9)国土交通省と群馬県県土整備部そして渋川市で組織された鉄鋼スラグ連絡会議のスラグ対応方針に従ってスラグを存置しても、市道の所有権に基づく妨害排除請求権を行使しないことは正当化されない。つまりスラグを撤去しなければ違法であること。


■ざっと判決のポイントを列挙してみましたが、この判決により渋川市に限らず群馬県、また国なども所有地に依然としてスラグを存置している状況にあることは、所有権に基づく妨害排除請求権を行使しないことになり、地方自治法138条の2や地方財政法8条に違反することになるでしょう。

 なお、国の場合は地方自治法や地方財政法は適用になりませんが、国有財産法
第九条の五 各省各庁の長は、その所管に属する国有財産について、良好な状態での維持及び保存、用途又は目的に応じた効率的な運用その他の適正な方法による管理及び処分を行わなければならない。


群馬県が整備を進める上信自動車道には(株)佐藤建設工業がスラグを納入したり、工事を受注したり、多くの場所でスラグが使用されている。スラグの撤去を、スラグを投棄した(株)佐藤建設工業に請求しないのは大変問題だ!

それではおまたせしました、判決文をどうぞ。

*****判決文*****ZIP ⇒ 20200805_xo.zip
<P1>
令和2年8月5日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 山本有理
平成30年(行ウ)第10号 渋川市が産業廃棄物撤去請求等を怠る事実の違法確認請求事件
口頭弁論終結日 令和2年1月20日
            判         決
   群馬県渋川市赤城町津久田201-12
       原       告     角   田   喜   和
       同訴訟代理人弁護士     吉   野       晶
   群馬県渋川市石原80番地
       被       告     渋   川   市   長
                     高   木       勉
       同訴訟代理人弁護士     田   島   義   康
       被告指定代理人       萩   原   喬   史
       同             小   林   弘   朋

            主         文

1 本件訴えのうち,渋川市市道1-4265号線上に存在する大同特殊鋼株式会社排出に係る産業廃棄物について「渋川市の工事における大同特殊鋼株式会社の鉄鋼スラグ製品の処理に関する基本協定書」3条1項による措置を怠ったことが違法であることの確認を求める部分を却下する。

2 被告が,大同特殊鋼株式会社に対し,渋川市市道1-4265号線上に存在する同社排出に係る産業廃棄物について撤去請求をしないことが違法であることを確認する。

3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。

            事 実 及 び 理 由

<P2>
第1 請求
 1 主文第2項と同旨。
 2 被告が,渋川市市道1-4265号線上に存在する大同特殊鋼株式会社排出に係る産業廃棄物について,「渋川市の工事における大同特殊鋼株式会社の鉄鋼スラグ製品の処理に関する基本協定書」3条1項による措置を怠ったことが違法であることを確認する。
第2 事案の概要
   本件は,渋川市民である原告が,渋川市市道1-4265号線(以下「本件市道」という。)上に大同特殊鋼株式会社(以下「大同特殊鋼」という。)が排出した産業廃棄物である鉄鋼スラグが廃棄されている旨を主張して,渋川市の執行機関である被告に対し,地方自治法242条の2第1項3号に基づき,①被告が,大同特殊鋼に対し,本件市道上の上記鉄鋼スラグ(以下「本件スラグ」という。)の撤去請求をすることを怠る事実,及び②被告が,本件スラグについて,「渋川市の工事における大同特殊鋼株式会社の鉄鋼スラグ製品の処理に関する基本協定書」(以下「本件協定書」という。)3条1項による措置を怠る事実がそれぞれ違法であることの確認を求めた事案である。
 1 関係法令等の定め
  (1) 廃棄物処理に関する定め
   ア 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃棄物処理法」という。)2条1項は,廃棄物とは,ごみ,粗大ごみ,燃え殻,汚泥,ふん尿,廃油,廃酸,廃アルカリ,動物の死体その他の汚物又は不要物であって,固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く。)をいう旨を,同法2条4項1号は,産業廃棄物に該当するものとして,事業活動に伴って生じた廃棄物のうち,燃え殻,汚泥,廃油,廃酸,廃アルカリ,廃プラスチック類その他政令で定める廃棄物である旨をそれぞれ定める。

