写真エッセイ&工房「木馬」

日々の身近な出来事や想いを短いエッセイにのせて、 瀬戸内の岩国から…… 
  茅野 友

コイン精米

2006年01月14日 | 生活・ニュース
 米にこだわりのあるうちの奥さんは、山奥の店でいつも玄米を買ってくる。必要になった都度、精米をして食べている。

 精米した米が底を突いた。スーパーの横に設置してある「コイン精米」にいってくるよう頼まれた。

 5kg入りの玄米を持って車を走らせた。寒いのに、入り口の戸を開けたまま、中年のご婦人が精米中であった。

 「こんにちは」と明るく挨拶をし「寒いので入らせてくださいね」といい、狭い小屋の中に入った。婦人は10kgを2袋持ってきている。
 
 田舎の親戚から、毎年送ってもらっているという。「精米直後のお米は味が違いますからね」ともいう。

 運転中の精米機の操作パネルを見た。100円の投入孔の横に、精米の程度を選ぶボタンが「上白・標準・7分」と3段階ある。

 その婦人は、「上白」を選んでいた。「やっぱり、ぬかの少ない上白が1番おいしいですよ」と教えてくれる。

 家を出るときうちの奥さんから「標準でいいから」と言われていた。先客の精米が終わった。さあ、私の番だ。

 私もひと通りの操作方法は分かっているが、このご婦人はそばに立って逐一指導してくれる。「ここにお金を入れて・・・」「次は、上白のボタンをを押して・・・」

 私は世間知らずの色白の幼い少年のように、ご婦人の言うままに「分かっています」とも言わず、素直に「上白」のボタンに人差し指を持っていった。

 その時、うちの奥さんの顔を思い浮かべた。指示されたこととは違うことを、やろうとしている。「それでいいのか?」という気持ちが沸々とする。

 しかし、過剰な親切心から、私に付きっ切りで指導してくれているご婦人に、逆らうことも出来にくい雰囲気である。

 私は素直に「上白」のボタンを強く押した。「グゥア~ン」と、精米機が回転を始めたのを合図に、このご婦人は笑顔で挨拶をして出て行った。

 意に沿わない、身にあまる上白米が出てきた。家に帰り、事の顛末を妻に話した。栄養学的には「標準」のほうが良いのに・・・と妻が一言。

 上白米を体重計にかけてみた。4.6kgであった。400gがぬかになっている。量にこだわる訳ではなく、失われたビタミンが気になって量ってみた。

 それにしてもあのご婦人、教祖のような人だった。私は、抵抗することなく、言われるがままに行動したのだから。あなかしこあなかしこ。
   (写真は、教祖とであった「コイン精米機」)