市政をひらく安中市民の会・市民オンブズマン群馬

1995年に群馬県安中市で起きた51億円詐欺横領事件に敢然と取組む市民団体と保守王国群馬県のオンブズマン組織の活動記録

東邦亜鉛安中製錬所周辺のカドミウム汚染土壌の情報を地元住民に隠したがる群馬県農政に意見書

2013-08-06 23:12:00 | 東邦亜鉛カドミウム公害問題

■高濃度のカドミウムに汚染されたままとなっている東邦亜鉛安中製錬所周辺の土壌の除染問題は、東邦亜鉛が安中製錬所の操業を始めた1937年から地元住民を苦しめてきました。製錬所周辺に住む住民にとって、当初は、製錬所から年中大量に放出される亜硫酸ガスが生活を脅かしました。なぜなら、亜硫酸ガスを浴びた桑の葉をカイコに与えると水を吐いて死んでしまうからです。このため、養蚕が盛んだった同地域のダメージは深刻でした。また、それまで陸稲や麦類が豊富に収穫できた肥沃な畑地でしたが、製錬所が稼動を続けるにしたがって、次第に地力が低下していきました。しかしその時はまだカドミウム問題は顕在化していませんでした。農業に依存していた地元農家は次第に製錬所に近い痩せた農地に見切りをつけ、東邦亜鉛側もそれを見越して使い物にならなくなった農地をさらに叩いて買収し、次第に敷地を拡大するという構図が繰り返され、現在は約55ヘクタールもの土地が安中製錬所の所有となっています。

 この間、地元住民は決して黙っていたわけではありませんでした。しかし東邦亜鉛に抗議をしても、その前に役所や警察に通報され握りつぶされてしまいました。そして昭和40年代、日本各地で公害問題が噴出し、富山県神通川流域でカドミウム公害によるイタイイタイ病が注目されると、安中製錬所周辺の水田や畑地も広域で深刻な重金属汚染されていることがわかり、地元住民らの一部は賠償を求めて提訴しました。一部の住民にとどまったのは、東邦亜鉛がカネと脅しで地元住民らに分断工作を仕掛けたからです。

 様々な妨害にあいながらも、地元住民らは1972年に訴状を前橋地裁に提出し、1973年からようやく裁判が始まり。同年11月24日に第1回口頭弁論が行われました。その後、7年間裁判が続き、1980年12月16日に、第54回口頭弁論で結審し、1982年3月30日に、東邦亜鉛の故意責任を認め、賠償金7993万円の判決がおりました。ところが、東邦亜鉛はこの協議を拒否したため、同年4月12日に住民側が控訴し再び東京高裁で裁判が続き、1985年5月24日に東京高裁で和解勧告が示され、1986年9月22日に東邦亜鉛が住民らに4億5000万円を支払うことで、和解が成立し同日、「安中製錬所の公害防止に関する協定書」が成立したのでした。
 一方、安中製錬所周辺のカドミウム汚染土壌問題では、群馬県が1972年から1975年にかけて農用地土壌汚染防止法に基づき対策地域を指定しました。安中製錬所の南側の丘陵地帯に存する北野殿地区の汚染土壌をかかえる畑地等については、平成4年に区画整理方式による除染事業の推進が決まり、平成8年に公害防除準備委員会から改組された公害防除特別土地改良事業推進委員会の名の下に、これまで17年が経過しました。しかし、未だに何も除染対策が実行されておらず、その経緯も不明です。

 当会をはじめ、地元関係者の大半はその経緯がどうなっていたのかを知りません。そこで、行政と推進委員会との現在に至るまでの協議の推移が一体どうなっていたのかを確認すべく、当会は、平成25年2月15日付で、情報開示請求を群馬県に提出しました。

