雪遊び
雪遊びの場所は決まっている。広島県北の吉和町にある「魅惑の里」である。岩国から50km走ったところにある。30kmくらい走った辺りでチェインを巻く。雪の上を走る感触は、チェインの音もせず、なんだか雲の上を走っているような柔らかい感じがして僕は好きだ。
もう少し走ると辺り一面が雪景色に変わリ、魅惑の里に到着する。露天風呂のある保養施設であるが、平日、雪の降った日にはこんな所に来るお客さんは誰もいない。主人は独り占めの雪見風呂を堪能した後、広場で僕と遊んでくれる。
雪を丸めてボールにし、遠くに投げてくれるんだ。僕は深い雪の中をラッセルしながらそれを見つけに行くんだが、雪の中で雪のボールなんて見つけようがない。でも、そんなことよりも、体半分雪に埋もれて走りまわる快感、何度やっても楽しい遊びだ。しばらく走りまわると、小さな雪の玉が僕の体全体にものの見事にぶら下がる。さながらカーテンの裾にぶら下がっている白いボールのようである。
長い毛にしっかりと編み込まれたようになっていて、手でかき落とそうとしても取れるものではない。バスタオルを何枚も巻いて体温で溶かすしか方法はない。そんな厄介な遊びだったが、主人も僕も、誰の足跡もない雪野原で毎年、こんなことをして遊んだ。
2004年11月、僕が3歳半になったころ、主人はブログというものを始めた。そのブログのタイトルには「日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 愛犬のハートリーと共に瀬戸内の岩国から……」 と、僕の名前を前面に出している。はは~ん、主人は書くことがないときには、僕のことを書いてごまかそうとしているのだな、そんなことをうかがわせるタイトルのように感じたが、まあいい。
そのころ、主人は古い車だが、真っ黄色のロードスターというオープンカーを買って遊んでいた。ブログでのハンドルネームもロードスターという名前にしていた。この車の助手席に僕を乗せて、よくドライブにも連れて行ってくれた。垂れた長い耳を風になびかせながら、僕は主人と共によく風と遊んだものだ。