<P3>
   イ 廃棄物処理法施行令2条8号は,廃棄物処理法2条4項1号の政令で定める廃棄物に鉱さいが該当する旨を定める。
   ウ 廃棄物処理法3条1項は, 事業者は, その事業活動に伴って生じた廃棄物を自らの責任において適正に処理しなければならない旨を定める。
   エ 廃棄物処理法19条の5第1項は,産業廃棄物処理基準又は産業廃棄物保管基準に適合しない産業廃棄物の保管,収集,運搬又は処分が行われた場合において,生活環境の保全上支障が生じ,又は生ずるおそれがあると認められるときは,都道府県知事は,必要な限度において,本項各号に定める者に対し,期限を定めて,その支障の除去等の措置を講ずべきことを命ずることができる旨を定め,その対象者について,同項1号は,当該保管,収集,運搬又は処分を行った者等とする旨を,同項5号は,当該保管,収集,運搬若しくは処分を行った者等に対して当該保管,収集,運搬若しくは処分等の行為をすることを要求し,依頼し,若しくは唆(そそのか)し,又はこれらの者が当該処分等をすることを助けた者があるときは,その者とする旨をそれぞれ定める。
  (2) 土壌汚染に関する定め
   ア 土壌汚染対策法(平成29年5月19日法律第33号による改正前のもの。以下同じ。)1条は,この法律は,土壌の特定有害物質による汚染の状況の把握に関する措置及びその汚染による人の健康に係る被害の防止に関する措置を定めること等により,土壌汚染対策の実施を図り,もって国民の健康を保護することを目的とする旨を定める。
   イ 土壌汚染対策法2条1項は,この法律において「特定有害物質」とは,鉛,砒素,トリクロロエチレンその他の物質(放射性物質を除く。)であって,それが土壌に含まれることに起因して人の健康に係る被害を生ずるおそれがあるものとして政令で定めるものをいう旨を定める。
   ウ 土壌汚染対策法施行令(平成30年9月28日政令第283号による改

<P4>
正前のもの。以下同じ。)1条22号は,士壌汚染対策法2条1項の政令で定める特定有害物質としてふっ素及びその化合物が該当する旨を定め,土壌汚染対策法施行規則(平成29年12月27日号外環境省令第29号による改正前のもの。以下同じ。)4条3項2号ロは, ふっ素及びその化合物が,第二種特定有害物質に該当する旨を定める。
   エ 土壌汚染対策法6条1項は,都道府県知事は,土地が本項各号のいずれにも該当すると認める場合には,当該土地の区域を,その土地が特定有害物質によって汚染されており,当該汚染による人の健康に係る被害を防止するため当該汚染の除去,当該汚染の拡散の防止その他の措置(以下「汚染の除去等の措置」という。)を講ずることが必要な区域として指定するものとする旨を定め,同項1号において,土壌汚染状況調査の結果,当該土地の土壌の特定有害物質による汚染状態が環境省令で定める基準に適合しないことを,同項2号において,土壌の特定有害物質による汚染により,人の健康に係る被害が生じ,又は生ずるおそれがあるものとして政令で定める基準に該当することをそれぞれ定める。
   オ 土壌汚染対策法施行規則31条1項は,土壌汚染対策法6条1項1号の環境省令で定める基準のうち土壌に水を加えた場合に溶出する特定有害物質の量に関するものは,特定有害物質の量を同規則6条3項4号の環境大臣が定める方法により測定した結果が,別表第3の上欄に掲げる特定有害物質の種類の区分に応じ,それぞれ同表の下欄に掲げる要件に該当することとする旨を,同条2項は,土壌汚染対策法6条1項1号の環境省令で定める基準のうち土壌に含まれる特定有害物質の量に関するものは,特定有害物質の量を同施行規則6条4項2号の環境大臣が定める方法により測定した結果が,別表第4の上欄に掲げる特定有害物質の種類の区分に応じ,それぞれ同表の下欄に掲げる要件に該当することとする旨をそれぞれ定め,別表第3において,「ふっ素及びその化合物」に関する溶出量につい

<P5>
て「検液1リットルにつきふっ素0.8ミリグラム以下であること。」とする旨を,同規則別表第4において,「ふっ素及びその化合物」に関する含有量について「土壌1キログラムにつきふっ素4000ミリ・グラム以下であること。」とする旨をそれぞれ定める。
     また,鉄鋼スラグのうち,道路用鉄鋼スラグについては,日本工業規格(JIS)A5015が制定されており,同規格に定める環境安全品質基準(以下「環境安全品質基準」という。乙3の1,2)は,ふっ素の溶出量について1リットル当たり0.8ミリグラム以下,含有量が1キログラム当たり4000ミリグラム以下としている。
   カ 土壌汚染対策法7条1項本文は,都道府県知事は,前条1項(上記エ)の指定をしたときは,環境省令で定めるところにより,当該汚染による人の健康に係る被害を防止するため必要な限度において,要措置区域内の土地の所有者等に対し,相当の期限を定めて,当該要措置区域内において汚染の除去等の措置を講ずべきことを指示するものとする旨を,同条3項は,同条1項の規定により都道府県知事から指示を受けた者は,同項の期限までに,前項の規定により示された汚染の除去等の措置(以下「指示措置」という。)又はこれと同等以上の効果を有すると認められる汚染の除去等の措置として環境省令で定めるもの(以下「指示措置等」という。)を講じなければならない旨をそれぞれ定める。
   キ 土壌汚染対策法施行規則36条は,土壌汚染対策法7条3項の環境省令で定める汚染の除去等の措置は,別表第5の上欄に掲げる土地の区分に応じ,それぞれ同表の下欄に定める汚染の除去等の措置とする旨を,同規則39条は,別表第5の上欄に掲げる土地において講ずべき汚染の除去等の措置は,それぞれ同表の中欄に定める汚染の除去等の措置とする旨をそれぞれ定める。
 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨

<P6>
によって容易に認められる事実)
  (1) 当事者等
   ア 原告は,群馬県渋川市の住民である。
   イ 被告は,渋川市の執行機関である。
   ウ 鉄鋼スラグとは,製鋼過程で副産物として排出される鉱さいの一種である。(甲2)
  (2) 鉄鋼スラグヘの対応方針及び本件協定書の締結
   ア 群馬県,渋川市及び関東地方整備局で構成される鉄鋼スラグに関する連絡会議において,平成27年11月13日,大同特殊鋼渋川工場から出荷された鉄鋼スラグを含む材料の対応方針(以下「本件対応方針」という。)が,概要,次のとおり確認された。
   (ア) 鉄鋼スラグを含む材料が環境基準値を超過している施工箇所の対策
     a 管理者において将来にわたり管理できない施工箇所等については撤去を行う。
     b 上記a以外の箇所については,県環境部局の助言を得ながら表面被覆等を行う。
   (イ) 鉄鋼スラグを含む材料が環境基準値を満足している施工箇所の対策
     a これまでの調査の結果,直ちに撤去等が必要となるところはない。
     b 環境基準値を満足しているものの,スラグヘの経口・接触リスクが高いと考えられる小・中学校等の箇所については,県環境部局の助言を得ながら必要に応じて鉄鋼スラグを含む材料が表面に出ている施工箇所の表面被覆等を行う。
   (ウ) 鉄鋼スラグを含む材料を存置する場合の対応
     a 存置する工事の施工箇所については,県環境部局がリスト化し地下水の常時監視等を通じて,引き続き,環境への影響等について監視を行う。
     b 公共工事事業者としても,存置する施工箇所については,将来,修繕工事や占用工事等で該当箇所を掘削する場合は,県環境部局の助言を得ながら廃棄物処理法等の関係法令への適用状況を踏まえ適切に対応していく。
     (乙1)
   イ 渋川市は,本件対応方針を踏まえ,平成27年12月11日,概要,次の内容の本件協定書を取り交わした。
   (ア) 本件協定書1条は,工事で使用された鉄鋼スラグ製品の処理にあたり,大同特殊鋼の申出による費用負担について,基本的事項を定め,鉄鋼スラグ製品の処理を図ることを目的とする旨を定める。
   (イ) 本件協定書2条は,本件協定書を適用する範囲は,別添に示すとおりとする旨を定めており,本件協定書別添には本件市道が記載されている。
   (ウ) 本件協定書3条1項は,鉄鋼スラグ製品の処理については,渋川市の規定に基づき渋川市が施工するものとし,これに要する費用は,双方協議の上,合意した範囲で大同特殊鋼が負担することとし,詳細については,双方協議の上,個別の契約を別途締結するものとする旨を定める。
   (エ) 本件協定書3条2項は,今後,維持管理において発生する鉄鋼スラグ製品の処理に必要な費用の負担については,その都度双方が協議の上,個別の協定等を別途締結するものとする旨を定める。
     (乙4)
  (3) 本件市道の表面被覆工事までの経過
   ア 渋川市は,平成25年10月頃,市内の工事に使用されていた大同特殊鋼が排出した鉄鋼スラグを含む砕石から士壌汚染対策法及び環境安全品質基準を超える六価クロム及びふっ素が含有されていることが判明したため,これまで鉄鋼スラグを含む砕石が使用された工事箇所の調査を開始した。(甲1)
   イ 上記アの調査の結果,公有財産として渋川市が管理している本件市道上に存在していた産業廃棄物である本件スラグから土壌汚染対策法における溶出量基準及び環境安全品質基準の含有量基準をいずれも超過したふっ素が検出された。(甲1,乙8)
   ウ 渋川市は,本件市道の表面被覆工事(以下「本件工事」という。)を行うことを決定し,平成29年8月9日,大同特殊鋼との間で本件協定書3条1項に基づき,本件工事の費用負担について,大同特殊鋼が509万7600円を負担する旨の個別契約を締結した。(乙5)
   エ 渋川市は,本件工事についての入札手続を行い,平成30年1月12日,株式会社津久井工務店が落札し,同社は,その頃,本件工事を開始した。
  (4) 本件訴えに至る経緯
   ア 原告は,平成30年2月15日,渋川市監査委員に対し,本件工事は,有害物質である本件スラグを存置するものであり,違法である旨を主張して,渋川市監査委員が被告に対して①本件工事の中止を命ずること,及び②大同特殊鋼に対して本件スラグを含む渋川市内の大同特殊鋼排出に係る鉄鋼スラグの撤去を請求することを命ずることをそれぞれ求める旨の監査請求をした。(甲3)
   イ 本件工事は,平成30年3月30日に終了した。
   ウ 渋川市監査委員は,平成30年4月13日,上記アの監査請求のうち,②については監査の対象とならないとして却下し,①については理由がないとして棄却する旨の裁決をし,原告は,同日,監査請求結果の通知を受領した。(甲3)
   エ 原告は,平成30年5月11日,本件訴えを提起した。
 3 争点
  (1) 本案前の争点
   ア 大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求が財務会計上の行為に該当す

