10年前、定年になって故郷に帰ってきた。ローンを組んで建てたばかりの家を、他人に貸すこともなく10年間空けておいた。帰ってみると住んでいた訳でもないのに各所に傷みが出ている。自分で直せるものがほとんどであったが、その内の一つが障子紙の張り替えであった。
その後、2度目の障子の張り替えをしたことは覚えているが、果たしていつのことだったのか。盆明け孫が帰って行った後、和室の片づけをしていたら障子の破れに気が付いた。指で破ったのではなく、経年劣化で障子の桟に沿って水平に切れたように垂れている。大して気にもしていなかったが、色も当初の白さからほど遠く褐色がかっていて、部屋も暗く感じる。
天気もいい。障子の張り替えをすることにした。中庭に大小4枚の障子を持ち出し、刷毛で水を含ませて古い紙を剥いで行った。納戸に昔買った障子紙が置いてあることを覚えていた。出して見ると何ら問題はなさそだが紙を貼る糊がない。車は奥さんが乗って出かけている。仕方なく、炎天下を、麦わら帽子をかぶり自転車に乗って2㎞先のホームセンターに向かった。
糊を買い、家に向かって再び自転車をこいだが、さすがに暑い。汗が額から落ち始める。コンビニの前を通りかかったので「ここいらで一休みしよう」と思い中に入った。「白くま」という冷たいキャンディーを手にしてレジのカウンターに置いた。
40歳くらいの笑顔のかわいい女性店員が愛想よく出てきた。「これください」「はいっ、130円です。このキャンディーは何でか男性が良く買われるんですよ」と言う。「私もまだ男性ですかね?」と聞くと「はいっ、死ぬまで男性です」と言われ、2人して大笑いする。あまりの暑さのため「店の中で食べてもいいですか」と聞くと「入口の横にある椅子にかけてどうぞ」という。食べながらゆっくり休んでまた家に向かって自転車をこぎ始めた。
倒れそうな暑い中でも、見知らぬ同士が、ちょっとした会話で楽しくなり元気を盛りかえすことが出来た。こんな言葉のキャッチボール、あなたもしてみませんか。例え会話が滑っても、それはそれで冷たい空気が流れて、涼しくなること間違いありませんから。