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かりそめの旅

うるわしき 春をとどめるすべもなし 思えばかりそめの 旅と知るらむ――雲は流れ、季節は変わる。旅は過ぎゆく人生の一こま。

◇ 水の花 Water Flower

2006-06-29 02:31:49 | 映画:日本映画
 木下雄介監督 寺島咲 小野ひまわり 黒沢あすか 田中哲司 試写映画 2006年夏、ユーロスペース(渋谷)公開予定

 少女から大人になるのは、いつなのだろう。
 多くの少女や少年がその境目を感じることもなく、いつの間にか大人になるのに対して、くっきりと自覚的に、そのようなシチュエーションが訪れる少女や少年がいる。
 誰にも知られず、大人になる少女がいる。

 親が離婚したため、父親と暮らす中学生の少女美奈子(寺島咲)。少女の心の中には、母親に捨てられたという暗い思いがずっと根強くある。
 その母親と一緒に暮らしている、幼い小学1年生の優(小野ひまわり)。優には今、父親が不在だ。
 美奈子の母は、ちょうど美奈子が優と同じ年の頃、美奈子を置いて家を出た。母は新しい男と再婚し優を産んだが、再び結婚生活は破綻をきして、今は一人で優を育てていた。
 
 美奈子は、偶然に優を見つける。優は、夜のゲームセンターでひとりぼっちで遊んでいた。そっと、美奈子は優に近づいた。それは、鏡の向こう側にいる、かつての自分の姿だった。
 美奈子にとって、慕いと恨みの複雑な思いを抱かせ続けている母親。その母と一緒に住んでいる女の子が、今美奈子の目の前にいる。自分を捨てて母が選んだのが優だ。その幸せであるべき女の子が、決して幸せでないことが分かった「うちへ帰りたくないの」と呟いたひと言。
 母のいない少女と父のいない幼女の異父姉妹が、夜の街で出会い、誰にも告げずに一緒にその街を出る。着いた先は、東北の海辺の小さな田舎街。そこにある、少女が幼い時に育った祖父母の廃家で二人は過ごす。
 
 海を見たことがないという優を海辺へ連れてきて、戯れる二人。嫉妬と愛おしさが、波のように美奈子の心に打ち寄せる。少女の心も、波のように大きく揺れていたのだ。
 「美奈ちゃんは、本当は優を嫌いなんでしょう」と叫ぶ幼い優。
 美奈子は、答えることができない。と言うのも、優は美奈子のもう一人の自分だからだ。

 美奈子が、優に口紅を塗ってやる。かつて、美奈子が母にしてもらったように。その行為をなぞることによって、少女は母の心を知りたかったのだろうか。
 口紅を塗るという行為は、女性だけに受け継がれるものだ。男には分からない、不思議な行為だ。そうやって、女性は、女であることを意識していくのだろうか。

 海辺でのつかのまの二人の生活は、突然たわいもなく終わる。それは、まるで二人にとっては、夢のような日々だった。
 明日から、二人にはまったく新しい日々が始まる。二人は、あの日々をどう思い出すのだろうか。いつの日か、あの陽炎のような日々を、二人で語ることがあるのだろうか。

 少女から女になるのは、いつなのだろう。
 男にとっては決して分からない、少女の心と身体の移ろい。その瞬きにも似た儚い季節。

 24歳のこの映画の監督、木下雄介は、この不可思議で、もどかしい内面の変化を少し垣間見せてくれた。
 サナギが孵化しようとしているかのような少女、美奈子役の寺島咲。そして、初めて知る世界の不確かさに、あどけなくも対応する幼女役の小野ひまわり。
 ほかの誰でもない、代わりはいない、二人の幻のような存在感。この二人で、いやもっとはっきり言えば、二人の切なくも危うげな、二度とやって来ない短い季節で成り立っていると言っていい映画である。
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