<P9>
るか(争点1)
   イ 本件協定書3条1項の措置が財務会計上の行為に該当するか(争点2)
  (2) 本案の争点
   ア 大同特殊鋼に対して本件スラグの撤去請求をしないことが違法か
   (ア) 大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求権の有無(争点3)
   (イ) 撤去請求を行わないことの違法性の有無(争点4)
   イ 本件協定書3条1項の措置を行わないことが違法か(争点5)
 4 争点に対する当事者の主張
  (1) 争点1(大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求が財務会計上の行為に該当するか)
   ア 原告の主張
     本件市道という公有財産上に,大同特殊鋼由来の産業廃棄物である本件スラグが搬入され,かつ,ふっ素による土壌汚染が現実化しているのであるから,本件市道の客観的交換価値が産業廃棄物により減じられて公有財産が毀損されることはもちろん,大同特殊鋼に対して本件スラグを本件市道から排除することを求めなければ,本件スラグの処理等に関して渋川市が負担すべき金額が増大することは必至であり,渋川市が損害を被ることになるのであるから,本件スラグの撤去を大同特殊鋼に対して求めず,これを本件市道に放置したままにする行為は,財産の管理を怠る行為に該当する。
   イ 被告の主張
     本件訴えが適法であるためには,大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求が財務会計上の行為としての財産管理に当たることを要するところ,鉄鋼スラグを含む材料を用いてした本件市道の施工箇所における対策は,行政財産の市道に対する環境保全という行政目的を実現するための行為であり,本件市道の財産的価値に着目し,その価値の維持,保全を図る財務

<P10>
的処理を直接の目的とする財務会計上の行為である財産管理には当たらない。
  (2) 争点2(本件協定書3条1項の措置が財務会計上の行為に該当するか)
   ア 原告の主張
     上記(1)アと同じ。
   イ 被告の主張
     上記(1)イと同じ。
  (3) 争点3(大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求権の有無)
   ア 原告の主張
   (ア) 廃棄物処理法3条1項の定める排出事業者処理責任原則は,廃棄物処理に関する公序を形成しているところ,不法投棄された産業廃棄物が存置された土地所有者は,廃棄物処理法の定める処理方法に従わない保管,収集,運搬又は処分に係る私法上の契約は公序良俗に反するものとして無効を主張できるため,当該廃棄物を排出した者が,所有権を侵害している者に該当する。
      そのため,本件スラグの排出者である大同特殊鋼が本件市道を侵害しており,渋川市は本件市道の所有権に基づく妨害排除請求権として,同社に対する本件スラグの撤去請求権を有する。
   (イ) 被告は,本件スラグが本件市道と付合している旨を主張するが,渋川市が依拠する本件対応方針は,廃棄物処理法に反する私設の廃棄物処理場を作り出して,廃棄物処理法に定める廃棄物処理場における管理と異なる粗雑な水準で有害廃棄物を管理するという法令違反行為を助長するものにすぎず,公序良俗に反する違法な行政措置であって,本件工事によっても,本件スラグが本件市道と付合したとはいえない。
      そもそも,本件工事は単に本件スラグが不法投棄された状態でその上部にアスファルト舗装をして覆ったものにすぎない。アスファルト舗装

<P11>
を剥がすことは,通常の道路補修工事でも容易に行われるものであり,それによって露出する本件スラグのなかに土壌に埋没しているものがあったとしても,その土壌ごと廃棄物処理法に従って処理するだけのことであり,実態としても本件スラグが本件市道に付合している状態ではない。
   イ 被告の主張
   (ア) 本件スラグは,本件市道に搬入され転圧を受けることによって土壌と一体化し,付合して渋川市の所有物になったのであるから,大同特殊鋼に対する妨害排除請求権の要件を満たさない。
   (イ) 本件市道の施工業者は,大同特殊鋼から本件スラグを買って,それを材料として施工したため,大同特殊鋼は,本件スラグの所有者や管理者ではなく,妨害排除請求の相手方とはならない。
      また,渋川市が大同特殊鋼から直接本件スラグを購入したとしても,両者の法律関係は,契約当事者間の問題であるため,物権の効力としての妨害排除請求権の問題は生じない。

