俺の明日はどっちだ

50歳を迎えてなお、クルマ、映画、小説、コンサート、酒、興味は尽きない。そんな日常をほぼ日替わりで描写

「わたしを離さないで」 NEVER LET ME GO

2011年06月05日 20時08分18秒 | 時系列でご覧ください

幸いなことに予告編を一度も観ることなく、あらすじどころか、物語の設定も、ましてやカズオ・イシグロが原作であることすらも知らず、すなわち全く予備知識なく魅力的なキャスティングだけで観てしまったのが功を奏し、思わずどんどん、どんどん物語に惹きこまれてしまった一作。


形の上では、SFの範疇になるのだろうけれど、時代設定が1970年代から1990年代にかけてという、リアリティといった意味では本来なら近未来に設定するべき内容に対して、敢えて近過去に設定している分、逆にリアリティを感じさせられるこの作品、前半のいかにも英国映画だと感じさせられる寄宿舎での数々のシーンに思わず心奪われてしまった。


そしてそこで繰り広げられる三人の主人公の(よくぞというくらいよく似た子役を使っての)淡い恋物語はその後の残酷な展開への予兆すら感じたくないほど、心ほのぼのさせられたのも束の間、その後の成長した彼らに訪れる容赦のない現実。


敢えてここではその内容は書かないけれど、人と人との繋がりや生きること、抗えない運命、あるいは先端科学の倫理観など、多層的にテーマを捉えられるこの作品、英国らしいどこか郷愁を感じさせるロケーションと独特の沈んだトーンの映像の中に、何とも言いようのない不穏な空気感を感じ、全体的にひしひしと迫ってくる緊張感と寂寥感が最後の最後まで貫かれ、その諦観とも取り得る救いのない物悲しさによって決して後味の良い映画ではないが、心に深く印象付けられる、そんな作品だった。


それにしても限りある世界を生きる主人公を演じた3人の役者たちの見事な演技の素晴らしいこと。
特に前作「17歳の肖像」同様の時代設定の中、様々な抑圧の中、自我を確立した芯のある少女に扮し、瑞々しい演技を見せてくれたキャリー・マリガンにまたしても釘づけ。
加えて、校長役のシャーロット・ランプリングの存在感にも思わず圧倒されたのでありました。


ということで、多分見る人の考え方に大きく評価が別れるであろうこの映画、限りなく事前情報を排除しての鑑賞を強くオススメなのであります。



今日の1曲 “ Never Let Me Go ” : Judy Bridgewater 

歌っているのは架空のミュージシャンらしいけれど、繰り返し聴くうちにいつの間のか心に入り込んでくるこの曲、まるで「17歳の肖像」の中で流れてもおかしくないノスタルジックな佳曲であります。



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2 コメント

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あの目が凄い (エージ)
2011-06-06 20:03:01
おお、ついに観られましたか。イングランドに住んでおられたので、この映画独特の雰囲気、切なさが私よりもよけいに胸に刺さった事だと思います。
マリガンちゃん、彼女の哀愁を帯びた目が忘れられず数日間うなされました。本当にいい女優さんですね。
ただ、いっそのことこのまま車で二人逃げりゃいいのにと・・・・・つっこんでしまった。悲しい。
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◇エージさんへ (nikidasu)
2011-06-07 02:02:39
英国らしい独特の空気感がスクリーンから伝わって来て、
それだけでも満喫させてもらいました。

そしてキャリー・マリガン嬢!
ますます見事な女優さんぶりを発揮してくれていて、
思わず嬉しくなってしまいました。

二人で逃げることも確かに不可能ではなかったはずなんだけど、
そうした決められた運命に抗うことなく従う二人の姿が、
だからこそ切なくなってしまいました。
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