写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

孫の接待

2006年08月05日 | 生活・ニュース
 全国高校野球県予選で、毎年良いところまで行く母校も、ベスト8で敗退し、例年になく穏やかな気持ちで暑い夏を過ごしている。

 そんな中、広島の嫁の郷に帰省中である3歳になった孫が5日間やってきた。ハートリーともども趣向を凝らした接待に奔走した。

 まず図書館に行って、紙芝居を借りてきた。「またやって、またやって」と、毎晩、同じ出しものを幾度となくやらされた。

 広島県北にある、通称「西の軽井沢」に川遊びに連れて行った。薄緑色に澄んだ川に、まずハートリーが飛び込んだ。

 天性のうまさで5m向こうの岸まで犬掻きで泳いでいった。孫の手を引き、股下までの深みを渡っていくが、川底の丸い小石に足をすくわれ、手を引いている私がドボンと倒れる。

 下半身ずぶ濡れで、なんとか渡りきる。いつもは、しびれるような冷たさだと記憶しているが、今年の水温は少しぬるめだ。それほど冷たくない。

 ある朝、買っておいた網を持たせ、蝉をとりに裏山に向った。例年この時期、うるさいほど鳴く蝉の声が、家にいても今年はそれほど聞こえてこない。

 山に入っても所々からしか、鳴き声が聞こえてこない。子供のころは、ここかしこの木にとまっている蝉を、そっと近寄り片手のひらで押さえ込むほどいたものが。

 蝉の数が極端に減っている。何十年ぶりの蝉とりでこんなことを感じる。やっと松の木の高いところにとまっているのを見つけた。

 網を孫から引き取り、爪先立って手を伸ばして生け捕りし、笹の葉の生えた斜面に網を伏せた。

 「やった、とったぞ」と言った瞬間、隙間からものの見事に逃げられた。孫は口を開けて飛んでいった方をぽかんと見ている。

 爺の面目丸つぶれのまま、やぶ蚊にさされた腕を掻きながらひとまず退散した。まだ蝉を手にとって見たことのない孫は、私に課題を残したまま、広島に帰っていった。

 盆にはまた来るという。今日から毎日蝉取りの特訓をし、捕まえておいたやつに糸でもくくりつけ、山の松の木に結んでおくとするか。

 川の水温は上がり、山の蝉は少子化の影響か非常に少なくなっている。変わり行く環境の下、蝉がとれないと言っても、所詮せみなきことではある。
   (写真は、大掛かりな裏山での孫との「蝉取り」)