  (4) 争点4(撤去請求を行わないことの違法性の有無)
   ア 原告の主張
   (ア) 本件市道に存在する本件スラグは,敷砂利として地表に露出した状態で施工されており,単なる道路という施設の一部分であって土壌ではなく,産業廃棄物が不法投棄されたままの本件市道につき土壌汚染対策法が考慮されることはない。
      そして,産業廃棄物である本件スラグについて,管理できるのは,法令上,廃棄物処理法に定められた廃棄物処理施設のみであって,本件工事をすることによって適法に本件スラグを管理することにはならないし,地下水モニタリングを行うことができるとしても汚染が確認された段階で手遅れであることからすると将来にわたり管理できない施工箇所

<P12>
である。
   (イ) 本件スラグがそのまま本件市道に残されていることにより,生活環境への支障が生じるおそれがある。廃棄物処理法は,健康被害等の具体的危険性など問題にしていない。
   イ 被告の主張
   (ア) 本件スラグは,土壌の上に敷かれ転圧を受けることにより土壌と一体化したと考えられることから,本件スラグヘの対応について土壌汚染対策法を適用することは合理性がある。
      そして,本件市道は,民有地と異なり,渋川市が造設して渋川市が管理している施設であることから,常時管理することができる上,本件市道の周囲で井戸を利用している住民が存在しないため,住民が地下水を経由してふっ素を摂取する危険性はない?もっとも,皮廣に接触する危険性があることを考慮して土壌汚染対策法に準じた工法の本件工事がされた。
      本件工事は,土壌汚染対策法等の関係法令及び本件対応方針からすると適正であり,そうである以上,大同特殊鋼に対して本件スラグの撤去請求をすることはできない。
   (イ) 廃棄物処理法19条の5第1項からすると,生活環境の保全上支障がなく,そのおそれがない場合には,同項に基づく命令の対象とはならず,そのまま管理することができる。
      本件工事は,土壌汚染対策法に基づく適正な措置であり,本件スラグに含まれるふっ素による人に対する健康被害を防ぐことができるため,生活環境の保全上支障及びそのおそれは認められない。
  (5) 争点5(本件協定書3条1項の措置を行わないことが違法か)
   ア 原告の主張
   (ア) 環境基本法4条は,同法3条において環境が人類の生存や人間の健康で文化的な生活に不可欠であること,環境が有限であること等を確認した上で科学的知見の充実の下に環境の保全上の支障が未然に防がれることを旨として行わなければならないとして,事後対応アプローチを排斥する基本理念を明らかにしている。
      上記の基本理念を,廃棄物処理法3条1項の定める排出事業者処理責任原則に照らして具体的に実行可能なものとしたのが本件協定書である。
   (イ) 本件市道上に本件スラグが存在し続けることは,廃棄物処理法に基づかない廃棄物の投棄の容認にほかならず,生活環境の保全目的に真っ向から反する行政行為である。
   (ウ) よって,被告は,本件協定書に基づき,渋川市が本件スラグを本件市道上から撤去することに要する費用負担を大同特殊鋼に求める協議を行う措置をしなければならない。
   イ 被告の主張
     本件スラグは,土壌の上に敷かれ転圧を受けることにより土壌と一体化したと考えられることから,本件スラグに対する対応につき土 壌汚染対策法を適用することは合理性がある。
     そして,本件市道は,民有地と異なり,渋川市が造設して渋川市が管理している施設であることから,常時管理することができる上,本件市道の周囲で井戸を利用している住民が存在しないため,住民が地下水を経由してふっ素を摂取する危険性はないが,皮膚に接触する危険性を考慮して,土壌汚染対策法に準じたエ法の本件工事がされたものである。
     本件工事は,土壌汚染対策法等の関係法令及び本件対応方針からすると適正であり,撤去工事の費用を求めることは,過度の請求であって大同特殊鋼も応じないため,本件工事の費用を請求し,これを回収した渋川市の措置には何ら違法性はない。

<P14>
第3 当裁判所の判断
 1 争点1(大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求が財務会計上の行為に該当するか)
  (1) 地方自治法242条の2に定める住民訴訟は,地方財務行政の適正な運営を確保することを目的とし,その対象とされる事項は,住民監査請求に係る法242条1項に定める事項,すなわち,「公金の支出,財産の取得,管理若しくは処分,契約の締結若しくは履行若しくは債務その他の義務の負担」,「公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実」に限られるのであり,これらの事項はいずれも財務会計上の行為又は事実としての性質を有するものである。そして,財務会計上の行為としての財産管理行為に当たるか否かについては,対象となる行為が,当該財産の財産的価値に着目し,その価値の維持,保全を図る財務的処理を直接の目的とするものであるかどうかという観点から判断するのが相当である(最高裁判所平成2年4月12日第一小法廷判決・民集44巻3号431頁参照)。
  (2)ア そこで本件を検討するに,原告の主張に係る大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求権は,渋川市の公有財産である本件市道の所有権による妨害排除請求権に基づくものであり,財産権にほかならないのであるから,上記撤去請求は,本件市道の土地としての財産的価値に着目し,その価値の維持,保全を図る財務的処理を直接の目的とする行為(権利行使)であると認めるのが相当である。したがって,大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求は,財務会計上の行為に該当するものというべきである。
   イ これに対し,被告は,前記第2の4(1)イのとおり主張して,本件スラグの撤去請求が財務会計上の行為に該当しない旨を主張するが,被告主張に係る施工箇所の対策のいかんが,物権的請求権である上記請求権の不発生を裏付けるものとはいえない以上,被告の上記主張は理由がないから採用することができない。