 平成25年3月22日に請求した公文書が開示されましたが、「推進委員会の会長の氏名」と「②土壌分析結果及び対策処方箋の検討について(技術支援課・農技センター説明)」のところが、全部黒塗りとされてしまいました。そこで平成25年4月23日に群馬県知事あてに異議申立を提出しました。すると、平成25年7月2日付で群馬県公文書開示審査会(第二部会部 村上大樹 会長)から実施機関である群馬県農政部技術支援課生産環境室農業環境保全係が同審査会宛に提出した理由説明書の写しが送られてきました。この経緯は当会の次のブログを参照ください。
http://pink.ap.teacup.com/ogawaken/1073.html#readmore

■同審査会からは、この理由説明書に対する意見書を平成25年8月5日(月)までに提出するよう通知があったので、昨日、次の意見書を窓口の県民センターに提出しました。

**********
                    平成25年8月5日
群馬県公文書開示審査会会長 様
(第二部会部会長 村上大樹)
               不服申立人 住所 安中市野殿980
                     氏名 小川 賢
          「意見書」の提出について
 このことについて、群馬県公文書開示審査会審議要領第7条第1項に基づく「意見書」を下記により提出します。(諮問第143号)
          記
1 開示請求公文書の特定について
 不服申立人は平成25年2月15日に、県知事に対して「平成25年1月17日東邦亜鉛公害防除特別土地改良事業推進本部役員会会長名で地元安中市北野殿住民に配布されたアンケート調査と事後湯経過表に関する次の情報。1」調査実施や結果取扱に係る安中市との協議経過。2)平成23年5月から国(環境省・農水省)に協議し、野菜類カドミウム国内基準の制定見通しのないことを確認した経緯と内容。3)7月21日の本部役員会で原型各構想での事業実施要望があったことを示す議事録」にかかる情報開示請求を行った。
 これに対して、平成25年3月22日、群馬県知事は、「公害防除特別土地改良事業推進本部役員会会長の氏名」及び「土壌分析結果及び対策処方箋の検討に関する担当者の発言要旨及び質疑応答の全部」を非開示部分とした。
2 群馬県情報公開条例における開示・非開示の解釈について
 知事は、住民が情報公開条例に基づき異議申立をすると、理由説明の際に必ず、本来開示を原則としているはずの条例の目的と運用の定義をもっともらしく記述する。
 今回も知事は、いつものように非開示の根拠として条例第14条を引用している。そして「会長名を非開示」とした理由について、同条第2号を持ち出し「個人に関する情報」を盾に、氏名を識別できるため、としている。
 また、「土壌分析結果にかかる役所職員の発言と質疑応答を非開示」として理由について、同上第6号を持ち出し「県等の機関が行う事務事業に関する情報」を盾に、公にすると事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるため、としている。
 これは、本来「原則開示」を基本とする条例の運用をゆがめており、失当である。
 「会長名」は個人を特定する情報だが、東邦亜鉛公害防除特別土地改良事業推進本部役員会は、安中市岩野谷地区及びその周辺の地域の地権者、耕作者らで構成される事業推進委員会という、土地改良事業の目的で、役所の都合で作られた組織であるから、同組織の会長命について、非開示にはなじまない情報である。
 また、「土壌分析結果と対策」は、まさに条例第14条第2項のただし書きのロに関わる重要な情報であるから、非開示に該当しない。
3 諮問庁の公文書を開示しない理由に対する意見
 群馬県知事は、「公害防除特別土地改良事業推進本部役員会会長の氏名」を、群馬県情報開示条例第14条第2号に基づき「個人に関する情報」であり「特定の個人を識別することができるもの」という理由で非開示とした。しかし、同事業推進委員会は地元関係住民で構成されているとはいえ、東邦亜鉛公害対策のため、行政と原因者企業が深く関与し、その運営と事業費には多額の公金と適正な技術ノウハウが投入されることになる。また、カドミウム等重金属汚染土壌により、地元住民は長年苦しめられており、生命、健康、生活及び財産を東邦亜鉛により一方的に侵害されてきている。このような状態にある地域にとって、公害対策という公益的な事業を実施するための組織の会長名が、公にできないという理屈はとうてい成立するはずがない。