<P15>
 2 争点2(本件協定書3条1項の措置が財務会計上の行為に該当するか)
  (1) 原告は,本件スラグを本件市道に放置したままとする行為は,財産の管理を怠る行為に該当することから,本件協定書3条1項の措置は,財務会計上の行為に該当する旨を主張する。
  (2) しかしながら,原告が財務会計上の行為である旨を主張する本件協定書3条1項の措置は,渋川市が施工した鉄鋼スラグ製品の処理に要する費用負担につき,大同特殊鋼と協議を行い,個別の契約を締結するというものであり,財務会計上の行為として具体化したものとはいえないのであるから,本件協定書3条1項に基づく協議を行うことによって本件市道の財産的価値が維持ないし保全されるというものではなく,公有財産である本件市道の財産的価値に着目し,その価値の維持,保全を直接の目的とする行為であるとは認められない。したがって,原告の上記主張は理由がないから採用することができない。
  (3) よって,本件協定書3条1項の措置は財務会計上の行為に該当しない。
 3 争点3(大同特殊鋼に対する本件スラグの撤去請求権の有無)
  (1) 認定事実
    前記前提事実,証拠(認定に供した証拠は末尾に摘示)及び弁諭の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
   ア 本件の経緯
   (ア) 本件市道は,平成19年頃,大同特殊鋼が排出した鉄鋼スラグである本件スラグを含む砕石を敷砂利とする整備が行われた。(甲1)
   (イ) 渋川市は,平成25年10月頃,渋川スカイランドパーク第2第6駐車場補修工事の際,路盤材として使用されていた大同特殊鋼が排出した鉄鋼スラグを含む砕石に土壌汚染対策法及び環境安全品質基準の定める基準値を超える六価クロム及びふっ素が検出されたため,これまで施工した工事において使用された鉄鋼スラグを含む砕石の調査を開始した。

<P16>
      そのため,本件市道についても調査が行われたところ,土壌汚染対策法における溶出量基準を超過した検液1リットルにつき1.9ミリグラムのふっ素が,環境安全品質基準の含有量基準を超過した本件スラグ1キログラム当たり1万9000ミリグラムのふっ素がそれぞれ検出され,平成26年5月20日に上記検査結果が確定し,同年6月16日に渋川市議会市民経済常任委員会協議会に報告された。
     (甲1,乙8)
   (ウ) 渋川市は,平成26年6月17日,群馬県(環境森林部環境保全課)に対して上記(イ)を含む,鉄鋼スラグ砕石を使用した施工箇所に係る調査結果を報告した。
      報告を受けた群馬県は,同月26日,渋川市に対し,上記施工箇所から250メートル以内の住居・事業所における井戸の有無及び飲用井戸の有無に関する情報提供,県が実施する調査への協力,周辺地域で地下水汚染が確認された場合に調査範囲を拡大した情報提供等,住民に周知等を行う必要が生じた場合の協力を求めた。
     (甲1, 乙11,12)
   (エ) 渋川市は,本件市道を含む鉄鋼スラグ砕石を使用した施工箇所の周囲の井戸の有無等について調査を行い,平成26年7月22日までに本件市道の周囲250メートル以内に井戸を利用している住民が存在していないことを確認した。(乙12)
   (オ) 渋川市は,上記(エ)の調査結果から,本件スラグについて,住民が地下水を経由してふっ素を摂取する危険はないものの,皮膚に接触する危険性が認められること,本件市道は公有財産であり,将来にわたって管理が可能であると考えられるとの判断の下,本件工事の施工を決定し,平成29年8月9日,大同特殊鋼との間で本件協定書3条1項に基づき,本件工事に係る費用509万7600円を大同特殊鋼が負担する旨の個

<P17>
別契約を締結した。(乙4,5)
   (カ) 渋川市は,本件工事についての入札手続を行い,平成30年1月12日,株式会社津久井工務店が落札し,同社は,その頃,本件工事を開始した。
   (キ) 本件工事は,平成30年3月30日に終了した。
   (ク) 本件工事に係る請負代金は,本件工事施工中に設計変更が行われたことから,564万8400円に増額された。そのため,渋川市は,平成30年3月30日,大同特殊鋼との間で,本件工事に係る大同特殊鋼の負担する金額を564万8400円に変更する旨の変更個別契約を締結した。
      大同特殊鋼は,同年5月21日,渋川市に対し,上記変更個別契約に係る564万8400円を支払った。
     (乙4,6,7)
   イ 本件工事による変化等
   (ア) 本件スラグを含む砕石は,本件市道の土壌の上に敷砂利として散布されており,一見して土壌部分と区別できる状態で存在していた。(甲11)
   (イ) 本件工事は,本件市道上に敷設された本件スラグを含む敷砂利について,不陸整正の後,上から覆い被せる形でアスファルトによる舗装を行うというものであり,本件工事により,本件スラグは,現在もなおアスファルト舗装の下に存在し続けることになった。(甲11,甲12の1,2)
  (2) 検討
   ア(ア) 被告は,前記第2の4(3)イ(ア)のとおり,本件スラグが本件市道に搬入され転圧を受けることによって土壌と一体化し,付合して渋川市の所有物になったことから,大同特殊鋼に対する妨害排除請求権は認められな

<P18>
い旨を主張する。
    (イ) しかしながら, 前記第2の2(1)ウのとおり,鉄鋼スラグは製鋼過程で副産物として排出される鉱さいの一種であって,砂や石といった土壌を構成する自然物とは異なる物質であること,本件スラグは敷砂利として用いられているにすぎず,本件市道の土壌部分と区別することが可能であること(上記(1)イ(ア)),本件スラグからは土壌汚染対策法における溶出量基準及び環境安全品質基準における含有量基準をいずれも超過したふっ素が検出されており,これが商品価値の認められない産業廃棄物に該当すること(前記第2の2(3)イ,上記(1)ア(イ)からすると,本件スラ グが本件市道の土壌に付合したとは認められず,被告の上記主張は理由がないから採用することができない。
   イ(ア) 被告は,前記第2の4(3)イ(イ)のとおり,本件市道の施工業者が大同特殊鋼から本件スラグを購入し,それを材料として施工していることから,大同特殊鋼は本件スラグの所有者や管理者ではなく,妨害排除請求の相手方とはならず,また,渋川市が大同特殊鋼から直接本件スラグを購入したとしても,両者の法律関係は契約当事者間の問題であるため,物権の効力としての妨害排除請求権の問題は生じない旨を主張する。
    (イ) しかしながら,所有権に基づく妨害排除請求は,その所有権を侵害し,あるいは侵害するおそれのある物の所有権を有するものに限らず,現に存する侵害状態を作出した者もその排除の義務を負うものと解すべきであるところ(東京高等裁判所平成6年(ネ)第3321号,同第3499号・平成8年3月18日判決参照),上記(1)ア(ア)及び(イ)のとおり, 大同特殊鋼の排出した本件スラグが本件市道上に存在し,本件スラグにより本件市道の所有権が侵害されていることからすると,大同特殊鋼は,自身の排出した本件スラグにより本件市道の所有権の侵害状態を作出したというべきであり,所有権に基づく妨害排除請求の相手方になると認

<P19>
められる。また,渋川市と大同特殊鋼が契約当事者であるとしても,そのことは,所有権による妨害排除請求権に基づく撤去請求権の成否には何ら影響しないものである。したがって,被告の上記主張は理由がないから採用することができない。
   ウ よって,渋川市は,大同特殊鋼に対して,本件市道の所有権による妨害排除請求権に基づく撤去請求権を有する。
 4 争点4(撤去請求を行わないことの違法性の有無)
  (1) 地方公共団体の執行機関は,当該地方公共団体の事務を,自らの判断と責任において,誠実に管理し及び執行する義務を負担し(地方自治法138条の2),地方公共団体の財産については,常に良好の状態においてこれを管理する義務(地方財政法8条)を負っているところ, 本件全証拠によっても被告が大同特殊鋼に対して本件スラグの撤去請求権を行使しないことを正当化する事実は認められないのであるから,被告が大同特殊鋼に対し,本件スラグの撤去請求権を行使していないことは違法であるというべきである。
  (2)ア これに対し,被告は,本件スラグに対する対応につき土壌汚染対策法を適用することは合理性が認められるところ,本件工事は,土壌汚染対策法等の関係法令及び本件対応方針からすると適正である以上,大同特殊鋼に対して本件スラグの撤去請求をすることはできない旨,及び本件工事によってふっ素による健康被害を防ぐことができるため,廃棄物処理法19条の5第1項が定める生活環境の保全上支障及びそのおそれは認められない旨をそれぞれ主張する。
   イ しかしながら,被告主張に係る本件協定書に基づく本件工事は,いずれも公法である土壌汚染対策法及び廃棄物処理法における本件スラグの取扱いに関するものであり,本件対応方針も含めてこれらに適合するものであったとしても,それをもって,直ちに,既に発生している本件市道の所有権に基づく妨害排除請求権としての本件スラグの撤去請求権を行使しない