 ここでもし百歩譲ったとして、氏名が「特定の個人を識別することができるもの」であるため非開示とされるなら、姓名のうち「姓」だけでも開示することはできるはずである。なぜなら、「姓」のみであれば、特定の個人を識別することはできないからである。とくに、地域では、集落ごとに同じ「姓」を多数の住民が使用していることから、特定の個人を識別できず、また同事業推進委員会の活動目的からして、個人の権利利益を害するおそれは全くないからである。
 群馬県知事は、「②土壌分析結果及び対策処方箋の検討に関する担当者の発言要旨及び質疑応答の全部」を、群馬県情報開示条例第14条第6号に基づき「群馬県が農用地土壌汚染対策計画の変更のために行った、土壌分析結果及び今後の試験研究の検討内容が記載されており、一定の期日以前に公にすることで、土地の評価額や事業費用の適切な算定に影響するなど、特定の者に不当な利益や不利益を及ぼすおそれがあるため。また、試行錯誤の段階で公にすることにより、利害関係者との調整や交渉に影響を与え、適切な対策計画の変更を行うことが困難になるおそれがあるため」という理由で非開示とした。
 知事はこのように、条例第14条第6号に該当すると主張しているが、同号のイからホのどれに該当するかについては明確に説明していない。
 同号のイからホに定められている内容は次のとおり。
 イ 監査、検査、取締り、試験又は租税の賦課若しくは徴収に係る事務に関し、正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし、若しくはその発見を困難にするおそれ
 ロ 契約、交渉又は争訟に係る事務に関し、県、国、独立行政法人等、他の地方公共団体、地方独立行政法人又は公社の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
 ハ 調査研究に係る事務に関し、その攻勢かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
 二 人事管理に係る事務に関し、公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
 ホ 県、国若しくは他の地方公共団体が経営する企業、独立行政法人等、地方独立行政法人又は公社に係る事業に関し、その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
 以上のように、知事は「当該事務事業の性質上、当該事務事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」と主張しながら、「重金属汚染土壌データの分析結果や今後の方針を公開、公表してしまうと、さまざまな憶測や風評などを生みかねず、農用地土壌汚染対策の推進に重大な支障を及ぼすおそれがある」としているが、それがイからホのどれに該当するのかを示していない。
 汚染土壌のデータの分析結果を非開示とする場合のほうが、むしろさまざまな憶測や風評の原因となるのは明らかであり、今後の方針についても、いろいろな対策方針のなかから最適なものを選ぶだけのことだから、憶測や風評など発生する心配は全くない。
 知事は理由説明書で「農用地汚染対策の推進には、安中市の汚染農用地所有者等、関係者の理解と協力が不可欠であり、十分な事前説明が求められる」と説明している。この観点からすれば、汚染土壌のデータや対策方針を非開示とすることで、余計、不十分な事前説明の状態を自ら作ろうとしているのである。すなわち主張していることと実行していることが逆になっている。
 こうした知事の対応や考え方が、安中公害が全国に知られた昭和40年代から既に半世紀が経過しようとしているにも拘らず、未だに原因者の東邦亜鉛の顔色ばかりうかがって、地域の公害被害住民らの目線で対応して来なかった結果、汚染土壌地が手つかずのまま放置されているという異常な状況が続いているのである。このことは、群馬県をはじめ行政側がいかに公害企業の立場にたった施策をこれまでしてきたかを如実に示していると言えよう。
 よって、知事は直ちに上記情報を非開示とした処分を取り消して、不服申立人に当該情報を開示しなければならない。
                    以上
**********

■当然開示されなければならない情報を不開示とされ、開示を求めて異議申立や住民訴訟を行うのは本当にバカバカしいことです。しかし、こうした非常識なことが常識として行政内でまかり通っている現状を変えるには、たとえいくらバカバカしいことでも、きちんと手続を踏みながら、行政を指導していく努力を続けていかなければなりません。さもないと、ますます行政側の横暴を助長させることになり、ひいては、納税者であり、主権者である住民の立場が弱められてしまうからです。

【ひらく会情報部】

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