<P20>
ことが正当化されるわけではないのであるから,被告の上記主張は理由がないといわざるを得ず,採用することができない。
第4 結論
   以上によれば,本件訴えのうち,本件協定書3条1項による措置を怠ったことが違法であることの確認を求める部分は,争点5を検討するまでもなく不適法であるから却下し,被告が大同特殊鋼株式会社に対し,本件市道上に存在する本件スラグについて撤去請求を行わないことが違法であることの確認を求める部分は理由があるから認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法64条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。

    前橋地方裁判所民事第1部

      裁判長裁判官 渡邉和義

         裁判官 浅川浩輝

裁判官高橋浩美は,転勤のため,署名押印することができない。

<P21>
      裁判長裁判官 渡邉和義

<P22>

 これは正本である。

 令和2年8月5日
   前橋地方裁判所民事第1部
    裁判所書記官 橋 本 勇 一

                     前橋 11-027479
**********

■このように、渋川農道裁判では、スラグの撤去について実質的に、全面勝訴と呼ぶべき画期的な判決が下されました。この判決により(株)佐藤建設工業がばら撒いた大同特殊鋼の有害スラグが、地方公共団体が所有する土地にある場合には、撤去しないことそのものが地方自治法と地方財政法に違反することになります。

 群馬県民の皆様、そして市民の皆様、お近くの公有地に大同スラグがある場合には、是非撤去を申し入れてください。裁判所が「撤去しないことが違法」と言ってくれているのですから遠慮は要りません。

 もともと、有害物質が法令に違反してばら撒かれてしまっているのですから、毒を撤去するのは当たり前です。もちろん(株)佐藤建設工業でも大同特殊鋼(株)でも言いやすい方に“撤去させろ”で結構です。

 若い母親が安心して子育てができる故郷に群馬県を戻しましょう。ぜひご協力をお願いいたします。

 あとは、渋川市民の安全・安心な環境づくりのために、渋川市が大同特殊鋼の圧力に抗して、判決の言渡し日から14日間控訴せずに我慢できるかどうか、にかかっています。渋川市民のみならず、大同特殊鋼や東邦亜鉛のスラグ不法投棄に心を痛めておられる群馬県各地の皆様とともに、この行方を注視してまいりたいと存じます。

【市民オンブズマン群馬事務局からの報告】

※参考資料:渋川市と大同との基本協定
**********ZIP ⇒ 20151211asxo.zip
       渋川市の工事における大同特殊銅株式会社
       の鉄銅スラグ製品の処理に関する基本協定書

 渋川市(以下「甲」という。)と大同特殊銅株式会社 代表取締役社長(以下「乙」という。)とは、渋川市の工事(以下「工事」という。)において使用された乙が製造した鉄鋼スラグ製品(以下「鉄鋼スラグ製品」という。)に関する詞査、撤去、処分、復旧工事等(以下「処理」という。)について、次のとおり基本協定(以下「本協定」という。)を締結する。

(目的)
第1条 本協定は、工事で使用された鉄鋼スラグ製品の処理にあたり、乙の申し出による費用負担について、基本的事項を定め、鉄銅スラグ製品の処理を図ることを目的とする。

(処理の範囲)
第2条 本協定を適用する範囲は、別添に示すとおりとする。

(処理の施行及び費用負担)
第3条 鉄鋼スラグ製品の処理については、甲の規定に基づき甲が施行するものとし、これに要する費用は、甲乙協議の上、合意した範囲で乙が負担することとする。なお、詳細については、甲乙が協瞬の上、個別の協定等を別途締結するものとする。
2 今後、維持管理において発生する鉄銅スラグ製品の処理に必要な登用の負担については、その都度甲乙が協議の上、個別の協定等を別途締結するものとする。

(財産の帰属及び管理区分)
第4条 財産の帰属及び管理区分については、必要に応じて甲乙協議の上、別途定めるものとする。

(協定の変更)
第5条 本協定の内容を変更する必要が生じたときには、その都度甲乙協議の上、変更するものとする。

(協定の有効期限)
第6条 本協定の有効期間は、協定締結の日から各条項に定める寧務が完了する日までとする。

(情報公開)
第7条 本協定に係る情報公開については、渋川市情報公開条例によるものとする 。

(その他)
第8条 本協定に定めない条項または疑義が生じた事項については、その都度甲乙協議の上、定めるものとする。

 この協定の証として、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上、各自その1通保有する。

平成27年12月11日

          甲 渋川市石原80番地
            渋川市
            渋川市長 阿 久 津 貞 司

          乙 愛知県名古屋市東区東桜一丁目1番10号
            大同特殊鋼株式会社 代表取締役社長 嶋 尾 正
**********

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